【読書感想文】屍人荘の殺人/今村昌弘 ※ネタバレ注意
本日の読書感想文はこちら。
本格ながら今までになかったクローズドサークルを生み出し、賞を総ナメにするばかりでなく、映画化もされた注目作です。
二人の探偵と一人の助手
神紅大学に通う葉村譲は、ミステリ愛好会に所属している。
と言っても会員は二人だけ、葉村と先輩であり愛好会会長でもある明智恭介しかいません。ミステリー研究会は他にあるのですが、どちらも肌に合わず辞めてしまっています。
二人だけでミステリ談義に明け暮れ、日常の小さなことを推理するという日々を送っています。
そこへ登場するのが、剣崎比留子という美少女です。
この二人、探偵といっても取るスタンスがまったく違っています。
明智はミステリ―大好きで、事件などが起これば構わず飛び込んでは推理を披露するという自称・名探偵(この場合は迷探偵とも言う)。ミステリー作品にはよく登場するような人物像なのですが、その手のキャラは的外れな推理をすることも多く、明智も例に洩れず残念な推理を繰り広げます。
一方の比留子は、ミステリーは特に好きではないですが、正真正銘の名探偵とも言える人物で、圧倒的推理力で数々の事件を解決してきています。ですが、言い換えれば事件に巻き込まれることもしょっちゅうで、そんな体質を疎ましく思っているほど。自ら事件現場に飛び込む明智に驚いているくらいですからね。
正反対とも言える二人ですが、共通している部分もあります。それは、葉村を助手として認めているということ。残念探偵であっても明智のことを尊敬している葉村を、比留子は自分の助手にスカウトするくらいには買っているのです。
合宿を地獄に変える、恐ろしいクローズドサークル
舞台となるのが、ペンションの紫湛荘(しじんそう)。
映画研究会の夏合宿に、ミス愛メンバーが参加することになります。
一見接点がなさそうですが、そもそもは明智が映研の合宿に参加したいとしつこく言っていました。「何かありそうだから」という理由もあり、ずっと断られる羽目に。
ですが、その合宿に不参加のメンバーが次々と現れたことと、比留子が取引をしたおかげで、急遽参加が決定。そこで判明したのが、明智が断られていたのは「ミス愛は男しかいないから」というのが本当の理由で、比留子が参加するなら他二人もOKというとんでもない魂胆なのでした。
男二人が駄目で、そこに女子が加わるならOK…合宿の目的が、なんとなく想像できるでしょう。
参加者はミス愛メンバーに映研メンバー、そして映研のOB。OBがなんでいるの?って不思議に思えますが、それこそ上記の魂胆の根源こそがこのOBなのです。そのせいもあってか、彼らの第一印象は最悪です。
あまりいいとは言えない雰囲気ながらも、映像を撮ったりBBQをしたり肝試しをやったり、初日がなんとか終わろうとしていました。
しかし、平和な(?)合宿は突如として崩壊することとなりました。
合宿の当日は、その近くで音楽フェスが開催されていました。そこでとんでもないことが起こってしまう。
それは、バイオテロ。人間をゾンビに変えるという恐ろしい代物で、しかも音楽フェスということはかなりの人がいる状況で発生するのです。あっという間にパンデミック状態となり、紫湛荘の周辺はゾンビで溢れかえってしまいます。一行は立てこもりを余儀なくされ、逃げ惑うことに。
ここまではよくあるパニックムービーの展開に思えますが、更に一行を最悪の事態が襲います。
メンバーの一人が、密室状態で殺害されてしまうのです。更には『ごちそうさま』というメッセージも現場には残されていて…
調査をしたくてもまともな状況ではないし、ゾンビたちはじわじわと行動可能範囲を奪っていきます。バリケードを作ったり、お互いの存在を確認したり、協力体制を敷く彼らですが、そこには殺人犯も紛れている。疑心暗鬼となり、部屋に立てこもってしまう人物も現れる始末。
そして、精神的に参っているのは葉村も例外ではありませんでした。とある出来事により、葉村は心に大きな穴を穿たれていました。けれど運命は容赦なぞせず、第二の殺人が発生してしまいます。
ゾンビと殺人鬼の魔の手を退け、生きる道を見つけ出せ
辛すぎる状況の中でも、彼らはミス愛のメンバーであることに変わりありません。助けを待ちながら、調査を進めていきます。
ゾンビに囲まれているので調査も命懸けなんですが、殺人を犯す人物も同じく命の危険にさらされています。そんな中でも殺人をしなければならない、その動機は何なのか?どうやって殺害を可能にしたのか?そして、そんな事件を引き起こした犯人とは一体誰なのか。
増えていく謎とは逆に、彼らの行動範囲は確実に狭まっていきます。
ただ一人、比留子はいつでも冷静沈着。内心は焦っているのかもしれませんが、おくびにも出さず状況を打開しようと推理をする姿はかっこいいとすら思えます。
驚愕の犯人、悲しき動機、そして潰える最後の希望
いよいよ極限状態が迫ったところで、真相が解き明かされる時がやってきます。殺害トリックや使われた凶器、アリバイトリック等、それが丁寧に一つずつ解かれていきます。これが気持ちいいくらいに解決され、じわじわとクリアになっていくのです。そして、すべて明かされた先に待っていたのは、意外な犯人の名前でした。
動機については犯人の口から語られるのですが、これがまあ犯人に同情したくなるようなものでした。言うべきではないけど、因果応報という言葉がしっくりくるような内容です。
ただ、犯人も許されざることだとは理解しています。それでもやらなければならなかった、最後まで犯人はその覚悟を持っていたのです。最後の砦が破られ、絶体絶命となった時まで。
そして葉村にも、絶望の手が伸びてきて…
ほんの少し残っていた希望の光は、永遠に消えてしまうのでした。
残された謎を追いながら、新たなクローズドサークルを味わう
殺人事件は解決しますが、この作品では解決していないこともあります。
それは、バイオテロの黒幕です。
音楽フェスを一瞬で地獄に変えるのだから、巨大な組織が関わってそうなのは間違いないですよね。となれば、今後も何かしら大なり小なり起こすかもしれない…その黒幕を追うのも、このシリーズのテーマです。
ただ、葉村くんに起きた絶望に、同じようにショックを受けた人も多いのでは…私が最初読んだ時は、次の作品を読むのを躊躇ったほどでした。
でも本当に面白いので、映画しか見ていない人も是非目を通してみてほしいです。
ではでは、また次の投稿まで。
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