コロラドでヒッチハイクをした話
エヴァグリーンという小さな町はバスは朝と夜に2本ずつという環境で、しかしアメリカの運転免許がないわたしは(今では乗り回しているが)、滞在先のホストに頼むのも申し訳ないと思い、ヒッチハイクをした。ヒッチハイクはアリゾナで一度したことがあるのでこれで2回目である。
2台ほど通り過ぎたあと、大きな赤いトラックが私の前に止まった。助手席側の窓が開き、がっつり刺青が腕に入ったごついお兄ちゃんが「どこへ行きたいんだ?」と聞いた。その言い方と彼の目がやさしそうだったので、きっと悪いひとではないだろう直感が働いた。
助手席に座り行き先を彼に告げた後、私たちは話を始めた。よく見るとそのお兄ちゃんの歯はほとんどなかったが、笑うときは豪快に笑った。ちょうどカーブを曲がろうとしたとき、ラジオから流れてきた曲で彼の佇まいが一瞬変わったのに気がつき、私はハッと彼の横顔を見た。
5年生のときよく聴いてた曲なんだ」と彼はゆっくりと話し始めた。
彼のことを好きだった女の子がいたが、その女の子が彼のフリをして、彼が思いを寄せていた女の子へ手紙を書いた。”あんたのことなんて好きじゃない”と。その手紙を受け取った女の子はそれ以来ずっと彼を無視するようになり、やっと誤解が解けた頃にはもう彼らは大人になりすぎていた。後に彼は海軍に入るも退役後に麻薬のディーラーでヘマをして服役したが、結婚をし娘を授かった。娘は今では海軍で真面目に仕事をしていると誇らしげだ。
「この曲は、5年生の俺が失恋した時によく聞いていた曲なんだ。なつかしいなあ。彼女は今頃、どこで何しているんだろう」
そのあと私たちはまたいろいろな話をし、目的地に着いたのでお礼を言い、私は車をあとにした。
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