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怒りの感情は恐ろしいもう一つの感染症

2023年5月に新型コロナウイルス感染症が5類感染症に分類され、WHO (世界保健機関) も緊急事態宣言を終了するなど、Withコロナも新たなステージへ進みました。世界中で多くの犠牲者を出し、恐ろしいウイルスであることに変わりはありませんが、ワクチンの開発は進み、手洗いなどを含む新しい生活習慣を身につけることで前進できそうな兆しが見えてきました。

風邪やインフルエンザのようにウイルスが引き起こす病気は人から人へ伝染しますが、一方で、感情が人から人へ伝染することも広く知られており、心理学では情動感染と呼ばれています。例えば、東京ディズニーリゾートへ行った際に、ぜひ一呼吸おいて周りにいるお客さんやキャストの表情や感情に目を向けてみてください。皆笑顔いっぱいで、前向き(ポジティブ)な感情に溢れていることを感じられると思います。まさに理想の世界像を体現している素晴らしい空間だと思います。そして、その世界の中に飛び込めば、自然と前向き(ポジティブ)な感情が湧いてくる感覚も感じられるのではないでしょうか?

一方で、ネットのひぼう中傷フェイクニュースなどはこれまでに何度も問題になってきています。怒りなどの後ろ向き(ネガティブ)な感情が X(Twitter)などのソーシャルメディアを通じて伝染し、人の命を奪うほどの重大事件に発展することもありました。新型コロナウイルス感染症の不安から来る非難や差別などの後ろ向き(ネガティブ)な感情もまた問題となりました。このような社会的に大きな問題ではなくても、お父さんやお母さんが家庭内で後ろ向き(ネガティブ)な感情から声を荒げたり、職場の上司や顧客からのハラスメントなど、後ろ向き(ネガティブ)な感情にさらされることによるストレスが健康被害を引き起こす可能性も知られています。

今回の記事では感情知能を身につけることでこの感染症とどのように戦うことができるのかを TED の動画などを参照しながら理解を深めたいと思います。動画を見る際には日本語の字幕を活用してください。


暴力は感染症

この動画では、アフリカで結核やコレラ、エイズ等の感染症の流行と闘ってきた経験から得られた知見が、日本でも度々報道される、アメリカでの暴力事件を減少させるという取り組みに応用した成果を語っています。

コロナ以前は、感染症は発展途上国だけの問題だと感じていた人も少なくなかったと思います。コロナによって、この認識が大きな間違いであったことに改めて気が付かされたわけですが、一方で、感染症と似たように私たちの日常生活を苦しめながら、あまり改善されずに長年放置され続けている問題は意外にあります。学校でのいじめ、職場でのハラスメント、家族内でのすれ違い。特に今の世の中は経済という数字で計測されることが多く、右肩上がりであれば、少なくとも、右肩下がりでなければ、今の状態は成功していると勘違いしてしまうことが起こりやすいのではないでしょうか?

アメリカは銃社会であり、暴力事件により年間数万人が犠牲になっているのが現状です。動画で語る医師は、アフリカで感染症との恐怖の中で人々を救ってきたわけですが、アメリカに帰ってきて感染症から解放されると思ったら、銃による暴力の恐怖の中で人々が暮らしている現状に驚いたと語っています。そして暴力が蔓延するパターンが感染症のパターンと類似していることに気が付き、三つのステップによって暴力の蔓延を止められる可能性を見出しました。

  • 人から人への一次感染を防ぐ

既に大きな後ろ向き(ネガティブ)な感情を持っている人の感情をうまく沈めたり、他の人への感染を防ぐことが求められます。これには公認心理師のような専門知識が必要になるでしょう。

  • 二次感染による広がりを防ぐ

小さな嫉妬や金銭トラブルなどの不満や不安などの感情は、それ自体は大きな問題にならなくても、人から人へ伝染する際に雪だるま式に大きな後ろ向き(ネガティブ)な感情に発達してしまう可能性があります。

  • 集団免疫を構築する

多くの人が後ろ向き(ネガティブ)な感情に対する免疫を獲得することができれば、社会に安定をもたらし、人々が人々らしい生活を取り戻すことが可能です。前向き(ポジティブ)な感情を持つ人の近くにいるだけでも、後ろ向き(ネガティブ)な感情の広がりを防ぐ効果があるともいわれています。

この三つのステップを踏まえて、感情知能を用いることで実践できる戦略を提案したいと思います。

後ろ向き(ネガティブ)な環境を避ける

大きな後ろ向き(ネガティブ)な感情を持った人や、あなたにとって大きな後ろ向き(ネガティブ)な感情を引き起こしそうな環境から自分自身を遠ざけることは有効だと考えられます。テレビやネット、ソーシャルメディアなどの情報にも注意を払う必要があります。そのためには、自分自身をよく観察し理解することが助けになります。

感情知能が教える感情認知力を高めることで、自分の怒り、ねたみ、恨みなどの後ろ向き(ネガティブ)な感情と自分の大切にしている価値観がどのように関連しているのかを時間をかけて紐解いていくことで、感情的な自分の行動の質を高めることができます。自分の価値観が脅かされれば、誰でも後ろ向き(ネガティブ)な感情が湧いてきます。しかし、その感情をどのように活かし行動するかはあなた次第です。

