【読書感想文】怪しい店/有栖川有栖 ※ネタバレ注意
本日の読書感想文はこちら。
いろんな『店』が舞台となっている短編集。
王道だったり、ちょっといつもとテイストが違ったり、バラエティ豊かな作品が5作品掲載されています。
古のものは人を狂わせるのか【古物の魔】
骨董品を扱う店の主が、店内で遺体となって発見された。鈍器で何度も強く殴られており、相当な怨恨を持って殺害したと見られている。この店で働く甥は、仕事柄揉め事はあっても恨みを買うような人物ではないと語る。また被害者は生前「変なものを掴まされた」とこぼしていたという。変なものとは何か、それが事件の原因なのか。また遺体は、押し入れの中に突っ込まれていたという。それが必要だった理由は?
怪しいのは父親の机のことでやり取りしていた青年や、親しくしていたらしい女性、仕事仲間など容疑者候補は挙がるものの、どれも決め手に欠けていた。だが火村があるものを発見したことにより、事件は急速に解決へと向かっていく。
見逃しそうな小さなものを見つける火村の観察眼の鋭さ、いつものことながら凄いの一言。また犯人の正体はもちろん、凶器にも注目です。そんなところが伏線だったとは。また骨董やら古物やらにはさっぱりですが、このお話を読むとアリスのように興味が沸いてきます。
奇怪なルールがある店で起きた奇怪な事件【燈火堂の奇禍】
火村の下宿先に向かっていたアリスは、出来たばかりの古本屋【燈火堂】があることに気付く。何気なく立ち寄ってみると、そこの店主は偏屈で「10日後に取りに来なければ売らない」というおかしなルールを徹底しているという。だが数日前、その店主は逃げる泥棒に突き飛ばされて大怪我をしたらしい。小さな事件で火村も特に興味は示さなかったが、店から消えたものをアリスの口から聞くと何やら考え始めて―――
アリスの又聞きから火村が見事に推理を的中させていく安楽椅子探偵もの。会話のやり取りや客の風体で、何故そんなところまで見抜けるのか…比較的短いお話ですが、火村の推理力を存分に味わえます。
しかし、二人は相変わらず仲良しだし、火村の下宿先のばあちゃんと食卓を囲むシーンがあったり、癒されるシーンも多いお話です。
完全犯罪を目論む犯人に火村が待ったをかける【ショーウィンドウを砕く】
【夕狩プロダクション】という事務所を経営している語り手だったが、状態は芳しくなく金策が不発に終われば詰みとなるほどであった。更に恋人の愉良はショッピングが趣味で湯水のように金を遣うのだが、自分の事務所が経済的に危ういとはとても言い出せなかった。愛した女性が自分と別れた後、世間の荒波に揉まれボロボロになることだけは避けたかった。そんな身勝手な想いが、語り手を犯行に走らせる。証拠は隠滅し、証言も完璧に口にする。アリバイはないが、それだけで捕まることはない。そう自分に言い聞かせる夕狩だったが、警察と共にやってきた犯罪心理学者が牙を向く。
犯人視点で描く倒叙もの。何もかもが完璧だと自負していても、火村がそれを見逃すはずがありません。夕狩は火村たちを有能ではないと侮っていたり(アリスに関しては微妙に当たっている/失礼)、火村がずばずば切り込み焦る犯人の様子は滑稽でニヤついてしまうほどです。火村とアリスの絶妙なコンビネーションにも注目です。
フィールドワーク先で火村が出会ったドラマチックな出来事【潮騒理髪店】
自身が解決した事件の犯人が暮らしていた町を訪れた火村(忘れそうになりますが、大学准教授なのでこれも仕事の一環)住民に話を聞いたり、見て回ったりして、いざ帰ろうとなった時に列車が遅れてしまい待ちぼうけを食らうことに。またぶらぶら歩きながら道端であった女性たちと会話を交わしていると、電車に向かって白いハンカチを振る若い女性の姿を目撃した。誰かに向かって手を振っているのだろうか。
不思議に思いつつも歩を進めると【潮騒理髪店】という店を見つけた。飛び込みで入ってみると、快く受け入れてくれる。だがその理髪店は、その日が最後の営業日で―――
白いハンカチを振る女性が、言わずもがな鍵を握っています。風景は爽やかそのものなのに、謎に至るまでの過程はちょっと重いですが。
アリスが言うように、まるで映画のワンシーンのようなお話です。旅をしたくなるという気持ち、よくわかります。
『聴く』ことが仕事の女性は何故殺された?【怪しい店】
客の悩み事などを聞いて心を軽くしてくれる店【みみや】を経営していた女性が、首を絞められ殺害された。彼女は夫とは夫婦仲があまり良くないと噂され、またある女性客とのトラブルを抱え、更には怪しい金額の振り込みがあり…やっている商売とは真逆の、後ろ暗いところがありそうな人物だった。火村とアリスは警察と手分けしながら容疑者に話を聞いてみるものの、確証はなく手応えも感じられなかった。しかし、火村だけは違っていた。アリスと女性刑事の高柳から報告を受けた彼は、珍しく感情を露にする。
直接聞いてもいない話から犯人まで推理する火村は相変わらず天晴ですが、今回はちょっと先走りしている感じがする珍しいお話。舌打ちしたり、アリスに無茶ぶりさせたり、なんだか新鮮に思えてしまいます。また火村やアリスの過去の話にも触れられるシーンも興味深い。
そして、なんでもかんでもペラペラ喋るのはよくないと改めて気付かされます。例え人が良さそうに見えたとしても…
多種多様な店を巡る事件を火村の鋭い推理がスパっと切り裂く
王道ミステリーや人が死なない日常ミステリーまで、多彩なジャンルの作品が読める楽しい短編集です。火村とアリスの相変わらずなやり取りもありますが、火村が覗かせる珍しい一面も必見です。
また、店の概念も幅広いなあ…と改めて思わされます。知らない店に飛び込んだりする勇気はあまりない当方ですが、ちょっと覗いてみたくもなりますね。
ではでは、また次の投稿まで。