【はちどりの前日譚】映画『リコーダーのテスト』感想
1980年代の韓国、ソウルの団地に住むある少女の日常を描いた短編映画『リコーダーのテスト』。2018年に公開された『はちどり』の前日譚に当たる作品である。
映画配信サービス『JAIHO』にて先日まで配信されており配信終了ギリギリに何とか鑑賞することができた。この作品を観るのはこれが2回目なのだが、改めて素晴らしい作品だと思ったので感想を挙げておきたい。
家父長制、社会格差、男女格差…『はちどり』でも描かれていた社会問題が28分という短い時間の中に収められている。そうした背景を描きつつ少女の日常譚としてまとまっており素晴らしいという他ない。
何ならじっくりと主人公ウニの心情を描いていた『はちどり』よりコンパクトにまとまっているので、こちらの方が好きという人もいるのではないだろうか。
感心するのはキム・ボラ監督の演出の上手さ。
例えば本作の舞台は1988年のソウルオリンピック開催中の最中。80年代のオリンピックと言えば国民全体が盛り上がること間違いなしの行事だ。
だが、劇中ではオリンピックに触れる描写はないし母親に至ってはオリンピック放映中のテレビを消してしまう。こうした描写だけでウニ一家がどういう家族なのかが伺える。
『はちどり』はキム・ボラ監督自身の少女時代をもとに描かれたということなので、前日譚にあたる本作もそうなのだろう。
厳格な父、疲れ切った母、男尊女卑の思考に染まってる兄、経済的に余裕のない家庭…とても息苦しい環境、ウニにとって家庭は安心できる居場所ではない。わざわざタンスの中で眠るウニの姿は胸を締め付けられる。
特に印象的だったのはウニに対する母親と父親の異なる行動の場面。
疲れた顔の母親に「私って可愛い?」と尋ねるウニ。
最初は目も合わさない母親だがウニは執拗に質問を重ねていく。
この行為、自分はウニによる「私は本当に両親に本当に愛されているの?」かを確かめるサインだと感じた。母親がウニのサインに気付いたかどうかは分からないが何かを察したのだろう。ウニを呼び寄せ娘を抱きしめる。
この場面の後に父親とウニの場面がある。恐らく家族の決まり事なのだろう、朝早くから家族総出でランニングをしている。靴ひもがほどけたウニの靴を結び直す父親。ウニはその父の頭に触れようと手を伸ばす。だが触ることはできない。父親の態度がそうさせる。
抱きしめてくれる母と触れることのできない父、綺麗な対比となっておりキム・ボラ監督の母親、父親への思いが汲み取れる。
演出も良いのだが淡い映像も良い、キム・ボラ監督やっぱり良いなぁ。
また新作が観たいものだ。
ちなみにこの作品はDVDの『はちどり』の特典映像でも鑑賞することができるので興味ある方は是非ともチェックして欲しい。
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