9割が知らない!?データガバナンスの新常識③:ビジネスケースについて
はじめに
本日も、John Ladley氏の著書「Data Governance: How to Design, Deploy, and Sustain an Effective Data Governance Program 2nd Edition」を参考にしながら、データガバナンスとは何か?何をするものなのか?といった内容について深く紹介していきます。
これまでの連載①、②でも繰り返し述べてきましたが、データガバナンスとは、ビジネスのプログラムです。そのため、ビジネスにとって価値ある活動にしなければなりません。
しかし、世の中、特に日本で叫ばれている”データガバナンス”と呼ばれる活動を見ると、ITに閉じ、ビジネスに寄与しない内容を話していることが非常に多いです。
情報やデータを資産として扱うために、そしてそれを他の人に納得して動いてもらうためには、データとビジネス活動を結びつける必要があります。
つまり、ビジネスに直接紐づくビジネスケースを作成することが必要となります。
今回は、データガバナンスのビジネス価値を示すにはどうすれば良いか、さらにデータガバナンスのビジネスケースとはどのようなものかについて説明します。
データガバナンスとビジネス価値の示し方
データガバナンスがビジネスに対して価値を示すにはどうしたらいいのでしょうか?
まず、そもそもビジネスが何に価値を感じるか、から考えていきましょう。
これは究極的には、次の3つしかありません。
収益の向上
コストの削減
リスクの低減
この3つに寄与するために、データの観点でできることは、大きく以下2種類の方法があります。
①会計的な価値を示す
データガバナンスが会計的な価値を示すには、例えば以下のような方向性で考えてみると良いでしょう。
ビジネスに直接貢献するもの(顧客の獲得やマーケットシェアなど)を拡大・向上させる
※例えば、サプライチェーンの効率化や、M&A先の調査・分析、M&A後のデータ統合など効率性の向上(作業の効率化や削減、情報伝達の速度向上など)
自社データを知的財産として販売するなど、”データのマネタイズ化”
法令違反などによるリスク回避(罰金や評判の損失など)
②間接的な価値を示す
これは、マーケティング活動をイメージするとよいかもしれません。マーケティングも、直接会計的な価値を与えているわけではありませんが、商品の認知度を上げるといった方向性でビジネスへの価値を間接的に示しています。
このような価値について、データガバナンスに置き換えて考えてみましょう。
例えば、ビジネスメタデータ(あるデータのビジネス的な意味や定義、論理名など)を整理し、データ利活用者がデータ分析の際、利用しやすい環境を作り上げる。といったことが挙げられます。
こうしたビジネスへの価値を示すためには、企業の中期経営計画などを見ながら、データの観点で何ができるかといった視点が必要です。
逆に、価値を示すことが難しい、もしくは受け入れてもらえなさそうな場合、悪いデータがあることによるコストや、将来的な債務と言う視点で考えてみると良いかもしれません。これを”データ負債”と呼びます。
補足:データ負債
データ負債とは、データが整理されていないことにより、現在もしくは将来発生する問題と、その対処を後回しにすることで、修復コストが増加していくようなものを指しています。
つまり、データ修復に対する利子のようなものだと考えてみてください。
例えば、システムが個別縦割りでサイロ化しており、I/F資産やデータ変換コストなどがかかっているというような状態です。本来ならすぐに修復すべきですが、修復を後回しにすることで、よりI/Fが増え、変換コストも増える。さらに、I/Fがより増大化することにより、修復にかかるコストも時とともに増加していくような状態をデータ負債と言います。
このコストや負債も、ビジネスケースを作成する上で良い観点となるでしょう。
データガバナンスにおけるビジネスケース
ここまで、データガバナンスがビジネスに寄与すべきであることや、その価値の示し方について理解できたかに思われます。
次に、ビジネスケースを作るためには何が必要かについて述べていきましょう。
しかしその前に、ビジネスケースとは何かについて、あまり聞き馴染みのない方のために、簡単に解説します。
