オセロ戦略で後発参入でも市場シェアの獲得に成功したフィットネス業界特化型SaaS「Hacomono」
シンチャオ!事業開発や事業を伸ばす際に活用できるエッセンスを抽出することを目的に、SaaSの成長軌跡をトレースして定期で更新できればと思っています。
基本的には、インタビュー記事やピッチ情報など、ネットで落ちている情報を網羅的に抽出しながら、参入時と市場拡大時の戦略をまとめております。徐々に考察なども入れながら内容のアップデートをしていければと思います。
第二弾はフィットネスジム向けの施設管理SaaS「Hacomono」です。未経験領域への業界参入のやり方、参入後の課題の抽出、プライシング戦略など、活用できるエッセンスは多いです。オセロ戦略とは、業界内でも強い存在感がある大手企業を中心に開拓して、角を取る戦略です。
他のSaaS事業とも共通化している考え方は、事業戦略の定石としてインプットできたりなど、参考になる内容が多かったので良かったら参考にしてみてください。
1.サマリー
フィットネス事業者の中でも複数店舗を経営する売上上位50社に焦点を絞り、プロダクト開発を進行してきたフィットネス施設の顧客管理SaaS「Hacomono」。大手事業者の顧客を獲得することで、大手に続く中堅事業者の獲得も見据えた市場戦略を実行する。2年半で250店舗、現在の(2021年12月頃)時点で月間MRR1,000万円を超えたHacomonoの事業成長の要因を分析。
2.前提整理
2-1.Hacomonoについて
2-2.業界全体の各プレイヤー
・ジム施設の階層分別
フィットネスジム施設の区分として、下記の様な変遷を辿りながら市場成長。
①コナミの様な総合型スポーツクラブ
②エニタイムの様なコンビニ型フィットネスジム
③パーソナル指導型ジム
④カーブスの様な特化型ジム
⑤運動という講義の観点で、ボクシングやヨガなどの施設
これらに加えて、コロナを機にオンライン型のジムが複数誕生。
2-3.ツールやコンサルティング提供会社
・フィットネスクラブへのツール提供会社は、バリューチェーンの各工程を最適化できるツールやシステムを提供する会社が存在する。
ただ、各工程におけるシステム開発に都度時間と金銭コストが発生しベンダーコントロールが難しく、独自で運用できるシステム開発は難しい状況。
また、顧客管理手法がアナログなやり方でバラつきあり、顧客とのコミュニケーションも継続的にとれておらず、売上拡大の機会損失につながるなど、各工程において改善ポイントを多く発生していた様な業界。
・Hacomonnoが展開しているプロダクト領域の既存サービスは下記の様に複数存在。
機能性で大きな差異はなく、使いやすさの観点で差異はあるものの、「顧客管理=〇〇」のポジションが、フィットネス事業者間では存在していなかった。
3.事業立ち上げ背景
フィットネス業では、アナログ業務が主流になっており、エンドユーザーへサービスを提供するプロセスにアナログな業務が多く、エンドユーザーのデータを活用して接客を実現できない事への疑問・課題がきっかけ。
フィットネス業界におけるコア業務は、1on1指導。しかし、指導以外のノンコア業務が多く発生しており、効率化できるはずの業務がされておらず、指導業務に集中できる環境ではない状態の店舗がほとんど。エンドユーザーの顧客体験レベルも向上・改善されない事につながると考えたのが背景にある。
また、Hacomonoプロダクト開発前のコンサルティング事業で、B-monster、クリスプワークサラダなどのテクノロジー*店舗開発に深く携わり、業界全体で顧客データを活用した事業経営ができていない課題に気づく。
4.参入時の各戦略
4-1.事業の差別化戦略(コンセプト戦略&機能戦略)
下記3つの観点で分解すると、ターゲットを大手企業のフィットネス事業者に限定したことが、他社との差別化ポイントに。限定することで、フィットネス事業者の業務課題に対する解像度が他社よりも深く高いことがプロダクトの差別化に繋がっている。
