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【読書感想文】ロシア紅茶の謎/有栖川有栖 ※ネタバレ注意

本日の読書感想文はこちら。

有栖川有栖さん作品でも屈指の人気作【国名シリーズ】の第一作目。
短いながら濃厚な作品が楽しめる短編集です。


短いお話の中に鮮やかな推理が潜む

鋭いロジック推理が満載の作品集。これぞ火村英生といったミステリーを楽しめます。

◇動物園の暗号
動物園の猿山で遺体が発見された。被害者は動物園の男性従業員で、当日は夜間飼育を担当していたそう。彼は殴打された上で猿山に突き落とされていたのだが、その手にはメモを握りしめていた。メモには動物の名前が並べられており、中には〇や△で印がつけられたものもある。間違いなく彼が書いたもので、他の従業員にもその謎が解けるか挑戦させていたという。そのメモが示すものとは?
読書も参加できそうなスタンダードな暗号もの。なるほど!と思わず確認せずにはいられなくなります。最後のブラックユーモア的なオチも良い。

◇屋根裏の散歩者
アパートの家主である高齢男性の殺人事件が発生。彼はおかしな趣味があったらしく、屋根裏に忍び込んでは、各部屋の住人の様子を覗き見していた様子。しかも日記までつけていたのだが、住人の名前が『大』『ト』『I』など、本名とまったく関係のない文字で表現されていた。それだけならまだしも、以前から大阪府内で発生していた連続殺人にも関係しているらしく…
かの有名な江戸川乱歩の作品【屋根裏の散歩者】のオマージュ作。日記の文字の意味、予想できる人はおそらく少ないでしょう。また今回は、火村が犯人をあぶり出すために大胆な行動を取っています。アリスも大変だ…
そして意外なダイイング・メッセージも見どころです。

◇赤い稲妻
マンションのベランダから転落死したのは、人気モデルのアメリカ人女性だった。偶然にも火村の大学の学生が目撃しており、ベランダには被害女性以外にも誰かがいたらしく他殺だと判断。その女性にはパトロンの男性がおり、その男性が怪しいと思われたが、彼は妻が踏切で事故死したために別の警察署にいた。果たしてそれは偶然なのか?
火村が犯人を容赦なく追い詰めていく様子は、見ていて気持ちがいいほどです。小さな気付きからすべてを解き明かしていき、最後はぐうの音も出なくさせる様子は犯人がかわいそうにすらなります。ただ、やってしまったことがかなり酷いので同情はできませんが。火村の嫌味たっぷりの皮肉、お見事です。

◇ルーンの導き
火村の研究室を訪れたアリスは、彼の手にルーン文字が書かれた石があるのを目にする。占い嫌いの彼が珍しい、そんなことを考えていると、火村がそのいきさつを教えてくれた。
友人のジョージ・ウルフにより呼び出された火村。ジョージの知人で、出版関係者の中国系アメリカ人の男性が刺殺されたのだ。男性は占いで使用するルーン文字が書かれた石を4つ握りしめ、亡くなっていたのだ。
容疑者はジョージを含む5名だが、証言にも特におかしなところはない。だがあることに気付いた火村は、一人の嘘を鋭く見抜いて―――
そんなことで!?と思える些細なことから、矛盾点を導き出す火村はさすがですね。またルーン文字の石から見えるダイイング・メッセージは予測不可能でしょう。普段触れられない分野の知識が盛り込まれており、勉強になります。

◇八角形の罠
アリス原案の舞台の稽古を見学に来た火村とアリス。舞台稽古自体は順調だったが、人間関係のもつれやスタッフ同士での揉め事があったりと穏やかではない様子。更には分電盤が壊れたりと、立て続けにトラブルが発生してしまう。落ち着いたのも束の間、俳優の一人が毒を注射された遺体となって発見された。
警察も到着し、いつものように調査に協力する二人だったが、なんとその最中に目の前でもう一人の俳優が亡くなってしまった。死因は煙草に仕込まれた毒による服毒死、やはり連続殺人なのか。
劇場の見取り図や読者への挑戦状もある本格ミステリー。舞台上で火村が推理を披露するというこのシリーズにしては珍しい展開ですが、相変わらずなロジック推理を見せてくれます。どんなさりげない言葉も見逃さない火村、犯人にしたら脅威以外の何物でもありません。

国名シリーズでもトップクラスの傑作【ロシア紅茶の謎】

現在11作目まである【国名シリーズ】ですが、その中でも人気が高い作品の一つがこの表題作です。そこまで長くないお話の中に、ミステリーの要素が余すことなく詰め込まれている名作となっています。

年の暮れ、新進作詞家の男性が、自宅でのパーティーを行っていた最中に死亡した。死因は中毒死、彼が飲んでいたロシア紅茶から致死量の青酸カリが検出された。
疑わしいのは彼の妹を含め、パーティーに参加していた男女。だが検出された青酸カリは彼のカップからのみで、他のカップ等からは検出されなかった。彼は偶然ではない殺意により命を落としたのか?では複数の目があるパーティーの場で、どうやってピンポイントに毒を盛ることができたのか。
3つのダニットすべてが上質ですが、特にハウダニット(殺害方法)の真相には度肝を抜かれます。命懸けで殺害したのか…と、読んでいるこちらが恐ろしくなります。
ただ、犯人の言い分にはちょっとイラっとしてしまいます。「お前が言うなよ!」って感じですね。まあ火村のキレッキレの推理を聞いたら、焦ってそう言いたくなるのもなんとなくわかりますが。
しかし、どこまでも冷静な火村英生。鋼のメンタルには恐れ入ります。

犯人に付け入る隙を与えない、火村英生に容赦は存在しない

【火村英生シリーズ】でも比較的初期に書かれたものなので、かなり読みやすく正統派な印象を受けます。
ハウダニットには驚かされるものも多いですが、どこまでいってもロジックなので納得してしまいます。但しあくまで正論を述べる火村は犯人を無意識に煽ってしまうので、逆切れしてくる犯人が多いのも特徴かもしれません。何故人殺しをしているのにああも強気なのか…
兎に角、火村英生入門とも言える作品、このシリーズの良さを存分に味わえます。
ではでは、また次の投稿まで。

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