『我が庭で』
会社も定年を過ぎて
とりわけ趣味もない
天気の悪くない日は
ひたすら縁側に腰を下ろし
ぼうっと空を眺めるか
居眠りをするか
ところで
庭を隔てたアパートの二階で
若夫婦がよく喧嘩をしている
日夜怒号とともに
ガチャン!とか
バリン!とかいった
金属音やら
陶器が割れるような音やらが
私の耳に届く
部屋のなかはさぞかし傷んでいることだろう
隣人にもあるいは迷惑がかかっているかもしれない
そう考えた私は
若夫婦を我が庭へいざなうことにした
「なにかあったら、ここでおやんなさい」
翌日
さっそく彼らは姿をみせた
青々とした芝生のうえを転げまわっては
思いのたけを互いに叫び
罵りあい
痛めつけあい
しばらくすると詫びと礼を言いながら
帰っていった
その後も同様のことがしばしば
もはや壮年を迎えた私には
若夫婦の掴み合いたるや
たいへんに刺激的であった
喧嘩そのものの迫力はさておき
なによりも
奥さんは気こそ短いが器量よしで
時折はだける衣服からのぞく
上も
下も