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【読書感想文】どこの家にも怖いものはいる/三津田信三 ※ネタバレ注意

本日の読書感想文はこちら。

ホラー小説の名手・三津田信三さんの連作短編集。
建物が関わる作品が多いなとお思いの方、私も思ってます←
ホラーやミステリーってなると、お約束なんですかね。


引き寄せられる記述たち、それは偶然か必然か

小説家の三津田は、自身の熱狂的ファンだという編集者の三間坂という人物と親しくなる。
彼の親族が所有している蔵から発見された書物を発端に、三津田の元に家に関する記述が集まった。それは時代も場所も登場人物もどう見てもバラバラなのに、妙に似ている気がしてならない。
これらは繋がっているのか、三津田と三間坂は真相を探っていく。
だが、これらは本当の恐怖の始まりに過ぎなかった。

恐怖を綴った五つの記述

1.向こうから来る 母親の日記
新築の一軒家に引っ越しした大佐木という家族の話。家族は父親と母親、そして幼い娘・夏南(かな)の三人で、母親が書いた日記が主体の物語です。
ご近所さんの自治会長に挨拶をするものの、なんだか上の空で少しそっけない人物だった。「ここも近畿といえば近畿」という妙な言葉を残し、去っていった。
それに新築で日当たりも問題ないというのに、何故か部屋の中が暗く感じる。更には妙な音が聞こえるようにもなるが、その正体はわからない。
そして引っ越しをしてからというもの、夏南の独り言が増えていた。しかも家族の前では話さず、壁に向かって語り掛けている。聞いてみると、『キヨちゃん』という子とおしゃべりしているのだと教えてくれた。
その存在は俗に言うイマジナリーフレンドなのか、それとももっと違うものが見えているのか。
訝しむ母親だったが、夏南に話を聞くうちに、それがだんだんと近づいてくるような印象を受けるように。不安に思った母親は、万が一のことも考えて『KEEP OUT(立入禁止)』のテープを子供部屋に貼り付けます。効果あるの?と疑問に思ってしまいますが、そうでもしないと気が済まないのです。
ですが、恐れていた事態が起きてしまいます。
ある日遊びに来ていた男の子が、家の中から忽然と消えてしまう。男の子の母親はパニックなり、当然大佐木家が疑われてしまいます。警察もやってきて、おかしなテープが貼ってあることもありかなり嫌疑をかけられますが、証拠もなく解決にはいたらず。それ以降も男の子は見つからず、娘の母親はマスコミに追いかけられ疲弊していく。藁にも縋る思いで、母親は娘に聞いた。男の子はどこへ行ったの?と。
夏南は言った、「キヨちゃんにつれていかれた」。

2.異次元屋敷 少年の語り
石部鉋太という少年の独白で物語が進んでいきます。
彼が住む地域には言い伝えがありました。
一つは『割れ女』に遭遇したらすぐに逃げること。割れ女とは顔がぱっくりと縦半分に文字通り割れている、所謂化け物の類。
二つ目は『晨鶏(しんけい)屋敷』という大きなお屋敷には開かずの間があり、そこには入ってはいけない。
三つ目は、道に迷った青年二人があるお屋敷に一晩泊めてもらったお話。二人はそこに住む人の案内でいろいろな部屋を見せてもらうが、ある部屋だけは鍵がかかっていた。そこを見てくると言って出ていった友人は、そのまま行方不明になってしまったというもの。
昔話なんかによくありそうなお話ですね。

ある日鉋太は、友人たちと遊んでいた。日も暮れてそろそろ帰ろうとしていた時、目の前に女が現れる。それこそが、言い伝えの割れ女です。
鉋太はすぐにその場から逃げ出しました。しかしどこまで逃げても、割れ女は追いかけてくる。がむしゃらに走った鉋太は、見つけた建物の中に逃げ込んだ。箪笥に隠れたり、隙をついてかいくぐったり、それはもうこちらまではらはらさせられる鬼ごっこです
必死で逃げる彼でしたが、あることに気付きます。
屋敷の中には、誰もいない。そして襖の中で一つだけ、施錠されているものがある。
そう、あの言い伝えの屋敷と同じように。

3.幽霊物件 学生の体験
大学生になると同時に、一人暮らしを始めた学生のお話。
『門沼ハイツ』の203号室という格安物件に入居した彼だったが、少しだけ不安に思うことがった。
隣の205号室(縁起の悪さからか、4という部屋番号はない)が女性なのだが、どうも陰気で苦手に思えてしまう。しかもよく観察してみると、入居者がかなり少なかった。もしかして、事故物件なのではないか?
そして夜になると、妙な音が聞こえ始める。それは屋根の上から聞こえており、怖がってはいたが見極めてやろうと思い切って外に出てみた。すると、屋根には黒い影があり、その男子大学生にはそれが老婆の姿に見えました。そして黒い影は、やがておぞましい行動に出る。
怯える学生だったが、今度は隣の部屋からおかしな音が洩れ聞こえるようになった。苛立った彼は、大胆にもその部屋に乗り込んだ。けれど、そこには生活感も人の姿もない、所謂空き部屋状態になっていた。
確かに隣人は存在しているはず。昼間に窓から覗いてみると(さっきからあまり褒められた行動はしていませんが)、家具も家電もある普通の部屋の光景が広がっていた。やはり女性が住んでいる、するとあの光景は一体何なのか。
更には大家にも話を聞いてみるものの「ウチでは子連れはお断り」というよくわからない話を聞かされる。「小さな子どもは気に入られるから」とか「あなたはかわいい顔をしているから心配で」とか、恐怖を煽るようなことも言われてしまいます。
もう少し探ってみようと、夜中にもう一度隣の部屋に行ってみることに。すると部屋の前に立った学生は、ある驚愕の真実に気付く。

