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B2B営業スタンダード 営業アドベント特別編:売れる営業は逆立ちして鏡を見てる

「逆立ちして鏡を見てる?」なんのこっちゃという感じだろう。
私はキーエンス、SAP、OPENTEXT、freeeと4社で様々な営業マンを見てきた。尊敬するようなスゴイ営業マンはそれぞれにいたが、営業スタイルはみんな違う。
そんな中、共通してると感じたのは「逆立ちして鏡を見てる」という事だ。天才的な営業マンは自然と感覚的にこれが出来ているが、凡人の私もこれに気づいて意識するようになってから提案に迷うことがなくなった。

今回の内容はすぐ使えるテクニックというより考え方の原理原則に近い。かつての私のように「定型的な営業トークやヒアリングは得意だが、お客さんに合わせて内容を変えたり応用するのが苦手」そんな営業マンには是非最後まで読んでほしい。

大前提として、私が一番重視しているのは自分の提案するものがお客さんにとって本当に価値があるかという事だ。一方、自分のリソースは有限ですべてのお客さんに価値を届けることは出来ないので、一件あたりの商談に投下するリソースは最小を目指して(かつ効果は最大を目指して)、出来るだけ多くのお客さんに価値を届けたい。

このお客さんにとっての価値の最大化と、商談一件あたりの効率化はうまくバランスをとる必要があるが、同時に考えると複雑になり書ききれないので、今回は単純化していかに受注するかにフォーカスして書く。

🔸逆立ちする

前回、伝え方、構成テクニックについて書いたこちらのnoteでPSSという手法を紹介した。

これはオープニングで打ち合わせ目的を合意し、プロービングでニーズをヒアリングし、サポーティングで解決策を提供し、クロージングでお互いのアクションを合意するという順に商談を展開していく手法である。

この手法をもとに早速「今日はどんな提案にしよう」、「ヒアリングでは何を聞こう」と考え始めるのはよくない。
スタートから考えると、相手の回答によりパターンが無数に広がってしまい想定しきれなくなる。

逆立ちしてゴールから考えてみよう。
ゴールが明確になっていれば、ゴールに向かうための判断軸が出来るので、どんな答えや質問にも迷うことがなくなる。

お客さんが契約しようと思う条件は何か?

①導入したら確実に投資したコスト以上の成果がでる
②その成果は競合製品や代替品導入と比較して最大である
③導入するための資金余裕がある

もし、この3つが達成できたらお客さんは絶対契約するとしたら、その達成を目的に提案を構成していけばいい。

③に関してはコントロールが難しいので、出来るだけ早めに見極めて今継続して提案し続けるのか判断する。なければ別の予算を使える可能性があるのか、どんな条件ならその予算を使えるのか、確実に無理ならいつなら資金が出来るかを確認して今は提案しないほうが、お互いの時間を有効に使うためにもいい。

①を明確にするためには、どんな課題があり、その課題を解決するとどのくらいの効果があるのかが必要なので、そのためのヒアリングが必要になる。課題はお客さん自身が気づいていないものも含めると多岐に渡り膨大になるが、①が目的であれば、自社の提案で解決でき、効果が出せる課題を見つけなければならない。この判断軸を持っているとヒアリングすることが明確になるので、定型的な質問を繰り返して尋問のようになってしまうことを防げる。
目的に対しての道はたくさんあり、答えは一つではないが、プロダクト理解が深く、どんな課題を解決してきたか(事例)の知見が深いほど、目的に対して最短で到達するための道がすぐにみつかる。

🔸鏡を見る

先ほどの3つの条件は一見正しそうだが、実は解像度が低い。
3つの条件を満たしていても、社内で影響力を持っている人が別の製品に魅力を感じていればそちらを導入する可能性もあるし、他の課題への投資の優先順位が高い可能性もある。

そこで解像度を高めてリスクの見落としを防ぐにはどうすればよいか?

私は自分が営業を受ける側、購買側だったらどうかという視点から考える=「鏡をみる」という行動をおすすめする。

自分がもし提案を受けた場合、どうしたら導入するのか考えてみる。
例えば、私は営業のマネージャーをしているので営業メンバーの生産性をあげるミッションを持っている。

提案されたプロダクトが営業生産性の向上に繋がる提案であれば、自分のミッションに直結するので積極的に聞いてみようと思う。
一方、自分のミッションに関係ない提案であれば、相手にお世話になっているなど特段の理由がない限り、優先順位は低くなる。自社に取ってプラスになると思えば、そのミッションを持っている人に確認してみるが、うまくいくか責任は持てないし、乗り気にならなかった場合、自分のリソースを使ってシナリオを考え交渉しようというところまではいかない。
ただ、このような場合でもわかりやすくメリットを伝えられる材料を渡されて、こう伝えてくださいと言われていればその通りやってみようかとは思う。

自分が提案する側に戻ってみると、

①そのお客さん(企業)には自分たちが助けられる問題があるのか?
②その問題は目の前にいるお客さん個人のミッションに紐づいているのか?
③個人のミッションに紐づいていない場合、そのミッションを誰が持っており、その人は目の前にいる人とどんな関係性でどんな相談の仕方ならしやすいのか?

