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伊豆天城山でハイキング-23

お腹も落ち着いた11時半、コースへと戻ろう。

紅葉を見ながらのんびり上って、軽食でも時間を思った以上に費やしてしまったので、この先は時間を気にしながら進んで行くことにする。

道は尾根へと入る。
歩きやすい平地もあれば、岩を上って進んだり、ちょいと激しい箇所もある。険しい場所ではゆっくり安全に進みたいから、平地はちょっと急ぎ足でスイスイスイ。

ポイント地点である石楠立に向かうまでの間、アセビのトンネルという場所があるらしい。残念ながら周辺には花が咲いておらず、それがどこのポイントなのか分からないけど、乾いた葉をつけた枝には赤いが点々と見られ、青い空に映えていた。

スピードを維持するために私とららが先頭を行き、れんが続き、そこから少し離れた後ろに息を弾ませながらささがついてきて、山では隊長のたぁが最後を固めてくれている。


梯子が出てきた。

自分で選んでコースながらもささの顔はちょっと曇った。

「大丈夫だよ、そんなに険しくないから」

ここで立ち止まって、ハイキングを終わりにすることはできない。

そんなことは彼女もわかっているから、何も言わずに彼女なりのペースで登る。その先の岩場からは雄大な景色が見られた。


「ここって前にテレビで見た場所じゃない?」

ららがれんに尋ねる。

大きな岩がちょいと山際に飛び出していて、ららが行き、れんも続いた。
安全ハイカーである私とたぁ、そしてささはそこまでは行かない。

ここからでも十分な素敵な景色は見られる。それで十分なのさ。

聞いてみると、このコースを決める要因になったのはテレビで紹介していたからだという。

「だけどテレビでは険しい道とか全然なかったよね」

その言葉は梯子や岩場を進む際に、ちょっとした文句口調で何度か聞かされた。


私はささ家族とハイキングに行く時はロープウェイがある初心者コースを選ぶ。なぜならささは膝に痛みが出やすいし、険しい場所に連れて行ったせいで「山、嫌い」となってほしくないからだ。
ささにもそのコースの選び方を勧めていたけど、ここ天城山は彼女が選んだコースだ。

「結構、険しそうだけど大丈夫?」

「大丈夫、大丈夫」

今までの登山経験からそう判断しているんだろうけど、それは初心者コースなんだよね。

それでも本人で調べて選んだコースで本人が大丈夫と言っているのであれば、いいんだろうと思っていた。

だけど実際、彼女の「大丈夫」はテレビで紹介された内容が元になっていた。

テレビ番組の焦点はみんなが「行きたい」と思う食いつきポイントがメイン。魅力以外の点は語られないことが多々ある。特にウィークポイントは。

だからこそ、それがすべてだと信じちゃいけないし、自分で調べることが大切なんだ。


岩場を進んだ先から山の紅葉が見下ろせる。

葉を落とした木もあり、季節的にはちょっと遅かったのかもしれないけど、今しか見られない紅葉絨毯は神秘的だ。

尾根道でありながら道が凹み、木の根をグイっと地上へと持ち上げた木々に左右を囲まれながら進んで行く。

ここが木でできたトンネルと言われればそうとも感じる。だけどアセビがどのような植物か分からないから、「ここかな」、「こっちのことだったのかな」と首を傾げながら推測するだけ。


大岩を削ってできたような場所に橋が続く。

ららは乗り気だけど、もちろんささの言葉は減る。

安全を考えてららを先に行かせる。一人で先頭を切るのが嫌なのか、何度も後ろを振り返っては立ち止まる。ここ周辺は石ころが多く、転がり落ちてくることを考えると互いに距離をあけて歩きたい。だけど彼女が止まれば、その距離は縮まってしまう。

「止まらないで歩いて」

そう言っても、自然と止まってしまうからたまに口調が強くなってしまう。

「ここは両手で岩を掴んだ方が登りやすいから、スティック渡して」

そう言って私は後ろにいるささからスティックを預かる。

私がららが追い越すと、彼女はささに同様の補助をしたいようで手を差し伸べる。だけど彼女はスティックを使わず上っているから、どこでそれが必要で不要なのかは分かっていない。

「スティック預かるよ」

「(ここでは使いたいから)今は大丈夫」

「そこで止まらないで」

道を塞いで前方、後方の動きを遮るから、大人たちからそんな声が彼女に飛んでしまう。


協力して進んで行きたいのは分かるし、それってとても大切なこと。

だけどまずは自分の置かれている状況を理解して、そして相手の行動パターンを把握したうえで、行おうか。

そのタイミングを一緒にハイキングを通じて学んでいこう。



主な登場人物:
私-のん、夫-たぁ、
姉-ささ、姉の夫-れん
姪っ子-らら、甥っ子-ぼう



これまでのお話



無空真実の電子書籍です。よろしくお願いします。


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