4.光子の家を訪れて 三女の原稿
家族がおかしな宗教に嵌ってしまった、生方沙緒梨という女性のノンフィクション作品(編集部に持ち込まれたものらしい)
まず母親が『こうし様』というよくわからないものを崇拝し始め、自宅とは違う屋敷に行ったきり帰ってこない。父親、次いで姉二人も連れ戻しに行ったが、結局取り込まれてしまい帰らず。残されたのは沙緒梨と弟の二人で、母は弟と一緒に来るようにしつこく言うが拒否していた。
そんな抵抗も空しく、沙緒梨が学校に行っている間に弟は無理矢理連れていかれてしまう。更にはまた母から電話があり「大切な儀式を行うからお前も来い、特に弟には大役を果たしてもらう」と言われた。弟を連れ戻すため、沙緒梨は意を決して屋敷へ向かう。
ところが、屋敷には誰もいなかった。ざわざわとしている空気はあるのに、人の姿が一人も見えない。もちろん家族の姿もなく、『こうし様』らしき存在も見当たらない。また屋敷には至る所に貼り紙があり、『〇〇な者は▼▼になる』と言ったことが多数書かれていた。そして実際に、沙緒梨の身に事実となって降りかかる。
神経をすり減らし、恐怖に慄きながらも、弟を連れ戻したい一心で屋敷を探索する沙緒梨。そしてやっと家族を見つけた彼女だったが、その異様な光景に絶叫する―――

5.或る狂女のこと 老人の記録
とあるお年寄りが、親類から聞いたというお話を文字に起こしたもの。
お年寄りのまた別の親類は、その地域では一番の権力を持っていた一族であった。だが一族の娘が行方不明となった時から、様子がおかしくなっていきます。
結果、娘は戻ってきたのですが、なんと妊娠していました。父親もわからぬまま、娘は女の子を出産。妹は子育てもままならぬまま、病院へと送られることに。その女の子は『世智(よち)』と名付けられ、一族の当主が面倒を見ることになりました。
その世智というのが不気味な存在で、生まれてから長い間しゃべらないと思っていたら、急に言葉を発するようになります。それ自体はおかしなことではありませんが、彼女が口にした出来事が災難となって降りかかるようになったのです。岩で家が潰れたり、そこだけ雨が降ったり、次々と不幸に見舞われていく。口にした出来事が後に降りかかるとなった場合、予知または予言の類を考えますが、違う見方も出来ます。それは口にしたことを現実にする、つまり未来に起こることが見えたのではなく、彼女が口にしてしまったから起こるはずがないことが起こってしまったということです。村人は畏怖し、屋敷の女中たちも忌み嫌って、誰も相手にしようとしません。
当主だけは彼女を可愛がっていましたが、彼女が成長すると存在を持て余すようになってしまいます。更には直接村人たちとも接触するようになっていき、困った当主は彼女を屋敷に監禁するように…

点と点が結びつこうとした時、真の恐怖がやってくる

五つの記述を突き合わせながら、三津田と三間坂はそれらの共通点を見出そうと推理を繰り広げます。
時代・場所・登場人物・怪異の姿…どれを取っても繋がっていないように思えますが、それぞれには似通ったところも見られます。
例えば1と3については、奇妙な音が聞こえるということが一致しています。しかも同じような音が聞こえていることから、似たような現象が起きていると考えられる。
またすべてに共通するのは、怪異の中心は女性であること、また被害に遭っているのは幼い子どもであること。では同一人物が引き起こしているのか?でも姿は違っている、それが意味することは?

なんとかして真相を突き止めようとしますが、実は二人の内心は戦々恐々としています。それは二人がそれぞれ自宅で記述を読んでいる際、記述と同じような音を聞いているのです。つまり、怪異を経験した人たちと、同じ現象が起こっている…そんなこと言われたら、読んでいるこちら側も音を気にせずにはいられなくなってしまいます。
三津田さんの作品で怖いところは、主人公が三津田さんであるが故、ノンフィクションかのように表現しているところです。作品の中の三津田さんも小説家で、しかも実際に刊行している作品の執筆状況まで書かれている。となれば、これは作者の実体験なのでは?とも思ってしまうのです。
更に、「おかしな音が聞こえたら即座に読むのをやめることをおすすめする」「その家の場所を探さない方がいい、責任は持てない」等、こちらに忠告するような文章を投げかけてきます。もしかしたら自分にも…そう考えてしまうこと必須です。

これは序章に過ぎない。恐怖はまだ続いていく。

文章が拙いせいで、恐怖の良さ(どんな表現だ)を伝えきれないのが歯がゆいところなのですが、とにかくノンフィクションを匂わせてくるような恐ろしい作品です。
この作品には第二作目があり、そちらが更に輪をかけてとんでもない家をテーマにしているので、是非また書きたいと思います。
まだまだ残暑厳しい秋、ホラーで涼しくなってはいかがでしょうか。
ではでは、また次の投稿まで。

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