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【読書感想文】すべてがFになる THE PERFECT INSIDER/森博嗣 ※ネタバレ注意

本日の読書感想文はこちら。

『理系ミステリィ』というジャンルを確立した金字塔とも言える作品。
天才と天才が出会った時、何が起こるのか。


孤島に聳える研究所。そこにいるのは類稀なる天才だった

N大学助教授(今は准教授ですが、書かれた時代がそうだった)の犀川修平は、ゼミに所属する学生たちとイベントで孤島に来ていました。そこには研究所があり、真賀田四季という女性が隔離された生活を送っています。彼女は天才という言葉が陳腐にも思えるほどの頭脳を持っており、「神に近い存在」とまで称されている人物でした。
だが、そこで不測の事態が発生。ロボットに固定された四季の遺体が発見されたのです。それだけでも十分異様ですが遺体の状態は更に異様で、ウェディングドレスを着ている上に両手両足が切断されています。しかもその部屋は完全な密室となっており、彼女以外の人間はいなかった。自殺も疑われましたが、遺体の状態から見て他殺で間違いないとのこと。脱出不可能なその部屋で、どのように犯行が行われたのでしょうか。
強大な謎に、犀川が挑むこととなるのです。

少し風変わりな助教授と、風変わりなお嬢様の名(迷?)コンビ

犀川は助教授ですが、ちょっと変わっています。成績やレポートには重きを置いておらず、講義でも教鞭を垂れるというよりは自分の考えを語るくらいしかやりません。但し研究者としては非常に優秀で、その界隈では有名人。更にはこだわりが強いところには強いが、興味がないところにはとことん興味がないという、如何にも研究者といった性格をしています。それでいても卓越した推理力を持っており、探偵としては申し分ない腕を持っています(ただ本人は探偵役はやりたくない)
一緒に行動する西之園萌絵は、N大学の学生で犀川の恩師の娘でもあります。両親を飛行機事故で亡くして以来、超高級マンションで執事の諏訪野と犬と暮らしているといます。犀川と同じく思考能力自体は非常に優れていますが、ミステリー好きが高じてか考えが飛躍することもしばしば。ただ頭が良いことは間違いなく、それは犀川も認めています。
亡くなっていますが父親は元N大学総長、その弟である叔父は県警本部長、その妹である叔母は県知事夫人と、まさに華麗なる一族の超お嬢様。世間知らずなことも多々ありますが、振る舞いは令嬢そのもの。
そんなどこか凸凹なコンビが挑む謎、一筋縄ではいきませんでした。

不可解な死が続く孤島、連続殺人犯は誰だ

警察に連絡しようにも、研究所専用のOS(WindowsとかMacの類)は使い物にならず、外部との通信は遮断。仕方なく独自に調査を進めることとなりますが、そこに救世主が。研究所の所長である新藤という男性が、四季の妹・未来を連れて帰ってきたのです。これで警察に知らせることが出来る…と思った矢先、今度は新藤が殺害されてしまうのです。彼が乗ってきたヘリの無線は破壊され、再びふりだしへ。
何かヒントはないかと四季の部屋に入った犀川たちは、そこで四季のパソコンに残された『すべてがFになる』という一文を見つけます。作品のタイトルになるこの言葉、すべての謎を解くキーワードです。果たしてそれが意味するものは何か。
その後OSの切り替えに無事成功し、警察への連絡も可能となってようやく本格的な捜査が始まることになりました。ですが、またしても事件が発生。研究員の一人である山根という男性が、バスルームで亡くなっていたのが発見されたのです。彼が殺される理由には心当たりがない。何故、どうやって彼は殺されたのでしょうか。
謎が呼び水となって更に謎を呼ぶ、不可思議な連続殺人。犀川はどのようにして真相へ辿り着くのでしょうか。

理系の謎には理系で挑め。専門用語のオンパレード

犀川は完全なる現実主義者であり、また完全なる理系脳。奇想天外なことには目もくれず、あくまで現実的に可能な範囲でしか物事を考えません。ただその思考力と洞察力は桁違いで、並の人間ではついていけません(優秀な萌絵でさえもたまに置いてけぼり)また舞台はコンピュータやハイテク技術を集めた研究所、飛び交うのは当然専門用語ばかりです。また余談ですが、作者の森さんは実は元大学助教授、そら詳しくてもおかしくない。
話は非常に面白いのですが、説明がない限り専門用語に関してはほぼちんぷんかんぷんな状態。2進法10進法でギリギリでした…
ただこれ、すごいのが舞台は1994年の日本、作品の発売は1996年。ほぼ30年前の作品なんです。コンピュータが出始め、まだ一般的に普及もしていない頃の時代に書かれたもの。そんな時にプログラミングだのOSシステムだの、果ては今の時代でも最先端と言われるVRまで登場する作品を書き上げるとは…未来でも見えているのかと疑ってしまうほどです。

犯人が語る驚愕の真相はタイトルの意味までをも颯爽と回収する

真相に辿り着いた犀川たちに、犯人が事件の全容を語り始めます。語られる真賀田四季の過去、常軌を逸した天才ぶり、そして犯人が事件を起こした動機…とても常人では理解できません。
そしてそこから更に、事件は驚きの展開を見せます。犀川や警察がいる孤島で、犯人はどのような行動に出たのか。最後までハラハラさせられます。
表題の『すべてがFになる』ももちろん重要ですが、英語タイトルの『THE PERFECT INSIDER』もかなり重要なヒントになります。Fの意味とは?INSIDERが示す人物とは?
このシリーズは日本語・英語タイトルの両方が秀逸なので、その意味も考えながら読み進めるとより面白いし楽しめます。

理系ミステリィの最高峰、素晴らしきエンターテイメントを楽しめる

専門用語が多く難しい印象を持つかもしれませんが、ミステリーとしては文句なしに傑作です。また犀川の名探偵ぶりと萌絵との会話も楽しく、シリーズを通して出てくる個性的な登場人物たちも魅力的。
また今作は『面白ければなんでもあり』でお馴染みのメフィスト賞の初代受賞作でもあります。つまり、エンターテイメント作品としても申し分ないということです。VRを通して見るかの如く、この世界観に没入してみて損はありません。
ではでは、また次の投稿まで。

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