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ただ歩くだけという特別な日 2

ただ、1日歩く。

わたしにとってなにがぜいたくかと言えば、こんな1日が過ごせることかもしれない。

9月の頭、思いがけず週末を札幌で過ごすことになった。

この件だ…。

旅の目的は果たせなかったけど、代わりに1日、よく知らない土地での自由な時間を手に入れた。

札幌を、1日歩こう。

一夜明けて朝からカメラと本だけ持って外に出た。

旅先ではいつも朝の街を散歩する。
昼は賑わう観光地も朝は人もまばらで違った顔が見れるのがいい。

この日のスタートは7時頃。
いつもよりちょっと遅いのは前日飲み過ぎたせい。

まだあまり人がいない商店街。

天気はそこそこいい。

札幌の街の印象。
道が広い。

こういう左右対称のシンメトリックな景色が好きだ。

そして地下街が広い。
地上と地下、2つの世界があるみたいだ。
朝の地下街はまだシャッターがおりている。

どこからか出汁の香りがする…。
たどっていったら地下に立食いそば屋があった。

大通駅の改札の脇にある立ち食いそば「ひので」。
朝の7時にオープン。
まだ開店直後なのにひっきりなしにお客がくる。

天玉そばを頼む。
券売機ではなく口頭で注文するスタイル。
470円。

濃いめのつゆだけど味はそこまで強くない。
少しこしのあるそばの茹で具合がいい。
しなっとした天ぷらがつゆをしっかり吸っている。
途中で卵の黄身をといて、つゆと一緒に流し込む。
しっかりした駅そばの味。
いい一日のスタートだ。

となりでかけそばを頼んだ年配の女性。
猛烈に唐辛子をかける。
シャカシャカ音がする。
いつまでもする。
いや、まだ入れんの?
そんくらい入れる。
でもなんかそれが当たり前に感じられる独特の世界観がある。

帰り際、壁を見たらこんな張り紙が。

「唐がらし」は「命」らしい。
あの人は、命をふりかけていたのだな。

地上に出た。
鳥が飛んでる。
平和だ。

8時の大通公園。人はまだほとんどいない。

公園でグルメフェスタをやっているようだけどまだオープンしていなかった。

街にもまだ人がいない。

いたるところに地下への入り口がある。

アニメイトもある。
生きていける。

コーヒーを飲みながら本を読んでいるうちに街に人が増えてきた。

狸小路の商店街を歩く。

路地の奥に気になる店がある。

ふらっとレコード屋をのぞいたり

上を見上げたり

窓から外を見たり

とにかく天気にはめぐまれた

ジンギスカンもいいなと思いながら歩く

道がやっぱり広い

なのでせまいところを見ると入りたくなる

大通公園でグルメフェスタがはじまっていた

人がどんどん増えてくる

公園のはじまで来たら誰もいなかった

これ誰だっけ?なんかいいこと言った人だよね。

そろそろお昼を食べようと思う。
グルメフェスタでは食べず、編集のO川さんにお勧めしてもらったカレー屋を目指す。

相変わらず道が広い。そして建物が大きい。

カレー屋、あった。
ものすごくわかりにくい場所にある。
店は地下。しかも行列ができている。

スリランカカレーの店らしい。
20分くらい並んで店内へ。
「○○を20番で」と、常連が慣れた感じでオーダーしている。
どうやら何番というのが辛さの単位で無限に辛さが足せるらしい。
メニューを見てもどんなカレーか想像できず、
ナットひき肉ベジタブルというカレーを頼む。
大人は辛さ5番からと書いてあったので、ちょっとだけ足して7番の辛さにした。

ライブハウスみたいな暗めの店内は、ずっとレゲエっぽい音楽が流れている。
独特のファンキーな空気感。

カレーが来る。
ナットひき肉ベジタブルは、ひきわり納豆と挽肉と野菜のカレーだった。

わたしの前に入った客も、あとで入ってきた客も「ナットひき肉ベジタブル」を頼んでいた。どうやら人気メニューのようだ。
7番の辛さでじゅうぶん辛い。
納豆が辛さを中和しているのでふつうに食べれるけど、けっこう刺激のある辛さ。
みんな20番とか頼んでいたけど、どのくらい差があるのか。
さらっとしたスープ系のカレーだけど、納豆とおくらのねばりで不思議な食感。
そしてスパイスの辛さと納豆の苦さが同時に広がって独特のうまみがある。
ジャガイモにニンジンの甘みもいいアクセントになる。
かなり量があり、完食して満腹になる。
うまかった。

店を出て外を歩いていたら、三吉神社というのを見つけたので、お参りをしておいた。
わたしの前にお祈りをしていた人が5分位、手を合わせて動かなかった。

富士フイルムフォトサロン札幌があったので、開催中の写真展を見た。
北海道ではない日本のどこかの風景写真のグループ展だった。
東北かどこかで撮られた馬の写真がよかった。

時計台の前に馬がいた。

しばし見つめ合う。

せっかく来たので…

中に入った。
200円。

ちゃんと時計だった。

駅に向けて歩く。

駅前に大きな紀伊國屋書店があった。
「続ける思考」がよい展開されていた。
ありがとうございますの気持ちで1冊本を買った。

ヨドバシカメラもある。
生きていける。

団地っぽい風景。
団地じゃなかったけどこういう景色を見ると安心する。

北海道大学に入ってみる。

キャンパス内が広い!というか、とんでもなくデカイ!!
そして何? このファンタジーみたいな世界は。

「わーすごい広い」
って小さな女の子がはしゃぎながら走ってる。
ほんと広い。
子供が虫取りしてたり、水遊びしてたり、
なんかこの世とは思えないくらいきれいだった。

