息子の光
2021年春、NHKで放送していた ハルカの光 というドラマが好きで、久しぶりにドラマを見ていました。イサムノグチ、アイノアアルトなど有名デザイナーの名作照明がたくさん出てきて、その照明の由来などを主人公のハルカさんが熱く語り、人と光が繋がっていく、心温まる、インテリア好きにもたまらない!とっても素敵なドラマでした。そして、東日本大震災の物語でもありました。
私はちょっと誇らしげに息子に言った。「うちと同じ電気がテレビに映ってるんだよ」息子が「ほんとうだね、おなじ でんき だね」嬉しそうに、テレビの中と部屋の照明を見比べている。ハルカさんは「電気ではなく照明と言って」と、ドラマの中で憤慨していたが、息子は照明という言葉をまだ知らないから、許して欲しい。
結婚して夫と暮らし始める時に、ずーっと欲しいと思っていたルイスポールセンのPH5という照明を記念に買った。私はずっとルイスポールセンという方のデザインだと思っていたが、ルイスポールセンは会社名でポール・ヘニングセンという方によってPH5はデザインされていた。余談だが、ルイスポールセン、ポール・ヘニングセン、アルネ・ヤコブセン、アンデルセン、デンマークの何とかセンは、日本で言う所の佐藤、遠藤、武藤、須藤のような物だろうか、ちょっとややこしい紛らわしい名前だと思う。覚えられまセン、ワカリマセン。ちなみにLEGOの創立者もオーレ・キアク・クリスチャンセン、何とかセンだった。ロイヤルコペンハーゲンも好きだし、どうやら私はデンマークデザインが好きらしい。
独特な美しい形、金属で出来ているが、思っていたよりもずっと軽くて丈夫そう。東日本大震災の後だったから、地震の時も安心安全、重さで落ちる心配もなさそう、と即決した。
長年かけて、ちょっとずつ好きな北欧家具を集めていた。色は違っていたが、PH5の照明がドラマの中でもチラホラ見えていて、息子と「同じだね」と喜んでいた。
PH5は、100%グレア・フリーの光を提供します。そのデザインは、大部分の光を下方に向ける3枚シェードの光の反射原理にもとづいています。このランプは下方と側面に光を放ち、それにより器具自体も照らします。
ルイスポールセン公式サイトより引用しています。
グレア・フリーという言葉をはじめて知った。グレアとは、光を直接みて「眩しい!」って目がチカチカして不快に思う現象のことらしい。
直接光を見ない為になのか、照明の高さは頭がぶつかりそうなほど低く、が正しい位置と聞いた、多分(卓上から60cmの高さが推奨だそうです)。私の部屋はテーブルと照明の位置のバランスが悪くて、来客は皆、椅子に座ったり立ったりする時に、この照明にゴツンっと頭をぶつけていた。私もたまに、ゴツン。結構、痛い。特に、ちょっと鈍臭い母は、毎回何度も「あ、イタッ」と学習せずに頭をぶつけていた。ちょっとクスッとする懐かしい思い出。
息子にさわってもらった。部屋の中はぐちゃぐちゃなので、照明だけを切り取っています。
それでも、やっぱり大好きな照明だ。優しくあたたかな光、照明の天板に反射する光で、わりと部屋の中は明るい。形がやっぱり素敵だし毎日見飽きない。「おはよう」で好きと思い「ただいま」で部屋のドアを開けてステキと思い「いただきます」で良い形と思い「おやすみなさい」でやっぱり好きと思う。照明は部屋にいる限り、まいにち毎日まいにち毎日、必ず使って目にする物だから「お気に入りを買って良かった、やっぱり好きだな」と見る度に思う。贅沢な買い物だったが、簡単に元が取れた、と思っている。だからこそ、照明は好きな物を選ぶ。そうすれば、きっと、まいにち毎日、気分が良い。
暗くて寒くて光の少ない長い冬の間、部屋の中を明るく楽しく過ごせるようにと、北欧家具や照明はデザインされている、と聞いた事がある。私も雪の降る長い冬の東北の地に住んでいる。だからか、北欧家具にとても惹かれて、東北の伝統工芸品と近いものを感じている。
私がよく通っていた家具屋さんにも、ハルカさんのような店員さんがいた。作品ができる過程の話、デザイナーさんのうんちくをいつも聞かせてくれていた。
