第5章 2020年初旬 新型コロナウイルスの出現

2020年の2月ごろから日本でも流行新型コロナウイルスの流行が叫ばれていました。そのパニックは徐々に日本全国へと広がり、行きつけのスーパー銭湯も、ジムも、プールもすべて営業自粛に追い込まれました。こうなっては今まで通りの保存療法はできません。自宅での自粛生活の中で、ヨガマット等を使って自力で行える範囲のことを行うしかありませんでした。
またこの時期に、日本では認知度が低いですが、ぶら下がり健康器と言うものを買いました。どういうものかと言うと、シーソーのようなものに横に寝そべって、自分の体を丸ごと反転させてまるで逆立ちでもするように足首からぶら下がるのです。文章よりも絵で見る方がわかりやすいと思います。そうすることで体を逆さにし、重力に身をまかせ脊椎を伸ばし椎間板にかかる圧を少しでも取り除こうとするものです。これをやると、腰の(おそらく椎間関節が)「コキッ」と言う音とともに背中の筋肉や腰椎が重力に従って伸ばされていくのがわかります。結構気持ちいいです。私はこれを寝る前に5分から10分ほどやってから眠りにつくことにしました。なぜ眠りの前になったかと言うと、どのみち仰向けになって寝ることで重力のせいで体が引き延ばされるので、人間は起床時が一番背が高いとよく言いますが、そうやって狭くなってしまった椎間板を少しでも引き延ばそうとする意図がありました。

しかし残念なことに、これらの保存療法にあまり効果は見られませんでした。ジムに行くのはもともと好きだったので週4から週5位でジムに通って体幹トレーニングをしていましたが、腹筋こそ割れたものの腰痛はなくなりません。私は保存療法の効果に限界を感じていました。
家族の用事でたった10分の間車に座らなくてはいけなかったせいで、車を降りてからの1時間弱をソファに寝そべって痛みが引くのを待たなくてはいけない。こんなのでは、(少なくとも自分にとっては)保存療法の効果があったとはいえません。
そろそろ手術を検討する時期だろうとも考えていました。

前の章で言及しましたが、日本の医者からは「腰にチタンを入れて固定する手術もあるけど、そうすると今度はその上のレベルが傷んできちゃってキリがなくなるから、あなたの年齢ではお勧めしない。まあ、体幹トレーニングとかですかね」と言われていたので、日本の外に目を向けることにしてみたのです。そこで検討したのが、従来行われている椎間固定術ではなく、海外で盛んに行われている人工椎間板置換術(以下、ADR。TDRともいう)でした。

ADRとは、傷んだ椎間板を取り出して、天然の椎間板と似たような動きをする人工の椎間板とすげ替える手法の手術のことです。これは主にアメリカではなくヨーロッパで盛んに行われています。
ADRを受ける!と決めても、さまざまな決定要素があります。予算はどれくらいか。どの国で、どの医師に執刀してもらうのか。どの人工椎間板のモデルを使うのか。そもそも自分の脊椎にADRは適用できるのか(脊椎の状態によってはADRが適用できない場合があります)。など、様々な要素を検討する必要がありました。
そこで私は、FacebookにあるADRの患者で作られた数々のグループに参加し情報収集をすることにしました。そこには、ADRを既に受けた人、これから受ける人、ADRで良い結果を得られなかった人など、様々な人の体験が画像や文章とともに非常に多くかつ詳細に記録されていました。
先人たちの貢献にありがたみを感じながら、私は、私にとってどの医師が信頼できて、どの人工椎間板のデバイスが1番信頼できるのかなど数カ月にわたり情報収集に努めました。
コミュニティーの人たちも優しい人たちばかりで、個人の間でメッセージを送って情報交換をしたりすることもありました。

コロナ禍の中、自宅で体幹トレーニングとストレッチを続けていた自分も、複数のADRを実施する医師とのスカイプ通話を経て、ついに医師の決定に至りました。

ドイツ、デュッセルドルフにあるクリニック・ベル・イタージュ(Clinic Bel Etage)の院長、アンドレアス・シュミッツ(Andreas Schmitz)医師に、フランスのFH Orthopedics社製のLP-ESPという人工椎間板を入れてもらうことに決めました。
なぜこのような結果に至ったかというと、世界中にコロナウイルスが蔓延する中、ほとんどのADR関係のクリニックや医療機関が患者の受け入れを停止していましたが、シュミッツ医師のクリニックは平常通り運営していただけでなく、口コミも大変よかったのでシュミッツ医師に手術してもらうことにしました。

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