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【本】「明け方の若者たち」~懐かしいあの感覚が蘇る

2020年に発表された小説を今更ながら読みました。各界の著名人、全国の書店スタッフから絶賛され、2021年には映画にもなったそうですが、恥ずかしながら全く知りませんでした・・・自分の疎さにあきれるしかありません。が、今更ながらとても良かったので感想文として記録しておきたいと思います。

著者はカツセマサヒコさん。本の著者紹介によると「一般企業勤務を経て趣味で書いていたブログをきっかけに編集プロダクションへ転職。独立後、ウェブライター、編集として活躍」とのこと。恐らくご自分の経験や身の回りでの出来事から着想を得て書かれたのかもしれません。とてもリアルに表現されていて、それでいて読後がカラッとした爽快感のある文体が印象的でした。

基本はボーイ・ミーツ・ガールのストーリーなのですが、学生から社会人への転換期に、きっと誰もが思う「こんなはずじゃなかった」感がとても巧みに描写されていました。カツセさんは超・氷河期時代の私よりも一回りくらい若い世代ですので、ここまで就職が厳しかったのかな?とか思いましたけどね。本当にキツイのは現在40オーバーからアラフィフ世代だと思うので・・・(分かる方、いらっしゃいますよね?)。

さらに、登場してくる人たちの「会話」がとても「リアル」だという点。全然嘘くささがなく、「こういう会話してたよね」という感じ。たしかにこれは映像化したくなります、というか、しやすそうな気がします。主人公の葛藤はきっと普遍的なものであり、おそらく誰もが考えたり、経験したりするようなことのように思います。だからこそ、身近に感じ、きっと多くの人が「これは自分のためのストーリーだ」と思ったのではないでしょうか。

この「彼女」さんもいいんです。誰もが憧れるラブストーリー。そしてもう一人、社会人になってからの「親友」もいい。これが学生時代の友人だと、ちょっと違うんですよね。やっぱり社会人、という学生とは違う、もっとリアルな世界で知り合った仲間、という設定がまた素晴らしい。主人公との会話のやり取り、丁々発止、とても楽しかったです。こんな親友、あこがれたな・・・(笑)。


有名な小説、さらに映画化されているということで、すでにご存じの方も多いと思いますが、結末や内容を細かく話すのは「無粋」というもの。ここではほのめかす程度にしつつも、以下は少しだけネタバレ風味になりますので、お読みになる際はご注意ください。

私が子どものころ「世にも奇妙な物語」のレギュラー版(もはやご存じない方が多いと思いますが、木曜20時からレギュラー番組だったんですよ)以外に初めてのスペシャル版(特別編)が放送され、たしかその第1回だったと思いますが、「幸福の選択」というストーリーがありました。脚本は今や大御所、中園ミホさん。そして主演は浅野ゆう子さん。

簡単にストーリーラインを紹介すると、「バリバリのキャリアウーマンの主人公が、ある日占い師に「1週間だけ違う世界」を見せてもらえることに。その世界では子育てに追われる主婦になっていた、そして1週間後、元の世界に戻る・・・」というようなお話だったと思います。

人は誰でも「自分の世界はこうじゃない」という幻想を抱きながら毎日を送っているんだと思います(濃淡はありますが)。でも、どこかで折り合いを付けながら、今の生活を送っている。子ども心にこのストーリーはものすごく印象に残ったことを記憶しています(脚本も素晴らしいですし、浅野さんの演技も良かったんだと思います)。

今回、「明け方の若者たち」を読んだときに、真っ先に思い出したのがこのストーリーでした。大学生までは「自分は何にでもなれるんじゃないか」と夢想し、就職活動でプチ挫折(やりたいことの第一志望に合格することって結構難しいじゃないですか)し、そして社会人生活で現実の世界に叩きのめされる。こんな感じじゃないですか?私はまさしくそうでした。「俺はこんなんじゃない」とか最初は、もがいたり、悩んだり。そういう風にあちこちぶつかりながら、自分の道を見つけていく。

この作品の「彼」のような生き方もあるし、「親友」のような生き方もまた然り。そうやって折り合いを付けながら、自分らしい人生を歩んでいく・・・だけど、華々しく最初に自分が思い描いていた道を進んでいる人を見るとなんとも言えない悔しさ、惨めさみたいなものに襲われて・・・。こんな等身大、きっと誰もが思うであろう気持ちを代弁してくれているカツセさんのこの小説は、そんなところも共感を得たのでしょうね。

どんな道にも裏と表があり、つまりは「いい面」と「あまりよくない面」がある。そして何より、人は「ないものねだり」をしたがる生き物であるということ。でもそんな夢を見るだけ、または夢に生きる人をどこか冷めた目で見送るのではなく、自分もちょっとだけ前に進んでみる、そんな前へ進んでいく主人公たちに自分を投影し、ちょっと(いや割と?)歳は取っていますが、私も一歩前へ進んでいこうかな、とポジティブなメッセージを受け取ることが出来ました。次回作もとても楽しみな作家さんです。

あとはちょっと映画版も見たくなってきましたね、というか各章に音楽のことが触れられていて、これがBGMの効果を出していて、ここもまたテンションがあがったポイントでした(笑)。このあたりも上手に映像化されているといいのですが・・・。

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