話が長過ぎるのが欠点で、時間がない時には、寄りたいけど寄れない。私はその方のお話を聞くのが楽しくて好きで、家具を買うのは、このお店と決めていた。そして、このお店でPH5の照明を買ったのだった。買うと決めていたからか、残念ながら、この照明の話は覚えていないけれど。
北欧食器のアラビア(今はイッタラ傘下になっています)のティーマというマグカップのお話が一番、記憶に残っている。
店員さんが、友人にティーマのマグカップを贈ったそうです。どこにでもありそうな、シンプルな形。「百均で買ったって思われたかも?」そう思っていたそうです。しかし、友人が「とっても飲みやすい、こぼれにくいんだね」と言ってくれた。デザインの良さを理解してくれて、とても嬉しかった、と話してくれました。
ティーマのマグカップは、口をあてる部分、カップの縁が他の部分より少しだけ薄くなっていて、その下が内側にちょっとぷくっとわずかに盛り上がっています。これのおかげで飲みやすくなっている、と店員さんが教えてくれました。
シンプルな中にも細やかな、人が使いやすいようにと考えられた、しっかりとしたデザインがある。長く愛される理由がやっぱりあるんだな、と感心しました。
そんなことは知らなかったし、気にも止めていなかったから。
家に帰ってから、マジマジとカップを見た。マグカップは持っていなかったけれど、シリーズの他のカップを持っていた。
確かに、縁のところがぽこっとしている。
飲み口のところに、少し段差があるのが分かりますか?伝わりますように。
アラビアのロゴも素敵です。今はイッタラのマークに変わっているものが多いかもしれません。
なるほど、ここが愛される理由なのかもしれない、と嬉しくなった。
他にも、たくさんお話を聞いて、夫も私も大好きな店員さんで、大好きな家具屋さんだった。
だったけど、今は、もう、ない。
馴染んだ街から馴染みのお店がなくなると、なんというか、とてつもない寂しさと悲しさと、何かできなかったのかな、という罪悪感と、そして、歳をとったんだな、私と共に街も生きて変化しているんだな、という暮らしてきた長い年月を、現実を、実感する。
息子のはじめての椅子を買ったのも、あのお店だった。
私が実家の光で思い出すのは、台所の仄暗くもあたたかな光。暗い台所で洗い物や何かを煮詰めている、母の背中を思い出す。
台所の部屋の明かりを消した暗闇に、流しに付いた蛍光灯だけが、ぽうっと光っている。昔の白色蛍光灯には冷たい印象があるけれど、なんだか灯台の明かりのような、あたたかな光だ。美味しい苺ジャムやイチジクをグツグツと煮ていて、美味しい光でもあった。
算数の九九が覚えられず、悔しくて泣きながら母に聞いてもらったこと、風邪の引き始めには、必ず白葱のみじん切りと鰹節の効いたネギ味噌という味噌汁を、寝る前に作ってくれたこと、いつもこっそりとジャムの味見をさせてくれたこと。全部、台所の流しの光の元の出来事だった。
私の実家の光の記憶は、母の台所の美味しい光だったように思う。
ハルカの光 というドラマを見ながら、あの家具屋さんのこと、実家の台所のことを思い出していた。このPH5のあたたかな光が、息子と私の思い出の光、息子の光、になるのだろうか。
息子の思い出だす光は、あたたかな、優しい光だと嬉しい。
あとがきのような物
久しぶりにルイスポールセンの公式サイト見て驚きました。PH5高い!私が購入した金額の倍近い値段です。当時は、PH5ミニよりも安い値段でした。他の北欧家具も然りです。ユーロの高騰や継続的な世界的な原料高と輸送費の大幅な高騰傾向も原因だそうですが、買っておいて良かった!と思いました。今の値段では手が出せないー。値段の変動、デザインの変更、廃盤なんてこともありますから、欲しいと思った時に行動することが大事だな、と思います。逆に値段が下がって価値がなくなることもありますが、ね。
長々とお付き合いいただき、ありがとうございます。
4月頃に書いていた記事なのですが、なんとなく進まず11月になってしまいました。はい、いつも腰がおもいのです。溜まっている下書きがまだまだありまして、年末までに、なんとか形にできれば、と思います。