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現代の営業に求められる事〜「アクセル デジタル時代の営業最強の教科書」を読んで〜

Twitterを始め、田端大学にも入ったきっかけは、元を辿れば実はこの本の「営業スタッフはリードの開拓に費やす時間を、ソーシャルメディアにも費やすべきである。見返りは大きいだろう。」という言葉だったりする。今年4月から平均年齢が若くソーシャルメディアを活用している経営者や従業員が多いベンチャー企業を中心に担当する部署に移り、この言葉を思い出したので取り組み始めた。

私が初めて営業をした14年前と今では営業に求められるものが変わってきていると感じていて、それは私自身の変化、働く環境の変化、世の中の変化それぞれが絡み合ってそうなっている。それを紐解いて自分の考えを整理するのに、この本はとてもよかったと思う。

2年前ぐらい現職で初めてマネージャーになったときに課題図書として読んでいて結構参考にしてたけど、改めて読み返してみると意外と忘れている事が多かったので、今回は大事なところをまとめながら読んでみた。気になった人は是非この本を読んでみて欲しい。

アクセルに書かれている事

現代の営業はテクノロジーの進化により求められる事が変わってきている。リードの創出もアウトバンドからインバウンドに切り替えていくべきである。

この本では主に営業採用、営業育成、営業マネジメント、見込み案件創出についての方法とテクノロジーを活用した効率的な営業手法について書かれている。

創業から7年で売上100億円を超えたMAツールのトッププレーヤーであるHubSpotの営業組織を作ったマーク・ロベルシュが書いた本で、変化が激しい業界で営業をやっているなら是非読んだ方がいい。営業マネージャー向けに書かれているが、担当営業が読んでも活かせるところがいくつもある。

第1部・営業採用方式

この部ではトップセールを採用するというテーマで書かれているが、自社にとって一番成果を発揮するのかはどんな営業かという視点で読んでも役に立つ。
採用にもちろん役立つけど、自分やメンバーのどの能力を伸ばすべきなのかの指標にもなる。

この中で私が最初に気になったのは

最初のころに採用した候補者の中には、前職でバリバリのトップセールスだったという方が多かった。(中略)だが、彼らの何人かはトップセールスにならなかった。

という所。

会社ごとにトップセールスに求められる要件は違っていて、自社にあった要件を見つける必要がある。自社にあった要件を見つける方法は、売上と相関関係のありそうな特徴を洗い出し、実際に自社の営業マンで売上との相関関係を分析する。

HubSpotでは売上と営業マンの特徴の相関関係を見た際に、一般的に営業マンに求められる積極性や強力な応酬話法が成功と真逆の相関関係になっており、事前準備や順応性、知性といった特徴に正の相関関係が出ていたらしい。
筆者はインターネットの普及により情報の非対称性が解消され、顧客が押し売りを許容しなくなり、親切で賢くニーズを尊重する人を選ぶようになったためと分析していた。

自分の経験と照らし合わせると、プロダクトの特徴や価格によっても違いがあると思う。私が今まで経験した会社を大まかに分類してみた。

KEYENCE:価格低、製品難易度中〜高、認知度高
SAP:価格高、製品難易度高、認知度高
OPENTEXT:価格高、製品難易度高、認知度低
freee:価格低、製品難易度中〜高、認知度中
※価格は担当商品、認知度は顧客業界にて

KEYENCEの営業は考えながらハイボリュームをこなす営業だが、一件づつ個別提案書を作ったりはしない。ヒアリングやデモ、応酬話法等のパターンが標準化されロープレで徹底的に型を作るスタイルだった。

SAPやOPENTEXTは一件づつ個別提案を作る。これは2つ理由があると思う。1つは単価が高いため1件に工数がかけられる。もう一つは製品が持つ機能が多岐に渡り、様々な課題に対応できるので、同じプロダクトでも提案内容によって与える付加価値が違ってしまうため。このような説明コストが高いプロダクトは業界知識、プロダクト知識、ヒアリング力、仮説力様々なスキルで高いレベルが求められる。

