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伊豆天城山でハイキング-27

トレイルと交差するように丸い石コロがゴロゴロと並んでいる。それはずっと上から見えなくなる下まで。
多分、ここは川だったんだろう。今でも大雨が降ればそこに流れが存在するはず。
こういう場所の石たちは安定していないので、足をくじかないためにも歩く場所を選びながら進んでいく。


道案内の看板が出てきた。目安所要時間が書かれた地図と照らし合わせると、早く歩いてきたつもりでも目安より時間がかかっていることがわかる。

歩みがノロい。

亀さんウォークなのは私とマイクだけのハイキングでも一緒。それに今回は人数が多いから急いで歩いているつもりでも思い通りに時間は縮まらず、後ろから来る人の抜かされることが多い。
自分たちのペースを把握しているから道の取り合いにならないように場所を譲る。
万次郎岳、万三郎岳と写真を取り合った家族には老夫婦がいるけど彼らも私たちをスイッっと抜いていった。


一番前を歩くれんは道の詳細を後に続く者に元気よく、そして優しい声で伝えてくれる。

「ここ、岩場」

「はぁーい」

「これから平地」

「平地なら急ぎ足でお願いします」

「はぁー」

つい急かしてしまう私。

ここは標高も下がり、紅葉がきれいなトレイル。ちょっと気を抜くとその鮮やかさが目に入ってうっとりしてしまう。ららは相変わらず後ろを歩くささが気になって歩みを止めてしまうから、れんとの差がどんどん開いていく。

「もう少し早く歩いて」

しばらくはそれに従うけどまた後ろを向いて止まる。

どうしてなんだろうか?

ここは平地で安定した道、ささだって問題なくスタスタ歩いているのに。

何度も同じこと繰り返すららについキレてしまう。

「もう遅い」

ささのことを思ってたぁと二人で後ろを歩いていたけど、我慢ならず止まっているららを抜く。

日はゆっくりと傾き、森は暗くなりつつある。その変化はみんなも気づいている。私たちはヘッドライトを持参していないし、このコースは平地でも足場の悪い場所が多々出てくる。山の中で夜を迎えるわけにはいかないんだよ。

その思いをわかってよ、らら。

私はあなたたちに山の厳しさではなくて楽しさを伝えたいの。

だけど、やっぱりかわいい姪っ子。ついきつい言葉をかけてしまったことに後悔の念が沸く。

「らら、おいで(一緒に歩こう)」

「どうせ私、遅いし」

おいおい。スペースを乱している身で拗ねている場合じゃないでしょ。

ささとららを置いて進んでいくのはまずいと気持ちを落ち着かせて、再び後ろへと回る。


あたりが一段と暗さを増した。地図には残り1時間と書かれているけど、今まで一度もそれ通りに次のポイントの辿り着けていない。

このコースの所要時間は4時間半と書いてあったけど、全然無理だ。サイトに書いてあった6時間(かかる人もいる)が多分標準で、ランチを食べたり、紅葉を見たり、道に気を付けてゆっくり歩く私たちはそれ以上かかると見越していなければいけなかったんだ。

「暗い中を歩くことになる危機をもう少し感じて」

「感じてるよ」

ささが返事をしてきた。

いやっ、私はららに言ったのだ。多分、「大人が一緒だから大丈夫」という思いが私たちとの違いを生んでいるのかもしれない。


途中、急な岩場や木の根が出てくる。

焦って滑って転んでもらっては困る。

「急ぐのは平坦な場所だけ。危ない場所はゆっくり時間をかけて」

ささが下りるのを待っていると近くの岩にキノコがちょこんと育っていた。

かわいい・・・・・・

心の奥底で思っていてもできるだけ表面化しないよう努めている思い。

ささの歩みが遅いからなかなか早く進めない。

たぁに、先頭に立ってスタスタと歩くことを注意されてから、彼と一緒に後ろを歩くようになって、彼がイラついた理由がわかった。

だけどそのことをささに伝えれば焦って怪我をするかもしれないし、ハイキングが嫌いになってしまうかもしれない。
それに彼女はわざと歩みをノロくしているのではなくて、彼女なりに一生懸命ががんばって慣れないトレイルを歩いているんだ。
それを知っているからこそ、絶対に言葉にしてはいけない。

だけど、ストレス貯めタンクが小さじスプーンほどの私はどうにか発散したい。

「誰のせいにはしたくないけど、所要時間4時間半って嘘すぎるよ」

「そうだよね」

れんも同意してくれた。

よしっ、これだ。

コースを整備して、地図を作成して、所要時間まで記載してくれているウエブサイトには頭が上がらない。だけど今、この場にその人たちはいないからグループ一致団結するために、申し訳ないけど今だけ文句のはけ口になってください。

「所要時間4時間半って嘘だよ」

それから幾度となく呟いては憂さ晴らしては、自分の器の小ささを思い知る。




主な登場人物:
私-のん、夫-たぁ、
姉-ささ、姉の夫-れん
姪っ子-らら、甥っ子-ぼう



これまでのお話



【無空真実よりお知らせ】

いつもご覧いただき、ありがとうございます。

昨年、12月25日にAmazon Kindleより二冊の電子書籍を出版いたしました。

長年にわたり心の深い場所に重たいしこりがあり、一時は「もう真から笑うことはできないんじゃないか」と思ったほど。
だけど日々の生活や旅行を通じ、一筋の光が現れてちょっとずつ自分を取り戻し続け、今回の旅は私に人生の節目を与えてくれた。

神話の土地から届くエネルギーを通して、私は一体、何を体験できて、何を知れるんだろう。

準備は整った、さぁ旅にでよう。

人生を模索しながら生きている二人の旅をどうぞお楽しみください。



【無空ウエブサイトからお知らせ】

無空真実が語ることウエブサイトでは私は意識に興味を持って学びを深めた多くの本の紹介をしています。
Amazonバナーリンクの終了に伴い、ちょっぴりリニューアルしたのでよかったら覗いてみてください。古い本が多いですが、自分という存在を探求できる素敵な本ばかりです。





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