有害な脳内のおしゃべりを避ける

後ろ向き(ネガティブ)な環境を避けるといっても、今の世の中ストレスが蔓延しているため簡単なことではありません。そもそも職場がそのような環境で避けられないという方もいるでしょう。そのような環境の中では、自分自身が感染しないことに気を付けることが大切です。

後ろ向き(ネガティブ)な感情が感染する大きな要因の一つは、後ろ向き(ネガティブ)な感情が自身の頭の中で何度も何度も反復することで、その感情から抜けられなくなってしまうことです。皆さんの中にも、過去にあった嫌な思い出を時々思い出してしまうことがあるのではないでしょうか?以前、有害な脳内のおしゃべりのお話をしましたが、人間の脳に備わっているこの機能を後ろ向き(ネガティブ)な感情に利用してしまうと、ストレスをため込み、病気にまで発展してしまうことがあります。

ポジティブ思考という考え方がありますが、この真の力は、脳内のおしゃべりを前向き(ポジティブ)な会話にすることで自分自身を高められるところにあります。それは、後ろ向き(ネガティブ)な感情に対して免疫のように働き、あなた自身を守ってくれます。感情知能の中の内省力を高め、回復力成長思考を向上させることがお勧めです。

前向き(ポジティブ)な環境を広める

後ろ向き(ネガティブ)な感情が伝染するように、前向き(ポジティブ)な感情もまた伝染させることができます。あなた自身の感情知能を高めることができれば、その影響力を発揮して周りの人を巻き込み、より良い環境を広めてみてください。それはリーダーシップと呼ばれる、人生においてとても大切な行動力です。周りの人は、あなたといるだけで幸せを感じてもらえると思います。それは、あなたの存在価値になり、存在する目的になりえます。

感情は伝染する

この動画では、感情が具体的にどのように人から人へ伝染するのかを教えてくれます。最初に紹介している研究で取り上げている手のしぐさは、TED のスピーカーがよく使うテクニックとして紹介していますが、自分のアイデアを言葉を超えて聴衆に伝える効果を語っています。感情知能の記事の中でも20本以上の TED の動画を取り上げましたが、その中で使われているボディーランゲージの使い方に注目してみるのもまた TED から学べることだと思います。

手のしぐさ、におい、顔の表情、声のトーンなど様々な方法で感情は伝染し、それを意図的にコントロールすることでその場の雰囲気や影響力に変化を及ぼすことができると語っています。さらに、言葉は単に意味を伝えるのみでなく、感情を強力に伝えることができます。前向き(ポジティブ)な言葉は前向き(ポジティブ)な感情を引き起こし、後ろ向き(ネガティブ)な言葉は後ろ向き(ネガティブ)な感情を引き起こします。言葉が強力に作用するのは、その後の脳内のおしゃべりにまで影響するからです。脳内のおしゃべりは実際にその人が使う言語で行われるため、言語化された感情は、脳内で反復されることで深く刻まれ長続きします。

そしてさらに前向き(ポジティブ)な感情は、状況をより前向き(ポジティブ)にとらえることを促す効果も語っています。不安と興奮は科学的にはよく似た感情で、違いはあなた自身の受け止め方だけだとしています。この受け止め方の違いは、自身の価値観や過去の記憶などに依存する部分もあり、受け止め方を変えることは簡単ではない場合もあります。しかしながら、もし後ろ向き(ネガティブ)に考えてしまう事柄があるとすれば、どうしてそのような受け止め方をするのかを考えるきっかけにはなると思います。それは、感情認知力を高める大切な一歩です。

この知識を踏まえれば、普段から前向き(ポジティブ)な言葉を使うことは、脳内のおしゃべりによって自分自身に良い影響を及ぼすとともに、相手にも良い影響を及ぼす効果があります。皆さんも自分の言葉に少し意識を向けてみてはどうでしょうか?

正義と後ろ向き(ネガティブ)な感情

日本は司法制度改革に取り組む21世紀初頭まで、司法のレベルで「こうしなさい、ああしなさい」と細かく指示や命令をする事前規制型社会であり、そのような大人の慣習が家庭レベルにまで浸透していました。この考え方は、「○○はダメ」という後ろ向き(ネガティブ)な思考に陥りやすく、学校の校則や子供のしつけなどでも、まだまだその慣習が抜け切れていないのが現状ではないかと感じます。新型コロナウイルス感染症の際には、マスク警察という言葉も生まれましたが、自粛警察のような行為にも影響があったのかもしれません。

「司法」と「正義」は、英語では Justice と一つの単語で表現されるほど、とても強い相関を感じさせる言葉です。したがって、「司法」や「正義」に反する行為はほとんどの人にとって自身の価値観に反することだと推測され、後ろ向き(ネガティブ)な感情が湧くのは当然と考えられます。また法治国家としてもそれは望ましい状況だといえると思います。一方で、後ろ向き(ネガティブ)な感情を怒りや恨みなどの後ろ向き(ネガティブ)な行動に結びつけてしまうのは、いまだに戦争がなくならない世の中を考えても、それが大多数であることは認めざるを得ないのでしょう。

しかし、感情に対する自身の考え方や行動は成長させることができます。感情知能はそれを支える科学的な手法であり、感情を成長させる行為は、学校での勉強や仕事での技術的成長とは全く異なる次元の成長を感じることができる、人生の転換点となる行為だと思います。後ろ向き(ネガティブ)な感情に対する免疫を得るとともに、前向き(ポジティブ)な感情を広める人が増えることを願っています。


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