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生徒会長になる方法 4

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「では、これより立会演説会を行います」

 選挙管理委員の言葉が全校生徒が集まる体育館に響き渡った。生徒たちの綺麗に揃った拍手が舞台袖にいる白井と美羽にも聞こえた。名前を呼ばれた生徒会役員の立候補者が一人一人舞台に向かう。緊張している白井の手を握る美羽。

「大丈夫だから」

 頷く白井。緊張で震えていた手が落ち着く。そして、白井の名前が呼ばれて二人は舞台に出た。
 立候補者が次々と決意表明を終え、白井の番が来る。美羽は演説のスピーチを白井に任せている。つまり、これから話すことはすべて白井の言葉である。彼女が何を話すのか、わからない。

「この度、生徒会長に立候補した二年二組の白井姫奈です」

 声は小さいがマイクのおかげで助かっている。

「立候補した動機はありません」

 ざわつき始める生徒たち。白井は続ける。

「私は目立ちたくありません。生徒会に興味はありません。最初は建前上、それらしいことを言おうかと思いました。けど、それは嘘だから。嘘をついて苦しむのはきっと自分だから」

 ざわついていた生徒も黙って、白井の演説を聞くようになる。

「私が髪を切ったのはイメチェンなんかじゃない」

 何の話をしているのか、全くわからない生徒たち。しかし、生徒指導の先生だけは心当たりがあった。

「私が髪を切った――切られた翌日、中本先生は言いました」

 中本先生とは、生徒指導担当の先生だ。

「『イメチェンか。似合っているな』と」

 先生たちの視線が中本に向けられる。

「私は『はい』って答えたけど、それは違う。私をいじめていた女子たちが無理やり、私の髪を切ったから」

 また場が騒がしくなる。体育館は生徒たちの「いじめ? マジ」とか「嘘じゃないの」など、いろんな声で飛び交っていた。場が荒れている。美羽が予想していなかった方向に進んでいる。当然、それは美羽だけではない。ここにいる全員だ。

「白井さん。これは決意表明です。関係ない話は止めてください」

 選挙管理委員が口を開いた。いじめの告白を同じ生徒が消そうとしている。美羽が持っていた武器はここで使うべきだ。

「豊田さん。お戻りください」

 選挙管理委員の声は美羽に届かない。持っていたUSBをパソコンに繋げ、一本の動画を流した。
 そこに映っていたのは体育館裏でスマホを触る富岡たちの姿。そして、途中で生徒指導の中本が映る。音声もしっかりと録音されている。

「おい富岡。学校内では携帯電話の使用は禁止だぞ」
「はいはい」

 スマホをポケットにしまう富岡。中本はその腕を掴んだ。すると、富岡は「これ体罰じゃないですか」と周りに聞こえる声量で発した。すぐに中本は手を離した。富岡の他にも、そこに生徒がいた。もしも、このまま手を離さなかったら問題になると思ったのだろう。中本は結局、富岡のスマホを没収しなかった。
 動画はそこで終わった。
 再び舞台に戻った豊田はマイクを手にする。

「全校生徒の代表となる生徒会長に立候補する富岡――くんが、校則を破っている。これはどうかと思います。それと、校則を破っている生徒を見逃す先生」

 話を続けようとする豊田を止める白井。

「これは私の演説だから」
「いや、でも」

 首を横に振る白井。美羽は彼女に任せて後ろの席についた。

「私がこの場でいじめを受けていたと告白をしたのは、私の言葉が消されないようにするためです。決意表明は以上です」

 今回の立会演説会は前例にない荒れた演説会だった。その後、白井と美羽は長い時間、説教を受けた。

 開票の結果、生徒会長に任命されたのは富岡勝だった。白井は落選した。
 中庭。

「生徒会長になれなかったね」

 白井はボソッと口にした。あのような騒ぎを起こして、なれると思っていなかった美羽はこの結果に満足だった。

「でも、感謝するべきだよね。中本の奴。あの動画がきっかけで、自分は体罰していないって証明になるんだから」
「豊田さんのそのスタンス、変わらないよね」
「白井。同じ歳なんだし、美羽でいいよ」

 どんな結果になっても仕方がないと思っていたが、やはり美羽は落ち込んでいた。本気で白井を生徒会長にしようとしていたからである。

「美羽なら、なれると思うよ。歌川議員の秘書。あと、私も白井じゃなくて姫奈で呼んでよ」
「ありがとう。姫奈」

 二人は仲良く教室に戻る。


 時は八年後、2022年に戻る。

「いよいよ始まるんだね。私もしっかりとやるから」
「よろしく。姫奈」

 これから、歌川府知事の会見が行われる。そこに秘書となった豊田美羽の姿があった。

[終]

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