製品の複雑さを縦軸、価格を横軸に自分なりに最重要で求められる物を整理してみた。全て必要ではあるけど中でも求められるモノはこれかなと思う。

私が所属した会社をプロットしてみるとこんな感じになると思う。私はお客さんと仲良くなって契約をもらうのは得意ではないが、業界知識やプロダクト知識を習得したりニーズを聞いて仮説を立て、ディスカッションするのは得意だ。基本的に説明コストが高いプロダクトを担当してきたので、なんとかやってこれたのかなと思う。

他にも業界認知度が低い会社では突破力が求められたり、変化が激しい業界では成功体験のアンラーニングや好奇心が求められる。
自社に最適な要件を洗い出すためには、どんな特徴が売上に相関があるのか仮説立て出来る現場感と、感情に左右されず自分自身やチームに対しても客観的にデータの相関関係を見ること両方が求められる。

自社のトップセールスの要件が決まった後に、この本ではLinkedInでの採用を勧めているが、2年前この本が出た当初のAmazonでのレビューでは日本に合致しないというコメントが多い。

確かにLinkedInは外資以外ではそこまで普及していないが、最近はTwitterやbosyuで転職したという話も聞くし、Wantedlyもよく使われてるのでLinkedInにこだわらずとも同じ手法が使えると思う。こういったツールを使いこなせないと、今後変化対応力のある人材は確保が難しくなっていくのではないかと思う。

第2部・営業育成方式

この部は営業の育成について書かれているが、営業プロセスの構築という観点で読んでも面白いと思った。

著者はトッププレーヤーととりあえず同行させるという手法を否定している。

優秀な営業の得意な事はそれぞれに違う。関係構築が得意な人もいれば、活動量で稼ぐ人もいる。特殊能力といえるほど飛び抜けたトッププレーヤーがいる場合、それこそが唯一の成功要因だと思わないよう注意が必要で、それぞれが持つ特殊能力を活かせる柔軟性が必要。

著者の考える営業手法の構成要素

バイヤージャーニーを規定する⇨営業プロセスを作成する⇨リードを絞り込む指標を明確にする

バイヤージャーニー
顧客が購入までにたどるステップ。
1)事業計画が定まり目標達成には10%生産数を上げないといけない事が決まる。
2)生産数を上げるためのボトルネックを洗い出し、前行程の時間あたり生産可能数を上げないといけない事がわかる。
3)インターネットで情報収集をし、生産数を上げられそうな装置、仕組みをいくつか見つける。
4)その装置を作っている会社に連絡を取って、説明をしてもらう。
5)各社の情報を元に比較表を作り、Pros and consを明確にする。
6)5を元に一社に絞り、費用対効果をまとめ上申書を作る。
7)事業部長経由で役員会に上げ決済を取る。
8)最終的な契約条件交渉
のような流れ。

バイヤージャーニーは顧客や金額等によって変わるが一般的な流れを整理する。この本にはないが、どのフェーズでどのレイヤーの人が関わるかも整理しておくと営業プロセスの策定がさらにやりやすくなると思う。

バイヤージャーニーを元に営業プロセスを作る。

営業プロセス
契約してもらうまでに行う事。一例としては下記のイメージ。
1)SNS等で興味の引く広告を載せ自社のサイトに誘導する。
2)自社のサイトには有用な資料やデモ版の導線を作り、興味がある人のコンタクト先を得る。
3)電話でコンタクトを取り、具体的に検討しているのか、検討はしていないが課題があるのか、将来的に検討しようとしているのかを確認する。
4)しっかり話せる時間を確保してもらい、どうなりたいのか、何に困っているのか、その解決策としてどんなものが提供できるか等をディスカッション
5)具体的な契約条件をすり合わせる

このバイヤージャーニーと営業プロセスは出来るだけ一致していた方がいい。

例えばバイヤージャーニーの3)で「インターネットで情報を収集し」と書いたが、これから営業プロセスの2)に書いた「自社のサイトには有用な資料やデモ版の導線を作り」という所が作られるようなイメージ。

