【読書感想文】絶叫城殺人事件/有栖川有栖 ※ネタバレ注意
本日の読書感想文はこちら。
愛して止まない有栖川有栖先生の火村英生シリーズ。
いろいろな館にまつわる事件を集めた短編集です。
6つの館で起こる事件に火村が挑む
ミステリーでは鉄板とも言える『館モノ』。
この作品に登場する館も、個性あふれるものばかりです。
1.黒鳥亭殺人事件
共通の友人・天農が叔母から相続したという『黒鳥亭』に招かれた二人。
そこでは過去に夫婦喧嘩の末、夫が妻を殺害した上に海に投身自殺をしたという事件が起きたいわくつきの屋敷だった。
それだけならまだしも、身投げしたはず夫の遺体が最近になって古井戸から発見された。
いつの間に投げ込まれたのか、そもそも自殺ではなかったのか、そうでなかったら今までどうしていたのか、殺人となれば犯人は誰なのか。
ちなみに天農には真樹ちゃんという娘がおり、アリスが読み聞かせをしたり『二十の扉』という推理ゲームに興じたりしています。火村も女性であれど子ども相手には優しいので(女性にモテるくせに女性嫌いなので若干塩対応になる)、不可解な事件の話の合間に微笑ましいシーンも見られます。そして、この真樹ちゃんも重要な存在なのです。
真相がはっきりとする訳ではなくあくまで想像の域を出ない話にはなるのですが、火村が辿り着いた結論には複雑な心境にさせられます。頼むから外れていてほしい。
2.壺中庵殺人事件
壺内という男性が、遺体となって発見された。
壺内は『壺中庵』と名付けたコンクリート打ちっぱなしの狭い室内に、頭から壺を被せられた上天井から吊るされていた。
部屋は当然の如く密室状態で、扉には閂が掛かっていた。
王道なミステリーの展開ですが、発見時の遺体の異様な格好が変化球の作品。どうやって天井に遺体を吊るしたのか。そして犯人は一体誰なのか、殺害動機は何か。
但し、火村はそこではなくまったく違うポイントから謎を鮮やかに解いてみせます。よくそんなところから解決できるな、と思わずにいられません。
短い章の中で、火村の推理が光ります。
3.月宮殿殺人事件
ある県境を火村のベンツで走っていた二人。
アリスが偶然見かけた、ホームレスが建てたという三階建て+ペントハウス付の豪邸『月宮殿』を再び探していたのだが、その豪邸は無惨にも焼け落ちていた。
そのホームレスの知り合いの浜という男性に話を聞くと、放火に遭った末主は亡くなってしまったという。しかも浜は犯人を目撃しており、放火の瞬間も見ている。だが犯人は放火をしたことは認めたが、豪邸には誰もいなかったため殺人をしたつもりはないと主張。嘘を吐いているのは誰か?何故嘘を吐く必要があるのか?
この話のポイントは『月宮殿』そのものです。『月宮殿』のために男性は亡くなってしまったのですが、命の次に大事な『月宮殿』を守ろうとしたことが真相に辿り着く鍵となります。
しかし、放火した犯人はどうしようもないというか…実際こんな人たちいるんですかね。浜さんも浜さんですが。
4.雪華楼殺人事件
病院の神経科の医師と、みずえという少女が会話するシーンから始まります。
彼女の恋人である最上は、七階建ての鉄筋コンクリートの細長い建物『雪華楼』のそばで亡くなっていた。みずえの証言もあり転落死であると思われたが、何故か鈍器で殴られた痕も見つかっており、死因は殴打によるものだった。更には屋上には彼の足跡しかなく、自殺にしか見えない状況。しかもみずえは精神虚弱状態で、まともに話が出来る様子はない。しかももう一人怪しい男が出頭してきますが、彼はどう見ても犯人ではない。一連の事件の真相は?
雪の結晶の形をした美しい建物で起きた事件ですが、誰も救われないお話です。一作目の黒鳥亭の事件と同じくらいに複雑な気分にさせられます。
クスリやら家出やら居候やら、若者の闇とでも言えそうな要素がたくさん出てきますが、それが呼んだ悲劇とも言えるかもしれません。
5.紅雨荘殺人事件
有名な化粧品会社の元社長である女性が殺害される事件が起きた。
彼女は『紅雨荘』という屋敷を所有しており、それは大ヒット恋愛映画のロケ地にもなった有名な建物だった。『紅雨荘』と呼ばれる屋敷は箕面と高槻の計二箇所にあり、現場となったのは箕面の屋敷だった。
怪しいのは彼女の三人の子どもたちと、彼女と折り合いが悪い従妹。だが子どもたちのアリバイは立証されているし、従妹はアリバイが立証されているのに「それは違う」と頑なに認めようとしない。それは何故か?
これは屋敷が二つあることと、映画のロケ地であるということが事件を解く鍵になります。また更にそれを結び付けるのが、アリバイを認めようとしない従妹の頑なさです。どう考えても怪しいですから。
動機を見ればちょっと悲劇的な結末かもしれないですが、三人の子どもたちが洩れなく最低なのでイライラしてしまうかも。無駄にお金があるとそんなことを考えついてしまうんですかね…
6.絶叫城殺人事件
これは実写ドラマ化にもなっているので、知っている方もいるかも?
大阪で若い女性が立て続けに襲われるという事件が発生。背後からナイフで襲われ、命を落としている。そして現場には『ナイト・プローラー』という殴り書きのメモが残されていた。ナイト・プローラーは『絶叫城』というホラーゲームに登場する殺人鬼の名前だった。
火村と警察は血眼になって捜査を続けていたが、残念なことに、四人目の被害者が出てしまう。その現場には『GAME OVER』のメモが…
犯人はどうやって警察の目をかいくぐったのか、また犯人はただの愉快犯か、そしてその犯人は誰か。
所謂模倣犯とも言えるこの事件、動機はちょっと考えられないものです。アリスでさえ「冗談やろ?」と内心呟いてしまったような、言葉は簡単でも非人道的なものに思えるものでした。
この作品も、誰も救われない結果となります。四人目の被害者女性が残した一言が、とてつもない絶望を含んでいて気が重くなるほどです。
そして火村シリーズにしては珍しく、アリスのさりげないアシストが解決へと導いた作品です(アリスに失礼だが事実なので)
火村英生の鋭利なロジック推理が真相を暴き出す
このシリーズらしいロジックな推理がふんだんに盛り込まれていますが、この作品の火村は若干感情的にも思えます。1.3.4なんかは特にそんな一面が見られるので、ちょっと新鮮に感じるかもしれません。
とはいえ、殺人犯相手にはとことん容赦がなく、冷徹さすら見せる火村ももちろん健在です。またこのシリーズを通して言えるのが、アリスとの掛け合いの楽しさでもあります。相変わらず仲良いなあ…
火村シリーズはたくさんあるので書ききれないかもしれないですが、いつかアップしてみたいですね。
ではでは、また次の投稿まで。