ビジネスケースとは、あるプロジェクトや投資を実行する価値があるかどうかを判断するために作成される文書や資料です。この文書では、提案されているプロジェクトの目的、期待される利益、かかるコスト、リスク、そしてそのプロジェクトが会社や組織にとってどれだけの価値があるかが具体的に説明されています。
では、データガバナンスにおけるビジネスケースはどう作成すれば良いでしょうか?ここでは作成に必要な要素を解説していきます。
ビジネスの方向性を完全に理解する
企業内の資料(中期経営計画)もしくは、四季報などの外部資料から、ビジネスの目指したい目標を把握し、それに合わせたデータガバナンスのビジネスケースを作成する。潜在的な機会の特定
これは、ビジネス戦略に照わせた時に、必要となりそうな情報やそれに必要なガバナンスを特定することを指す。よくあるのは、ビジネスユーザが情報に素早くアクセスできるよう、データカタログなどを整備し、利活用しやすいような状況に整備することで、ビジネス戦略を達成させる機会を生み出すなどである。利活用機会の特定
これは、ビジネスの目標を達成するのに貢献に重要なデータやその利活用を特定することである。昨今、データウェアハウスなどを構築し、データを活用することが定番となってきているが、ビジネスが成果を上げられそうなデータを活用する機会を与え、その中でデータガバナンスが活動できる場所も特定する。ビジネスの利益の特定
これは、概念的なものではなくキャッシュフローに計上できるような内容が望ましい。例えば、収益だけでなく、法令や会計上のリスクやそれによるコストを考慮するなどの手段も考えられる。コストの定量化
現状のITやIT関連コスト、特にデータガバナンスを行わないことによるあらゆるコストを見積もる。これは例えば、過剰なツールの利用や、I/Fの増大などが当たる。また、コストを見積もる際は、ガバナンスを行うことによるコスト(責任者を割り当てる際の人件費など)も見積もること。ビジネスケースのドキュメント化
上記で特定したコストや収益などを、企業にあったフォーマットで形にし、納得がいくような内容を示す。ビジネスケースを共有するためのアプローチ方法の検討
作成したビジネスケースを、組織戦略の全階層にアプローチできるような方法を検討する。さらに、そのアプローチの進捗が測定可能なものにしておくこと。
要するに、ビジネスが何をしたいのかを理解したい上で、データの観点で、それを支援するための方向性(利活用から攻めるのか、利益やコストから攻めるのか)などを決め、そこで決定した内容をドキュメント化し、組織に広めていくことが、データガバナンスにおけるビジネスケースに必要です。つまり、他のビジネスケースを作成するのと同じように、何も新しいことや難しいことは必要ないということです。
ただし、留意しておくべき点として、ビジネスケースのような戦略的な内容は、企業の一部のトップ層しか関わらない場合が多いです。しかし、データガバナンスのビジネスケースはトップシークレットとしすぎないほうが良いです。
なぜなら、データガバナンスとは組織や業務の、大きな変革が伴うため、トップから現場まで、多くの人間に影響があります。人は、他人に「強制的にこれまでのやり方を変えさせられる」と受け取ると、生存チャネルが働き、過剰に抵抗を見せます。この抵抗が各地で発生すると、中々データガバナンスが前に進みません。
抵抗を防ぎ、できるだけ多くの関係者が納得して進められるよう、トップ層から現場まで様々なレベルで、ビジネスケースを公開していく必要があります。
よって、一部のトップ層だけでなく、現場の方にも納得感があるようビジネスケースは簡潔かつわかりやすく作成しておくと良いでしょう。
最後に
以上のように、データガバナンスとはビジネスに寄与する必要があるため、ビジネスケースを作っておくことは重要です。
実際、筆者の経験としても、データガバナンスを推進させたいが、費用対効果などが見えないため、前に進まないといった声もよくお聞きします。
データガバナンスを組織に浸透させるために、本日ご紹介した内容も参考にしながらビジネスケースを作ってみることをお勧めします。
お読みいただいた方々のデータガバナンス推進の一助になれば幸いと考えています。
本日はここまでになります。次回は、実際にデータガバナンスを実行する上でのステップのオーバービューをご紹介しようと考えていますので、次回もぜひお読みいただけると嬉しいです!
それでは!