【壊れゆく母と子と暴力の学園】映画『士官候補生』感想
東京国際映画祭4本目『士官候補生』。
呪われた士官学校を舞台に徐々におかしくなっていく母と子を描いた学園ホラー。
監督はカザフスタン出身のアディルハン・イェルジャノフ。過去作には『イエローキャット』などがある。
場面写真とあらすじでこの作品を観ることに決めたが、その後に判明したことで意外だったことが2つ。
1つはこの監督の作品を過去の東京国際映画祭で観ていたということ。2018年の東京国際映画祭で上映された『世界の優しき無関心』という作品を観ていたのだ。
6年前ということで物語の展開などはよく覚えていないのだが、とにかく映像が美しかったことだけは記憶に残っている。
もう一つはジャンルが直球のホラーだということ。
確かに作品説明ではホラー風の演出と書いてあったのだが、会場でポスターを見てビックリ。明らかにホラーのビジュアルじゃないか…
最初にこのポスタービジュアルを観ていたらこの作品を選んでいたかは微妙…
そんな本作はシングルマザーのアリーナがエリート士官学校に息子セリックを入学させる場面から始まる。
女の子のような風貌をしているセリックは同級生たちからいじめられ、校長からも学校に不適格と判断される。
アリーナは軍隊の高官のコネを使い息子を復学させるが、この学校で自分の子どもが自殺したという謎の女性から、セリックは自分の子どもと同じ道を辿るだろうと警告を受け…というあらすじ。
結論から言うと、好きな映画だった。
まだ2本しか観てないけどイェルジャノフ監督の作品、結構好きかもしれない。
特に良かったのが、ホラーでもジャンプスケアを使用していないということ。最近のホラーというとジャンプスケアを多用している作品が多い。
自分は怖い話や物語は大好きだけどビックリしたい訳じゃない。ホラー=ジャンプスケアという訳ではないからね。
劇中には死んだ生徒の霊、ファシスト、マチズモ、カルト教団…学園を舞台にあらゆる怪しい要素が散りばめられている。
さまざまな怪しい物によって徐々に狂っていく母と子。この2人の関係性もじめっとしており湿度が高いのがイヤ~な感じ。(映画後半では意外な真相も分かってくる)
物語が進むにつれアリーナも別人のように憔悴していくのだけど、アリーナ演じたアンナ・スタルチェンコの演技が抜群。
そしてイェルジャノフ監督、やはり映像や構図が魅力的。
映像の色合いが美しいし、一つ一つの構図も凝ってて目を惹かれる。場面写真の雰囲気でこの作品を選んだのだけどその直感は間違ってなかった。
上映後は監督とキャスト陣によるQ&A付きのトークイベント。
イェルジャノフ監督曰わく、「本当に怖いのは幽霊などではなく、1人の少年が壊れて変化していくさま」とのこと。
母親の過干渉、過酷なイジメ、教師による体罰…セリックが変わってしまったのは怪奇現象なんかじゃない。
ラストは物悲しいがあの終わりしかなかったのかもしれない。ラスト、刑事が振り返り見つめる学校が禍々しい。
ちなみにこの作品、映画友達と一緒に観たのだが2人の感想としては「カリコレあたりで上映されていたら当たりだと思うね」という身も蓋もない感想だった(笑)友達と観たという意味でも思い出の映画だ。
ということで今年の自分の東京国際映画祭はこの作品で締め!今年も楽しかった。