という順で考えていくと、ヒアリングで聞くべきことが明確になってくる。

また②で目の前にいるお客さんの個人ミッションに紐づいていない場合、その人のミッションは何なのか、そのミッションを達成するための問題に対して、自分たちが助けられる課題があるの、と人起点でヒアリングすることを考えていくこともできる。

ミッションと合致していた場合、何が満たされれば導入するか?
改めて、自分が提案を受ける側に回って考えてみる。

・本当に効果が出るか?
・その効果はどれくらいなのか?
・導入がうまくいくのか?
・どのくらいリソースが必要なのか?
・もっといいものがあるんじゃないか?

あたりは気にする。
私の場合、一番嫌なのはせっかく時間使って取り組んでも効果が出ないケースや導入に失敗して活用されないケースである。
一方、完璧を目指すのは検討に割く時間とのトレードオフになるので、一定以上の効果が見込めるのであれば、「もっといいものがあるんじゃないか?」という優先順位は低い。

ここで一点注意しないといけない。上の気にする項目は私の場合であり、性格は千差万別なので目の前の人が同じ点を気にするとは限らない。
相手が「新しいもの好きなのか?保守的なのか?」、「感覚で動くのか?ロジックで動くのか?」など、会話の中でどんな性格なのか把握できていればいるほど、鏡を見る解像度があがり相手の判断軸をよりズレなく想像できるようになる。

性格の判断軸はたくさんあるが、まずはソーシャルスタイルなど代表的な手法を使ってみることをおすすめする。

話を戻そう。
上の気になる項目が満たされ、やるべき、やりたいと思ったら、私は次にこんな項目を考えると思う。

・どうやって上司を説得するか?
・どうメンバーに運用定着させるか?
・進めるにあたり先に合意を取っておかないと障害になるような人はいないか
・使えるお金があるか。ない場合どこから取ってくるか。

これが全て解決されていれば、導入していく障壁がなくなり、始められる。

誰が決裁権を持つのか?予算はあるのか?などお客さんに聞くことを躊躇する営業マンもいると思うが、お客さん自体も気になっていることなので、うまく聞くことが出来れば伝えることに抵抗はないし、一緒にリスクを潰していくことができる。

ここでも注意点があり、聞き方は重要でだ。よく使われる営業の質問の型でBANTがあるが、いきなり「予算はありますか?」、「決裁者は誰ですか?」と聞くのは最悪である。
自分が提案される側になって想像してみて欲しい。脈絡なく突然聞かれたら「予算はありますか?」=「予算がないなら提案しません」、「決裁者はだれですか?」=「あなたじゃなく決裁者と話したいです」と言われているように感じ、いきなり決裁者である上長にアプローチされるんじゃないかと警戒する。

でも、自分が導入したいと思っていたら、「社内でどう稟議を通すか?」「どこから予算をとってくるか?」は悩むところなので、いいアイデアが貰えるならぜひ相談したい項目ではある。

なので、聞き方が工夫されており、

①「やりたい」という言葉を言う
②なぜ「やりたい」と思っているのか理由が言語化され、改めて「やるべき」だと確信する
③「ぜひ一緒に問題に取り組んでいきましょう」と熱意をもって語られ、一緒に問題を解決する仲間と認識する
④一緒に取り組み始める障害を乗り越えるため「ネックになる項目があるか」、「誰のOKが必要で反対者が出てくる可能性はあるか」、「その人はどんな性格でどんな反対をする可能性があるか」、「説得するにはどんな材料が必要か」、「このために使える予算があるのか?ない場合どこからか流用できるか?」と聞かれる

という話の流れなら、私は積極的に質問に答えるし相談したいと思う。

このように
鏡を見る=自分が購買者だったらどうするか?
と考える癖をつけると、「予算はありますか?」「競合は検討してますか?」「決裁者はいつですか?」など事前に作った質問リストをもとに尋問してしまうことから脱却できる。

次はこの「逆立ちをして考える」「鏡をみて考える」という思考法の使い方一例として「競合に勝つ」ためのシナリオ作りにどう使うか考えてみる。

🔸競合に勝つ

兵は先ず勝ちて而る後に戦いを求め、敗兵は先ず戦いて而る後に勝を求む

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孫子の言葉である。
勝者は戦う前から勝つ状況を作り出していて、敗者は戦っている中で勝ち方を探しているという意味だが、競合と戦う際にも全く同じ事が言える。

