【読書感想文】殺戮にいたる病/我孫子武丸 ※ネタバレ注意
本日の読書感想文はこちら。
「どんでん返しと言えば」で挙がることが多い我孫子さんの名作。
連続殺人犯が辿った軌跡とそれを追う周囲の物語の結末は。
死刑が決定した殺人犯・蒲生稔。血に塗れた彼は愛に飢えていた
殺人犯が警察に捕まるシーンから始まるという、珍しくエピローグから語られるこのお話。犯人は蒲生稔といい、6件の殺人と1件の殺人未遂を犯したまさにサイコキラーだった。彼は既に死刑が確定し、控訴もしていない。
そもそも、家族である蒲生雅子は、息子が殺人犯ではないかと疑っていた。大学生の息子は帰りが遅くなったり隠し事をしていたり、ちょっと怪しい様子が見られた。そして何気なく息子のゴミ箱から赤黒い液体がついたビニール袋を回収したことで、疑念が確信に変わりつつあった。
また稔は、大学で目星をつけたターゲットに声を掛け、ホテルへと連れ出す。彼はよくいるサイコキラーではなかった、殺害した上でその身体を弄ぶという悍ましい行為で恍惚に浸っていたのだ。それはだんだんエスカレートし、包丁を手にして―――
殺人の様子はもちろんですが、その後がとんでもなくグロテスクなので要注意です。なんでそんなことを思いつくのか全然理解できません…本物のサイコパスの片鱗に触れることになります。「閃いた!」って喜ぶ様子が怖い。
また家族が殺人をしているかもと疑い、憔悴していく様子は痛々しくもあります。まあこの女性はちょっと過保護のような気もしますが、身内が恐ろしいことをしていると考えると不安になるのも当然ですよね。
元警部と被害者の妹、贖罪の為に彼らは手を取り合う
元警部の樋口は、妻を亡くして独り身だった。そこに通う看護師の島木敏子は30歳も年下であったが、樋口に想いを寄せているのは明らかだった。苦渋の決断で彼女と距離を置いた樋口だったが、敏子は巷を賑わせていたサイコキラーの手にかかり命を落としてしまう。容疑を掛けられる樋口の元へ、彼女の妹のかおるが現れ、姉を殺害した犯人を捕まえたいと申し出た。
公表されている情報から犯人の足取りや行動パターン、また大学教授が語る犯人像をヒントに、彼らは犯人を追う。敏子が殺害されたのは、自分の所為である…そう贖罪の念を抱えて。
こういう関係は見ていて危なっかしく、囮にもなるということもあってハラハラしっぱなし。しかもこういう場合の「自分の所為」って大抵は悪くないんですよね。でも本人が納得しないからこそ危ない橋も平気で渡るから余計にハラハラさせられます。
また大学教授の見解がものすごい気分悪くなる内容で…あくまで見解を述べているだけなので淡々としてるのが想像力を掻き立ててきます。これが実際にもある話なのが信じられない。
究極の愛を求める稔の前に、理想の彼女が現れた時
最早何をするにも厭わなくなっていた稔だったが、隙間は満たされることがなかった。持ち帰った愛の証も使えなくなってしまい、悶々としていたが彼の目に飛び込んできたのは信じられない女性の姿だった。しかも自分が所持していたものが、いくつか消えていることに気付いて―――
また雅子は警察が家に事情を聴きにきたこともあり、気が気じゃない日々を過ごしていた。彼の行動は日に日に怪しさを増していき、上の空であることも増えた。やがて決定的な瞬間を目撃した雅子は、あることを決意する。
そして敏子の足取りをやっと掴んだ樋口とかおるだったが、そこで二人の中が決裂してしまう出来事が起きる。ぎくしゃくしたままバーで別れた二人だったが、そこでかおるが稔と接触してしまう。結局戻ってきた樋口だったが、バーにかおるの姿はなくメッセージだけが残されていた。急がねばと焦る樋口の耳に、パトカーのサイレンが聞こえてきた。
ようやく犯人と対峙…というお決まりのパターンのようですが、実はここからが凄い。一言一句見逃し厳禁です。
本当の愛に気付いたサイコキラーが辿り着いた最悪の結末
最終章の数ページのどんでん返しに、思わずあっと声を上げてしまいます。ハラハラしたのも束の間、狂気の展開が待ち受けているので覚悟してください。警察の方が嘔吐するのも無理はない…
いやいや、もう最初から伏線が張り巡らされていたことに何故気付けないのか。お決まりで読み返してみれば、違和感はあるんですけどね。お見事としか言いようがありません、お手上げです。
グロテスクな狂乱の愛に忍ばされた伏線に驚愕する倒叙ミステリーの傑作
やることなすことが全部グロテスクなのでそこにばかり目がいってしまうのですが、恐らくそこも織り込み済みなんでしょうね。細かな描写にまで目が届かず、重要なことを見逃してしまいます。
ミステリーとしては文句なしに傑作ですが、何度も書いているようにグロテスク表現てんこ盛りなのでホラーとも言えそうです。ミステリーで慣れていてもこれは…
勇気のある方だけページを捲ってください、何卒。
ではでは、また次の投稿まで。