伊豆天城山でハイキング-24
「万三郎岳まで、行けるかな」
私たちを抜いて行ったカップルがそんな会話をしていた。それは「時間が足りるかわからない」と言った雰囲気だったので、私たちと同じ状況だ。
「もし頂上まで行かないですむ近道があったら、そっちに行くことにしよう」
話はそうまとまったけど、万三郎岳へと続く急な上りには近道など存在せず、「コースを進みたければ山頂に行く」しかなく、険しい岩場を進む。
後ろを気にするららが先頭だとどうしても歩みがノロくなってしまうので、岩場で距離感を詰めあうのは危険と判断し、私が先頭を行くことに決めた。
「岩場だから私が前に行きまーす」
「はーい」
後方からの返答を聞いてから、前を譲ってもらう。
遅いペースから解放されたからか、足場を気にしながら岩場を一つ一つクリアしていくことに面白みを感じて集中してしまうせいか、はたまた「頂上に向かう」という目標を掲げているせいか、私の歩みは早い。
そしてそれを止める声などどこからも聞こえてこない。
結果、ぽつーん。
万三郎岳山頂に辿り着いた時、後ろに誰も姿もなかった。
山頂標識前では万二郎岳で写真を撮りあった家族が写真撮影を試みていた。
「撮りましょうか」
「あれっ、なんだかさっきと同じ場面」
そう言われて、お互いに笑みがこぼれる。
紅葉と達成感に溢れた幸せ写真を撮影した後も、なかなか他のメンバーがやって来ない。しばらくしてからららがやってきて、時間をおいてかられん、そしてさらに待つとささとたぁがやってきた。
「たぁが後ろにいてくれてよかった」
「本当、ありがとう」
彼に労いの言葉がかけれた。山では隊長のたぁのお陰で皆が安堵に包まれながらハイキングができていることが私も誇らしい。
皆がそろったところで山頂標識の前で家族撮影をしよう。
「撮りましょうか」
先ほどの写真を撮らせてもらった家族の旦那さんが来て、そう言ってくれた。
「ありがとうございます」
その気遣い、とても嬉しいです。
「どうですか」
写真を撮り終わると旦那さんは聞いてくれた。
「プロの仕上がりです」
そう言うと、満面の笑みを返してくれ家族の元へと戻って行った。
現在13時10分、出来れば15時半には駐車場へと戻っていたい。地図に記載されている残り時間を合計すると後90分らしい。
「ランチはどうする?」
さっきは軽食をつまんだだけだから。
「何か食べたい」
リクエストがあったのでとりあえず20分、昼食時間として設けることにした。
それしかないなら・・・・・・。
「スープはいらないよね」
「えぇ」
ららがちょっぴり不満そうな顔をしてこっちを向いてきたので、かわいい姪っ子のために作ることにするか。
お肌が白いたぁは直射日光を強く浴びる休憩場所を嫌がる為、私たちは日陰の椅子に座った。止まると寒さを感じることもあり、ささ家族は向かいの日向に座る。
コンパクトバーナーとお水を取り出してお湯を作る準備をしていてると、たぁがなんだか不機嫌だ。さっきまでみんなと一緒にいた時にはそれに気づかなかった。
そして言われた。
「どうして先行くの?」
「えっ、『岩場だから先に行きます』ってちゃんと言って、みんなの返事を聞いてから言ったよ」
「みんなのこと、待たないと駄目でしょ」
「どうして?止まったらペース崩すじゃん。それに止まったほうが良ければ、声をかけてよ」
「前の人が気づいて自ら止まらないと駄目でしょ」
話を聞けば、ささの面倒を一人で見ていたことにご立腹らしい。
「今度から止まって話し合う、相手の位置を確認する時間をとること」と言われた。
へぃ、了解です。
たぁ、一人にすべてを任せてごめんなさい。
スープ用にマグカップを二つ持って来ていた。大きなカップをささ家族用に、小さいものを私たち用にだ。ニュージーランドから買ってきたおいしいチキンスープの粉末を各カップに入れると、たぁは大きなカップにお湯を半分だけ入れて止めてしまった。
「もっと入れてよ」
「お湯は二つのカップ分でしょ」
三人分にしては少ないと思いながら、それをささ家族に持っていく。戻ると私たちのカップには並々過ぎるほどのお湯が注がれていた。
「そんなに入れたらスープの味がしないよ。もう一つにもっとお湯を入れればよかったのに」
だけど、不機嫌なたぁは私の意見に耳を傾けない。
案の定、私たちのスープは味が薄く、余分に持ってきたスープの粉末を足さなくてはいけなくなった挙句、量が多すぎて飲むきるのに一苦労。
こうなるくらいなら、ちゃんと大きなカップにお湯をしっかりと注いであげればよかったのに。
「スープ(味や量は)どうだった?」
「うん、おいしかったよ」
嘘でもそう言ってくれて、救われます。
主な登場人物:
私-のん、夫-たぁ、
姉-ささ、姉の夫-れん
姪っ子-らら、甥っ子-ぼう
これまでのお話
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