一見、他社プロダクトとの違いは分からないが、痒い所に手が届く機能や利便性よって、他社プロダクトからスイッチされるほど、課題と機能が詳細に照合している。
そのため、フリートライアルでプロダクトに触れる機会を創出することができれば、購入可能性が非常に高い状態にある。
THE MODELの様なセールスを基軸に置いた事業戦略ではなく、PLGモデルのようなプロダクトを基軸においた事業戦略として成立している。
5.市場規模の拡大について
5-1.今後の顧客ターゲット拡大
6.競争優位の源泉
複数店舗運営している事業者の課題を解決できる機能性と使いやすさを追及しているので、顧客とのプロダクト粘着性が高いことが競争優位となり、源泉はプロダクト開発の改善力のある人材と、顧客課題を常に吸い上げるためのオペレーションは優位性の源泉になっている。
7.VCの評価ポイント
VCからの評価コメントを要約すると下記の2点。
業界の既存の課題が解決できていない理由への深い理解と、課題を解決できる機能へプロダクトへ反映できる能力が最も強力な理由だろう。
8.成長要因のサマリー
8-1.サービス事業者の課題不感症
各プロダクトの導入数から考慮すると、当時は今ほどマーケティングチャネルが乱発していなく、施設事業者も成長していなかったので、店舗でのデータ管理の重要性をユーザーであるサービス事業者が課題に感じていなかったかもしれない。
8-2.経営力の差
Hacomono代表は、b-monstrやクリスプワークサラダのキャッシュレス店舗の開発に携わっていた経験もあり、店舗ビジネスのデジタル化に強みがあった。また、VCを巻き込むことで、SaaSビジネス業界内での認知度向上を図ることで、プロダクトの重要性と信頼性を、フィットネス事業者から獲得できたのではないか。
8-3.営業力
他の事業者を調査する限り、地方の企業や営業力が強いイメージはない。後述しているSaaS業界内やベンチャー企業界隈に強力な認知形成を取ることは、優秀な人材採用にも貢献している。採用条件では大手事業者向けのSaaSプロダクトの営業経験者を採用し、営業力も劣ることなく勝負できたのではないか。
8-4.プロダクト改善力
創って終わりではなく、顧客からの改善フィードバックを永遠とUpdateしているのが強み。3ヶ月に一度は仕様が変わったりするほど、顧客の手が届かない課題に対して向き合い、顧客の声ありきのプロダクト改善を良しとする組織全体のプロダクト改善力が強い印象。
8-5.非IT人材が使いやすい圧倒的なUIUX
従来のクラウドツールでは、オンプレシステムの風潮が残っており、一昔前のシステム感が抜けない仕様になっている。サービス事業者でありながらも、日常生活で最も活用しているデジタルツールは、LINEやフェイスブック、インスタグラムなどのSNSツール。SNSの様な圧倒的に使いやすく、説明書やCS(カスタマーサポート)が不要なUIUXの仕様に設計にしている。実際にインタビュー記事では、「説明書不要を目指してプロダクト開発をしている」と断言。
以上、5つの点がHacomonoがサービスリリース2年程で250店舗程導入できている所以ではないか。
10.さいごに
顧客を大手に特定することで、課題解像度向上によるプロダクト優位性構築、業界認知度・信頼の形成、下層顧客(中堅以下)の獲得、初期収益機会の獲得(複数店舗経営による1社単価が高くなる)の実現に貢献することが非常に学びになった。
また、既にサービスが乱立しているが、サービス利用者の中で明確なポジションが構築されていない市場にはチャンスがある。
既存サービスのポジションが構築されていない理由と既存サービスの提供価値の差分を徹底的にカバーすることで、市場を独占できるサービス/プロダクト開発に繋がる。他産業でも、①独占<寡占市場、②既存サービスのポジションが不明確な要素を持った産業に着目していく。
その他のSaas分析基準
・建設業界×施工管理「ANDPAD 」