さっき、紀伊國屋書店でこんな本を買ったので読もうかと思ったけどやめた。
圧倒されるほど幻想的な場所だった。

トンボがいた。

北海道庁旧本庁舎前で、芝生の中から出てきた年配の男性が目の前でこけた。
起き上がるのを助けながら声をかけた。
「ありがとう、段差に気が付かなかった」と言って、笑顔で歩いて去って行った。

芝生の中で何をしてたんだろうと思って行ってみたら池があった。
ここで蓮を見ていた人だったようだ。

札幌は広いところが多すぎて狭いところを見ると入りたくなる。

ふらふら歩く。

空き地を宣言している。

サツゲキという映画館があった。

超信頼できるラインナップ。

ちょうど何分か後にはじまる映画があった。
「ランサム 非公式作戦」を見る。

真っ赤な壁に真っ赤な座席。
ミニシアターというにはかなり広い劇場だった。
札幌はミニシアターも広い。
映画も最高だった。

映画館を出たら少し日が暮れかけていた。

そう言えば路面電車に乗ってなかった。
とりあえず何も考えずに乗ってみた。

なんだかよくわからないところについた。

暮れゆく空がきれい。
それにしても、ここはどこだ?

歩いて中島公園というところに流れ着く。
ただの夜の公園だった。

地下鉄で大通へ戻る。

地下鉄を降りて、朝からずっとちらちら目に入っていた三越に入る。
夜のデパート食品売り場で旅の楽しみのご当地納豆探し。
売り切れが多いけど、見たことがない納豆がたくさんあった。
売り切れている「ミスニセコ」が気になる。

外は、すっかり夜。

夜の大通公園グルメフェスタへ。

人が多すぎて歩行困難。

コロコロジンギスカンと鴨肉の串焼きセットと肉系のおつまみを買って、赤ワインを飲みながら食べる。
うまいんだけど、一人だと肉の量がめちゃくちゃ多くて満腹になる。

歩きすぎていたせいか、ワインで酔う。

酔い覚ましにまた歩く。

大行列の「すみれ」をスルーして

編集のO川さんにお勧めしてもらったおでん屋へ。

まずは、ぬる燗をいただく。

そして大根、しらたき。
だしはあっさししてるけど深みがあってめちゃくちゃうめえ。

「うちは変な店なんですよ」と言う店主。

確かに変わったおでんがたくさんある。

タコにタケノコに変わったおでんの具を食べる。

ウニのおでんを生まれて初めて食べた。
ひっくり返るくらいうまった。

60年前から札幌でおでんやをやっていて、実家もおでんやだったという。
考えて作ったメニューなんかひとつもなくて、偶然生まれたものばかり。
だしだって、秘伝のとかじゃねーんだ、こんなのその辺で売ってるもので簡単に作れるんだ。簡単に再現できるようなものじゃねえとダメなんだ。
と独自の料理哲学がある店主の話も面白かった。
最近は、飲めないから「お茶で」という客が多すぎる。
うちは飲み屋なんだよ。
と飲めないカップルの客が入ってきたのを目の前でぼやいていた。
おでんと日本酒を3合いただいた。
ステキな時間だった。

再び街へ出る。

すでに飲みすぎてるけど、飲み足りないので、すすきのの地下の飲み屋街へ。

ふらりと入ったバーのカウンターの端っこの席でハイボールを飲む。

飲んでいると、隣の席で数人が話しているのが耳に入ってくる。
その中の一人の女性が
「いま、量子力学の本読んでて
それが引き寄せを科学的に解明するような本で
タフティって本なんだけど…」
と言っている。
「ん?その本!?」
Amazonで検索してみる。
間違いない。
わたしがデザインした本だ。
ロシアの自己啓発本の翻訳書。

「もしかして、それってこの本ですか?」
スマホの画面を見せる。
「あ、この本の話してました!」
「これわたしがデザインした本なんです」
「えーーーーーーーー! リアル引き寄せ!?」
で、そこから一気に話が盛り上がる。
そこに旅好きの店主も加わって、話が盛り上がる。
じつは店に入った時からカウンターの中にあった本が気になっていて、そこにもわたしがデザインした本が1冊あって…。
店主の話を聞いたら、サンクチュアリ出版の元社長の髙橋歩の影響で店を始めたとか…いや、わたしがデザインを始めたきっかけは髙橋歩に飲み屋で声をかけてもらったからだし、たぶん店を始めるきっかけになった本って、わたしがデザインした本ですよって…。
なんだかすごく偶然のつながりが連鎖する場だった。
ちょっと怖くなった。

酔いが回って外に出てるとストロベリージャムというライブバーでバンドが、Bzの「Alone」を歌っていて、それに合わせて店の前で歌ってる女性がいた。
交差点では、アロハシャツの男性が槇原敬之の「どんなときも」を爆音で熱唱していた。
どうやらすすきのの道は歌う場所らしい。

歌声と秋の虫の声をききながら夜のすすきのを歩く。
あと少し飲みたい気分…。
その頃、日付が変わった。

よく歩いた。
ただ歩くだけ、そんな何でもない1日だった。

+++

なんともつかないことを話している「続いてるラジオ」です。

友人と映画について話しているポッドキャスト。
こちらはちゃんとしてます。
ただ「ランサム」について話し忘れました…。


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