【鎮魂と継承の物語】『ゴーストバスターズ アフターライフ』感想
『ゴーストバスターズ アフターライフ』は日本で2022年に公開された映画だ。84年に公開された『ゴーストバスターズ』シリーズの3作目となる。
この映画を「正当な続編」という触れ込みで紹介している記事をいくつか見かけたが、この"正当"という部分には含みを感じてしまう。
というのも、ゴーストバスターズシリーズは2016年に主人公を全員女性に置き換えたリブート作品を公開しているからだ。
この作品は公開前から大炎上する騒ぎになった。
原因はいくつか挙げられるが、キャストを全員女性に置き換えたことでシリーズファンから反発を喰らったという点が大きい。
個人的にはリブート版の『ゴーストバスターズ』も好きな作品だ。
敢えて言うならシリーズの雰囲気は『ゴーストバスターズ アフターライフ』よりリブート版の方が引き継いでいると思う。
『ゴーストバスターズ アフターライフ』からは過去シリーズにあった能天気ではなく切なさを感じた。
オリジナルメンバーのイゴン・スペクラーが命を落とす場面から映画は始まる。これは2014年にイゴン・スペングラー役のハロルド・ライミスが亡くなったためだ。
オリジナルメンバーの死亡という始まり方も衝撃的だが、彼を取り巻く晩年の状況もショックだった。
スペングラーは家族を置いて疾走しており娘のキャリーからは恨まれている。メンバーのスタンツとは絶縁状態になっており、町の人たちからは変人扱いされているという不遇っぷり。
前2作で見られた馬鹿馬鹿しさやユルい雰囲気は今作にはない。
金銭面で苦しむシングルマザーという設定など、作品を包む雰囲気はむしろ世知辛い。これは監督をつとめたジェイソン・ライトマンの作風の影響もあるだろう。
本作が"正当"と言われる理由の一つは、監督をつとめたジェイソン・ライトマンがシリーズの監督アイバン・ライトマンの息子という点もある。
ジェイソン・ライトマンが監督をつとめた『JUNO/ジュノ』や『マイレージ、マイライフ』はアカデミー賞にノミネートされ話題となった。
彼の作品は、人生において悩みを抱えたり行き詰っている人を題材にしていることが多い。キャリーもそうだが、感情を表に出しづらいファービーなどの設定もそこに引き継がれているように思える。
主人公をおじさんたちから子供たちへ引き継いだことにより、ジュブナイルな雰囲気はあるものの本作からは明るさより暗さを感じた。
また舞台となっている田舎町の寂れた雰囲気や夕陽をバックにした映像の多用など、彼らがいる場所からも静けさと寂しさが感じられる。
こうした設定も監督の作風かと思いながら観ていたが、物語を観ていくうちに作品自体がハロルド・ライミスへの鎮魂歌的なものになっていることに気付いた。
イゴンの死から始まった物語は、娘やかつての仲間との不和を解消していく。物語全体がイゴンの死を弔っているともいえる。
だからこそ全体的に寂しさと暗さを感じる雰囲気となっているのだ(もし前2作のような雰囲気だとイゴンの死がとても軽いものになってしまう)。
最も胸を打たれたのは「ハロルドに捧ぐ」という一文が出る場面。
完璧な瞬間だと思った。あの一文を出すためにそれまでの物語を描いたんじゃないかと思うほどに。
ラスト、NYを走るキャデラックを空撮した映像(サイレンはなく無音)で終わる映像もどこか切ない。
もしかしたら本作はメンバーの死と向き合うために必要な作品だったのかもしれない。
本作公開後にアイバン・ライトマン監督も亡くなってしまった(日本では2022年4月に公開されたが、2021年に公開されている)。そういう意味で本作はアイバン・ライトマンの遺作にもなっている。
『ゴーストバスターズ アフターライフ』は続編が製作されているようで、シリーズから引き継いだ者たちがどのような物語を紡ぐのか、とても楽しみだ。
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