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伊豆天城山でハイキング-26

ららがトレイル上の石を持ち上げて投げた。

「投げないで。下に転がり落ちたら危ないでしょ」

「そうだよ」

私の言葉にれんもすぐさま、反応する。

「だって、道にあると危ないから」

投げた方がもっと危険な状況を生み出す可能性があるんだよ。

「今は自分のことだけ考えて、歩こう」

ららは優しい。人の役に立ちたい思いが強い子だ。

だから大人たちが木の枝を後ろを歩く人のために避けたり、スティックをささから預かって歩きやすくしたり、大きめの石を歩行の邪魔にならないように動かすと自分もそれをやりたい。
だけど、見様見真似だからどうしてもタイミングややり方がずれてしまう。それにその都度、立ち止まって流れを止めてしまうから、日が暮れる前にゴールしたい大人たちのイラつきを生じさせて、逆効果となってしまう。

大丈夫、優しい心はちゃんと伝わっているよ。


道が歩きやすくなっても木の根道や岩場は出てくる。

「ささ、大丈夫?」

「ダメ」

そう返事が返ってきた。

「なら、止めていいよ」

「えっ。ダメでしょ」

「いいよ。もう止めて、この山に住みな」


山登りは小さな人生だと思う。

自然から多くの恩恵をもらって心地よい中、平和に歩いていると険しい道が出てくる。人を抜いたり、抜かされたり、自分なりのペースで様々な道を歩みながらゴールに向かって進んでいく。
山頂についた喜びに浸るも、次は下っていく必要がある。
下りのほうがきつい。
体は疲れているし、膝にも負担がかかる。途中で止めたくとも、ドラえもんが来て「どこでもドア」なんて出してくれないから、歩き続けるしかない。
事前にルートを調べても決してすべてが思い通りにいくことなんてない。
ゴールが近づくとエネルギーがさらに沸いて、到着するとがんばった自分を褒める。
ルートが険しく長くなればこれらの思いはさらに強くなり、辛いはずの道だったのにまた次の山登りを思う。

そうやって人は山に魅了されていくんだ。

それにしても万三郎岳の後、ずっと続く道に終わりが見えない。

「誰が選んだこの山?」

つい、悪態をついてしまう。

「私です」

ささが即答する。


今までは私が山を選んでいた。膝に痛みが出やすい彼女のことを思って、下りの少ないロープウェイがある山を選んできた。

山登りって楽勝じゃん。

私が初心者向けコースを選んでいるにも関わらず、彼女はそう思ってしまったんだろう。そして自らのレベルを考えずに山を選んだ結果、自分の経験に合わない山を選んでしまったことに気づいたのだろう。


山を舐める。


初心者にはありがちのミスであり、未だに私は同じミスを繰り返してしまう。

自分のレベルに合いながらもちょっとだけ挑戦できる山。

それを目指しながらも、チャレンジ多めになりやすい。

どんな山を選ぼうが、山に慣れた人が一緒だろうが、歩くのは自分の足だ。

自分で歩かないといけないことを思い知れる。

山ってなんて哲学なんだろう。

ちょっとした岩場を気を付けながら過ぎた後、私の後ろを歩くたぁがどうやって超えるのか見ていたら、彼が足を置いた30㎝以上ある石はぐらついて、落ちて行った。彼は一瞬、全体重をその石にかけたけど、すぐさま足を後ろに引いて道連れになることはなかった。石はそのまま急な坂を止まることなくどんどんどんどん落ちて行って姿が見えなくなった。

「ROCK」

たぁが下の人に向けて叫ぶとれんも「ろっくぅ」とそれに続く。

ららも落ちていく石を見ている。彼女は「石を投げちゃいけない」理由を目の当たりにしたことだろう。
もしたぁが石のぐらつきでバランスを崩して一緒に落ちていったらと考えてだけで背筋が凍る。

「大丈夫?」

「うん、大丈夫」

彼は平然と答えるけど、本心はわからない。

もし私が同じ立場だったら咄嗟に自分の身を守れただろうか。

たまたま後ろを振り返ったから一部始終が見られたけど、もし前だけ向いて歩き続けていたら、気づけばたぁが一人下へと落ちて行ったなんて可能性もなくはない。


どんなに急いでもやっぱり安全が一番だ。




主な登場人物:
私-のん、夫-たぁ、
姉-ささ、姉の夫-れん
姪っ子-らら、甥っ子-ぼう



これまでのお話



【無空真実よりお知らせ】

いつもご覧いただき、ありがとうございます。

昨年、12月25日にAmazon Kindleより二冊の電子書籍を出版いたしました。

長年にわたり心の深い場所に重たいしこりがあり、一時は「もう真から笑うことはできないんじゃないか」と思ったほど。
だけど日々の生活や旅行を通じ、一筋の光が現れてちょっとずつ自分を取り戻し続け、今回の旅は私に人生の節目を与えてくれた。

神話の土地から届くエネルギーを通して、私は一体、何を体験できて、何を知れるんだろう。

準備は整った、さぁ旅にでよう。

人生を模索しながら生きている二人の旅をどうぞお楽しみください。








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