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【読書感想文】いぬの日/倉狩聡 ※ネタバレ注意
本日の読書感想文はこちら。
表紙に騙されそうになりますが、こちらしっかり角川ホラー。
動物を飼っている人にはかなり刺さる、考えさせられるホラー作品です。
白いスピッツのヒメ、だが扱いは姫とは言い難く
語り手は、ある家族に飼われている白いスピッツのヒメという犬。
家族は夫婦と高校生の司、中学生の愛美、小学生の雅史。ヒメもその一員として可愛がられている、ということはありません。
少なくとも今は、ほぼ空気のような扱いをされており、ご飯を強請ろうものなら無視か嫌な顔をされる始末。ブラッシングも随分されておらず、散歩にも連れて行ってもらえず、爪も伸び放題。飼育放棄状態、人間で言えばネグレクトに近い生活を送っていました。不満に思うヒメでしたが、訴える方法はなく、知恵をしぼって生きる日々。
そんな鬱屈した生活を変える転機は、突然やってきました。
流星群の夜に見つけた石がヒメの運命を変えた
流星群が観測できるという夜。家のリビングに、小さな石が飛び込んできます。不思議な色をして淡く光るそれを手に入れたヒメは、夢中になって舐めたりかじったりして遊んでいました。すると、そこで不思議なことが起こります。
なんと、ヒメは人間の言葉を喋られるようになり、人間並みの知性を手に入れることができたのです。書いてある文字も読めるようになったのを皮切りに、家族が使っている様子を見てパソコンの操作方法を覚えたり(しかもネット検索まで使いこなす)、犬には本来なかった色彩感覚を持ったり、ありとあらゆる知識を詰め込むようになりました。元々、賢い犬だったのかもしれませんね。
更に、ヒメは末っ子の雅史を味方につけようと目論見ます。雅史は臆病で気弱なところがあり、言うことを聞かせるにはうってつけでした。ですが雅史は雅史で、怒られるのが嫌で母親の大切なものを壊したのをヒメのせいにするなど、ずるい一面もあります(そのせいでヒメは冷遇されるようになった)
ヒメが喋られることは一人と一匹だけの秘密にして、雅史にいろんなことをやってもらうヒメ。味方というよりは、ただの付き人みたいな感じもありますが…
人間は味方ではなく敵。そう認識したヒメの決意
散歩に出た際、ヒメは仲良くしていたスズという猫が動物管理センターという場所に連れていかれたことを知ります。そこは様々な理由から飼えなくなった動物たちがやってくる駆け込み寺…いわば保健所のようなところです。スズももう助からない病気にかかったため、そこに入ることになったのです。
連れて帰ろうと雅史と共にやってくるヒメでしたが、スズは帰らないと運命を受け入れる覚悟をしていました。ですが、そんなスズみたいな動物ばかりではありません。怯える子もいる、怒る子もいる、わかっていない子もいる。人間の自分勝手な考えに触れ、ヒメの心はささくれ立っていました。
荒むヒメは、家族に冗談では済まない悪戯を仕掛けます。ナイフを枕に突き立て、コンロに油を流し込み、二階から物を落とす。但し、やっていることがとても犬ができることではないので、家族は雅史を疑うようになります。以前やってしまったことが、雅史に返っている訳です。雅史はますますヒメに怯え、従うことしか出来なくなります。
それでも結局、家族はヒメの味方ではないのです。例え悪戯の濡れ衣を着せられていても、雅史は家族の一員なのです。そんな現実を突きつけられたヒメは、もう居場所はないと決心して―――
悪夢と幻聴に苛まれる青年は贖罪を抱えて
視点は変わり、語り手は動物管理センターで働く小高という青年。
動物たちと日々向き合う彼ですが、毎晩悪夢に魘され、犬の遠吠えが聞こえる幻聴に悩まされていました。一種の職業病かと思われますが、彼はまた違う深い闇を抱えています。その罪滅ぼしも込めて、彼は殺処分された犬の遺灰を飼い主の家に密かに撒いていました。
そんな彼が働く地域では、奇怪な事件が多発していました。それは犬の飼い主が、犬に噛み殺されるという事件。しかもランダムに狙っているのではなく、「良い飼い主とは言えない家」という噂がある飼い主ばかりがターゲットにされていました。軟禁、多頭飼い、パピーミル…顔を顰めずにはいられない所業を行っていた飼い主たちなのです。
助長するように、問題がなかった犬たちも突然暴れたり言うことを聞かなくなったりして、センターへの問い合わせが急増。しかも警察はセンターの犬の仕業ではないかと嫌疑をかけており、ますます小高は頭を抱えるはめに。また後輩の周防からは嫌味を言われるなど、心の休まる時がありません。
ちなみにこの周防という後輩ですが、小高になにかと突っかかってくるし、どちらかというと動物(特に犬)を毛嫌いしています。最初からあまり良い印象を与えない彼も、実は悲しい過去を持っています。その過去を知った小高は、ますます暗い気分になるのでした。
しかし、数多の犬を見てきた彼でも、雅史とやってきたヒメを印象深い犬として覚えていました。普通の犬とは違う、直感でそう思っていたのです。
そして思い出した小高は気付きます。幻聴だと思っていた遠吠えは、ヒメの声とよく似ていたことを。
白い毛が赤く染まる、血で血を洗う犬たちの復讐劇
ある日、またしても犬の遠吠えを聞いた小高は、声がしたそこへと向かう。
その場所にはヒメ、そしてヒメと仲間になった犬が数匹集団を作っていました。ヒメは「待っていた」と小高に声を掛けると、市街地へと走り出しました。
慌てて後を追う小高でしたが、既に惨劇は始まっていました。雅史と親しかった潤一という少年と飼い犬のミコトが、巻き込まれてしまったのです。小高が助けに入ったことで潤一はなんとか事なきを得ますが、ミコトは悲しい結果を迎えてしまいます。
とりあえずセンターに向かう二人でしたが、そこでは恐ろしい光景が広がっていました。保護していた犬たちは逃げ出し、周防が犬たちに襲われており、更にはやってきた小高を殺処分機に閉じ込めてしまいます。死を覚悟した小高でしたが、今度は潤一に間一髪のところで救出されました。ですがそれだけでは終わらず、市内では犬たちが暴れまわっており、警察が出動する事態となっています。二人はヒメを追い、車でひた走ります。
ここで小高の過去が語られるのですが、彼は家族がやった罪を背負って生きています。重い足枷を引きずりながら、彼は動物たちと向き合っていました。ただ皮肉なことに、小高のやったことが、少なくともヒメたちにあるヒントを与えてしまっていました。
人間を嫌悪し牙を向くヒメと犬たち、罪を抱えながら尚ぶつかろうとする小高、犬が好きでヒメを止めようとする潤一、ヒメを探して泣く雅史。それぞれが迎える結末とは。
鋭い言葉が心に刺さる、恐怖と教訓をもたらすホラー
結構重いテーマを扱っているためか、所々考えさせられる表現も多く見られます。人を憎むヒメの言葉、ヒメを探す雅史の本心、虐めていた犬に復讐され悪態をつく飼い主へセンター職員が投げかけた言葉など、読んでいてホラーとはまた違う意味で重い気分にさせられます。
当方は犬ではなく猫を一匹飼っていますが、読むたびに大切にしようと思わせてくれる作品です。
ではでは、また次の投稿まで。