最後にリードを絞り込むための指標が定義できる。自社がどれだけリソースをかけられるのか、価格がどのくらいの商品なのか等から出てくるROIを元に判断することになる。

例としてこの本にはBANTが紹介されている。BANTは効果的なリードクオリフィケーションの定義だが、例えばAuthority(決裁権)の様なものは、価格が安いプロダクトや顧客規模が小さい場合は明確にする必要がないケースが多く、自社毎にカスタマイズした方がいいと思う。

BANT
Badget(予算)
Authority(決裁権)
Need(必要性)
Timing(導入時期)
この4つを聞くことにより、検討の本気度、いつ誰にアプローチすべきかなどを明確にする手法。
使い古された手法だが、いまだによく使われるほど効果的。

育成についてはこの営業プロセスやリードを絞り込むための指標が明確になれば、あとは各プロセスに合わせた研修、カリキュラムを作るだけである。

HubSpotでは試験と検定を設けて、試験はプロダクト知識など事実を重視し検定はプロセスの段階ごとの質的なスキルを重視していたらしい。
キーエンスも全く同じでプロダクトや業界知識は試験をし、スキルは検定で合否判定をしていたので、この方法はどの企業でも効果を発揮すると思う。

あとこの章では顧客が信頼する営業スタッフをつくるための方法として、積極的なSNS活用を推奨している。

現代の買い手はインターネットにより、情報の非対称性が解消され簡単に価格や機能の比較ができるようになった。

このような世の中で営業は更なる付加価値を与えて存在価値を立証しないといけない。その為にTwitterやブログを使って情報を発信する。

「営業スタッフがソーシャルメディアを使ってリードと一緒に個人ブランドを構築できるようにする」

「営業スタッフはリードに費やす時間を、ソーシャルメディアにも費やすべきである。見返りは大きいだろう。」

と著者は書いているが、これにより「現代の営業活動は、売り手と買い手の関係というより医者と患者の関係に近い」という事が実現できるのだと思う。

第3部・営業マネジメント方式

この章で一番残っているのは、営業報酬制度の話。

私は外資のIT企業を2社経験していて、共にインセンティブプログラムが充実した会社だった。
ただ外資はすぐポジションが変わるので、インセンティブをもらう為に今売り切るという事が重視される。その為不要な値引きによる利益相反や、過剰に期待値をあげ、その後解約されるリスクは軽視されるケースがあった。

現職ではインセンティブがないが、SaaS企業では何年継続してもらえるかという指標(LTV)が非常に重要なので、このようなリスクがあるインセンティブ設計は難しい。

HubSpotはどのようなインセンティブ設計をしていたかというと、事業フェーズによって変わっていた。

<最初の制度>
ハンティング制度
新規契約獲得の2ヶ月分がインセンティブ4ヶ月以内に解約したら返金
⇨半年で顧客を100→1000に増やす。5ヶ月目の解約が増大。
<次の制度>
カスタマーサクセス制度
顧客維持率によってインセンティブの率を変更。
⇨「営業による不適切な期待値の設定」が改善。顧客離れの理由は営業スタッフにはどうにも出来ない理由でのみ起こるようになった。
<3つ目の制度>
カスタマーコミットメント制度
インセンティブの支払いを初月に当月分の50%、6ヶ月目に25%、12ヶ月目に25%にした。
⇨営業の初月に一括でインセンティブを受けるモチベーションのために、年額前払いの契約が増えた。年額前払いの顧客は導入を成功させることへのコミットが高く顧客離れがさらに改善された。

事業フェーズ毎に求められることを、うまくインセンティブに反映させることにより目的達成している。

また営業のリード創出→案件化→デモ実施→契約等のファネル毎の率を分析し、どこにボトルネックがあるか洗い出し、コーチングを中心に一番効果の大きな一つの課題だけを解決するという方法は、当たり前にやるべきだが振り返ると十分出来てない事が多いと感じた。

第4部・見込み案件創出方式

この部の前半ではアウトバンドマーケティング中心からインバウンドマーケティング中心に転換すべきで、そのために良質なコンテンツを継続配信することやソーシャルメディア参加することなど日本でも一般的になりつつある事が書いてある。

個人的には後半が興味深く、マーケと営業のリードの受け渡しについて書かれている。
私が仕事してきた中でここはいつも課題を感じるところで、感じなかったのはキーエンスだけだった。(そもそもキーエンスはリードも全て自分で処理をするので、リードクオリフィケーションする担当がいない。)

