
【読書感想文】ハサミ男/殊能将之 ※ネタバレ注意
本日の読書感想文はこちら。
どんでん返しミステリーで真っ先に挙がることが多いであろう作品。
作者の仕掛けに気付いた時、世界はひっくり返る。
自殺未遂を繰り返す語り手が狙うのは美しい女子高校生
語り手は出版社でアルバイトをしているが、その生活はどこか不穏であった。通信教育の名簿から気になった女子高校生を見つけては、コピーを取り自宅に持ち帰る。住所を確かめ、通う学校や家を見つけ、そのターゲットを尾行する日々。だが、激しい自殺衝動も持ち合わせていた。石鹼液や殺鼠剤で自殺を図っては未遂に終わり、苦しみ悶えることの繰り返しだった。
それでも、女子高校生を狙うことは止めなかった。店で張り込み、バイク便のふりをしてオートロックを突破し、表札から家族像を思い浮かべる。そして頃合いが満ちた時、新しいハサミを手に入れ、その切っ先を研ぎ澄ませる。そう、語り手は巷を賑わせているハサミ男その人であった―――
一見するとそこまでおかしな人ではなさそうですが、少女を殺すことを躊躇わないし自分を殺そうともする情緒不安定さも不気味です。そんな犯人が自らの殺人を語る…だけでは終わらないのがこの作品です。
ずっと狙いを定めていた少女が殺された、そこには銀色のハサミ。一体何故?
語り手はここしばらく樽宮由紀子という少女を追っていた。才色兼備の彼女を自分の手に掛ける、そんなことを考えながらずっと彼女を尾行していた。
だが、想定外の事態が発生。由紀子は語り手以外の誰かに絞殺され、首にはハサミが突き立てられていた。自分はまだ殺していない、一体何故こんなことに?
遺体発見者として振る舞いながらも、語り手は憤っていた。マスコミはこぞって、今回もハサミ男の犯行であると報道していたのだ。ハサミ男はこの自分、見ず知らずの人物がその名を語るのは許せない。語り手は真犯人を突き止めようと、独自に調査を開始することに。
その頃、警察も由紀子の事件の本格的な調査に乗り出していた。そこで判明したのは、由紀子が複数の男と付き合っていたということと、複雑な家庭事情であった。また遺体発見者の太った男が、由紀子の葬儀にも姿を見せていた。怪しく思った警察は、彼を含め身辺を洗い始める。
ハサミ男と警察の視点が交互に語られるので、ハラハラドキドキ感倍増です。犯人が別の犯人を捜すという新しい展開に目が離せなくなります。また由紀子だけじゃなくていろんな人が怪しく見えてくるので、どう絡んでくるのかが気になってきます。
面白おかしく並べ立てるマスコミ、迫る警察の捜査の目…それらを欺いて世界はひっくり返る
警察は日高光一という太った青年が怪しいと目を付け、周辺に聞き込みをしていた。遺体発見現場では目撃情報もあり、段々容疑者へと変わりつつあった。自宅にまで訪れ、事情聴取まで行うものの、決め手には欠けていた。
語り手は警察の目が自分に向けられていることに気付きつつ、独自の捜査を続けていた。フリージャーナリストを語り、由紀子の友人や関係があった男性、果ては家族にまでも接触する。だが彼らの話を聞きながら、自分の熱が冷めつつあることに気付いていた。結局また自殺をしようと思って首を吊ろうとするが、それも失敗に終わる。そこへ、玄関のインターホンが鳴り響いた―――
ここの先を読んだ時、あっと驚愕することになるでしょう。既にもう作者の罠に完全に引っかかっていたのです。どこから、ではなくてもう最初から。何もかもが伏線だったことに、ここでようやく気付く訳です。
偽のハサミ男の正体とは。そして本物のハサミ男を待ち受ける未来とは
偽ハサミ男の正体もまた驚きなのですが、よくよく読めばこちらも違和感や伏線があちこちに潜んでいます。推理を読みながらページを戻り、なるほどと納得せざるを得ません。というか、これも偏見が招くミスリードなんですよね…ある訳ないって思っちゃうから。
この作品ではマスコミの報道の在り方も書かれていますが、こういうのがあるからいろんな偏った見方が生まれるのかな…とも考えてしまいます。事実、警察もそんな報道に振り回されてますし。
結末がわかってもう一度読んでみると、自分の先入観の強さに驚かされます。手法としては非常にベタなのに、どうして毎回引っかかるのか。
ラストはすべてが解決している訳ではないですが、どうなっていくのかが気になる終わり方をしています。果たして行く末は、ハッピーか、ダークか…
作者の仕掛けに騙されるのが最早爽快な叙述倒叙ミステリー
二人のハサミ男の正体を解明するという、倒叙ミステリーでありながら叙述ミステリーでもあるという贅沢なこの作品。
面白い作品には間違いないし、いろんな方も感想文を書かれてますが、ちょっとでも核心に触れたら全部がネタバレになってしまうので語るのが非常に難しい作品でもあります。実写作品にもなっている今作ですが、よく出来たな…と思えるトリックなので。
必読とも言われるどんでん返しを是非味わってみてください。
ではでは、また次の投稿まで。