【これぞフランス産エンターテイメント】映画『ジェヴォーダンの獣』感想
18世紀のフランスを震撼させた謎の生物「ジェヴォーダンの獣」にまつわる伝説をもとに描かれたアクションミステリー映画『ジェヴォーダンの獣』。
日本では2002年に公開されたが22年経った今年4Kレストアされた映像のディレクターズ・カット版が公開されたので観に行ってきた。
「ジェヴォーダンの獣」とはフランスで実際に起きた怪事件。
18世紀のジェヴォーダン地方で女性や子供ばかりが謎の生き物に襲撃される事件が起きた。被害者数は3余年あまりで100人以上。だがその正体は謎に包まれたまま。
物語は獣退治のために2人の男がジェヴォーダン地方を訪れるところから始まる。
実は本作を観るのは2回目。もう何年前かは覚えてないけど1回目はDVDで観た。
正直、内容のほとんどを覚えてないのだけど(だから今回は新鮮な気持ちで観ることができた)面白かったことだけは記憶に残っていて、だから今回観に行くことを決めたんだと思う。
そんな本作は評判を知らずに観たら予想を裏切られること必至。
ホラーなオープニングから始まり陰鬱なジェヴォーダンの様子が映し出される。
「ああ、ホラーミステリー系かな」と思っていると、キレキレのカンフーアクションが繰り広げられる。本作はアクションも満載だ。
そして恋もあれば友情譚に謎解きとジャンルてんこ盛りの展開が繰り広げられる。
本作はあらゆるジャンルを取り込んだエンタメ増し増しの作品となっているのだ。
監督は『サイレントヒル』、『美女と野獣』で知られるクリストフ・ガンズ。
監督インタビューによると、本作はアメリカのようなブロックバスター映画を意識して作られたらしく「フランス映画」というイメージを覆すような分かり易い作品となっている。確かに今鑑賞すると90~00年代のハリウッド映画の趣も感じられる。
ただ陰鬱なジェヴォーダンの風景や怪しく淫靡な世界観はフランス映画ならでは。
クリストフ監督の持ち味でもあるのだが、本作はビジュアルが特に素晴らしい(そもそも最初、自分が観ようと思ったのもポスタービジュアルに惹かれてだった)。
宮殿の中の豪華絢爛な装飾も素敵だし登場人物たちの服装も良い。ところどころ絵になる場面が美しく、娼館など美しいだけでなく怪しさも入り混じった世界観はハリウッド大作とは一線を画す。
エンタメを意識して作られたこともあって登場人物もキャラが立ちまくってる。
映画を観たら絶対に忘れないであろうマニを演じたマーク・ダカスコス。
アクションがすごいのは勿論、ビジュアルでも楽しませてくれる。最初のフードを被った姿からフードを取った姿、獣との戦いに備えた姿と見てて楽しいしワクワクする。
戦闘力強めの博物学者フロンサックを演じたサミュエル・ル・ビンも良い。キザな軟派野郎かと思いきや物語後半で思いっきり覚醒してからのギャップが凄い。それこそランボーのように一人で暴れまくる姿は強すぎて笑ってしまった。
妖しさ満点の貴族を演じたヴァンサンカン・カッセルの耽美な雰囲気も素敵。そして謎の娼婦を演じたモニカ・ベルッチの美しさよ。
主要人物だけじゃなく国王から派遣されたボーテヌル総督や原住民など、脇を固める人物たちもキャラクターが立っているのが良い。映画が終わった後も記憶に残る。
展開が強引に感じる場面もあるし、女性の描かれ方など今観ると時代性を感じる場面もある。だけどここまで様々なエンタメを取り込んだフランス映画なかなかないだろう。
物語の最後、公爵のトマの語りでこの物語が一つの時代の終わりを描いた話であることが分かる。だからこそ観終わった後は楽しいだけじゃなく一抹の寂しさも感じるのだ。