リードクオリフィケーションでよく使われるのが、リードスコアでMAツールでスコアリングしてるケースは多いと思う。リードスコアは行ったことに対して複合的に合計点を出すので、営業にリードを渡すタイミングが必ずしも最適になるわけではない。

HubSpot社はバイヤーマトリクスという仕組みを使っている。

これは縦軸にペルソナ、横軸にバイヤージャーニーを置き、ペルソナ毎にどのマトリクスで渡すのが最適か分析する。
リードからの転換率、一社毎の売上等をマトリクス毎にみて分析し、営業に渡さないマトリクスではどのようにジャーニーのステップにあげるかを考える。

こちらの図の例では、単価が高い大企業むけはリードも少ないので、営業が工数をかけてでも早めの段階から関与し少しでも契約率をあげるのが有効である。反対に小企業は単価が安く、リードも多いので、早めに関与しても契約率が少ししか上がらない場合工数が見合わなくなる可能性が高いので解決策の選定のフェーズで渡した方がいい事を表している。

またマーケティングと営業それぞれのSLA(サービスレベルアグリーメント)についても触れている。営業とマーケティングがうまくいかないパターンでマーケティングのKPIがリード件数になっており、リードの質が低いというのがよくある。

HubSpotがうまくいかせたやり方はリード件数をKPIに置くのではなく、

リード件数×リードステータス毎の顧客転換率×平均購入額=バイヤーマトリクス毎の期待収益額

をKPIに置いていた。マーケティングにも収益に責任を持たせることによって、リードの質を担保しておりとてもいい仕組みだと思った。

HubSpotは反対に営業にもSLAを持たせた。せっかくいいリードを渡しても営業のフォローが甘いことにより、受注に繋がらないケースがある。
このため営業にはフォローまでの時間と回数をSLAに置くことにより、質の高いリードの受注率が上がり、マーケティングのモチベーションも向上した。

第5部・テクノロジーと実験

テクノロジーを使って現代の営業をいかに効率的にするか、そのためには営業スタッフにとって役にたつと思わせる事が大事だ。

SFA/CRMといったソリューションはリーダーのために作られていて、スタッフに余分な仕事を発生させてしまう。
HubSpotではいかにスタッフに負荷をかけず、データが入力された状態にするのかを重視していた。

この本ではHubSpotではプロセス全体を自動化しており、システムが電話をかけ、連絡がつかない場合留守電に残すと自動的に記録される。フォローアップのメールを送ることを提案し、自動的にメールをカスタマイズしてくれると書いてある。

これが本当にどこまで出来ているのかは興味がある。SFDC等従来のCRMでは膨大なカスタマイズ、開発をしなければ実現できないので、独自に自社向けに開発しているのかもう少し詳細が知りたい。

まとめ

キーエンスに居た時よく営業を科学しろと言われていた。この本はテクノロジーを使い、いかに営業を科学して最高の結果を出すかという方法が書いてある。

よく営業は芸術というし「The Art of The Sale」という本もある。自分も営業をやっていて、あの人はなんでいつも案件を作れるのかよくわからない事がある。

企業毎に営業のKFSは変わるので営業に求められるスキルを画一的に見いだすのが難しかった。近年はテクノロジーの進化、浸透が早くなり昨日までの正解が正解じゃなくなることも増えている。このような状況で営業に求められるスキルを導き出すには、相関関係を徹底的に洗い出して共通の指標を見出さないといけない。さらには今を分析しないといけないのでテクノロジーを使い今まで見るのに時間がかかっていた情報を、時間をかけずに見れるようにしなければいけない。

私が変化の激しい業界で説明コストが高いプロダクトの営業をする限りにおいては、常に変化を受け入れられる姿勢と、求められるスキルが何なのかデータをもとに考え続けないといけないと思った。また「統計は嘘をつかないが、統計使いは統計を使って嘘をつく」という言葉もあるので、データを自分の都合のいいように解釈しないように注意し、多面的なデータを客観的に見て判断するという意識を常に持つようにしたい。






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しんり(鈴木眞理)
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