RFPが各社に出て機能比較表の提出を求められるようなケースがある。
この時点で各社フラットな状況だと、既に孫子の言葉でいう敗兵の状況になっており、勝ってもラッキーだったに過ぎない。各社自分たちに都合のいいように作成した機能比較表をもとに検討され、お客さんの判断軸が自社にとってベストであることを祈るだけだ。

勝負は初回の提案時点から始まっている。

①機能で絶対に競合に勝てるポイント
②それが実際の業務にどう影響があるのか?どんな課題解決に効果があるのか?
③お客さんのなりたい姿がどんな場合②のメリットがでるのか?

このような順番で考え、初回の提案時にお客さんのなりたい姿として③の内容に合意していれば、解決策としてそのまま②に合意し、最終段階で具体的な競合比較になっても②の解決策を満たすには①の競合に勝てるポイントが必要になるため戦う前から勝負がついている。

具体例で考えてみよう。
例えば自分が自動車の営業マンで、競合製品に対して自動ブレーキや前車に対しての追従運転、車線はみ出し防止などの優位性がある自動車を売ってたとする。対して競合は最高速度や加速などスピードに優位性があるとする。

このときにお客さんから機能比較表をだしてくださいと言われて、機能差異の〇×資料を出してお客さんに選んでもらうとどちらが選ばれるかは最後までわからない。

その機能差異がお客さんの求めるどんなニーズに効果があるのかさかのぼって考えてみる。すると、「判断力低下を自動運転で補って、事故の発生率を下げれる」、「渋滞でも疲れず運転することができる」というニーズを競合より満たせるという事が考えられる。

さらに、そのニーズはお客さんのどんなありたい姿を満たせるのかを考える。さきほどのニーズを満たすとお客さんの「年をとっても友達や夫婦で安全にドライブを楽しみたい」というありたい姿を満たすことができる。

自動車競合

これをもとに、お客さんにまずは「老後に楽しくドライブをしている姿」を想像させる。お客さんがその姿に憧れれば、そのために車に求める機能は「自動運転の安全性」や「疲れずに運転できる」という事になる。すると判断軸が自社の優位性と合致するので、そのあと競合と具体的な比較をしても負けることがない。

この提案シナリオは逆立ちして考えており、ゴールである競合との機能差異から遡って考えている。

よくビジョンセリング、ソリューションセリング、プロダクトセリングという言葉が使われるが、今回の例でいうと、ありたい姿はビジョンセリング、求められることはソリューションセリング、競合との機能差異はプロダクトセリングに近い。

「プロダクトセリングは良くない、ビジョンセリングをすべき」と思われているケースもあるが、それぞれ密接につながっているので、どれが一番いいという話ではない。

例えば、プロダクトの差異を理解せず「高速を颯爽と飛ばして走って沿道の女の子にもてる」というありたい姿を訴求しても、自分たちにはその解決策を持っていないので最終的に競合製品が選ばれることになる。プロダクトの差異を理解していれば、このようなありたい姿は訴求しないし、お客さんがそれでも「高速を颯爽と飛ばして走って沿道の女の子にもてる」姿に強いこだわりがあるのであれば、自社では解決できないので提案すべきではない。

一方、プロダクト知識が豊富な営業マンで、本来売る力を持っているのに売れない人もいると思う。この場合は知識量に自信を持っているため、お客さんのありたい姿も合意しないまま、自分が知ってる機能やスペックなど話したいことを話してしまい、お客さんに響いてないケースも多い。

どちらも逆立ちして考える=ゴールから遡って考えるを意識すればよくなる。

🔶まとめ

今回は営業提案のシナリオを考えるための原理原則として、「逆立ちして鏡をみる」という思考法についてまとめてみた。

冒頭にも書いたが、本質的にはお客さんに価値があるか、役に立つかが一番重要だと思っているし、お客さんにとって価値がないのに営業テクなどで強引に売ってしまうようなことはお互い不幸になるとおもっている。

ただ価値があるかはお客さん自身にも気づいていないことも多く、導入したほうがいいのにその価値を営業マンが伝えきれていないことも多い。
今回の記事が少しでも世の中の営業マンのクオリティ向上に寄与し、本質的に価値のある提案を受けられるお客さんが増えるといいなと思うので是非試してみてください。

今回の記事は #営業アドベント という企画に参加して書いてます。
12/25まで毎日、素晴らしい営業マンの皆さんが役に立つ記事を投稿しているので是非チェックしてみてください。

またnoteではB2Bスタンダードというシリーズもののtipsを書いてるので、過去の記事も遡ってみていただけれより理解しやすいと思います。

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しんり(鈴木眞理)
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