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どんなときも。

日曜日、暗黙の一室から歪な響動が。
覗いてみると弟が鍵盤を叩いていた。猫踏んじゃったを、へたくそに。この部屋を覗くのも二年ぶりになる。埃塗れの空間を想定したが、その空間は昔のまま、程よい温湿を保っていた。
 
弟は俺に気付くと演奏をやめた。アトラスのグランドピアノ、木目調…もうこの家には必要ない置物だ。弟は俺を見やる。
 
「調律駄目?」
「うん、滅茶苦茶。売るかそれ。結構良い値するっしょ」
「勿体無い」
「インテリアには勿体無いだろ。場所取るし」
「あ、そう」
 
弟は伏し目がちに部屋を出ていった。まあ、思い入れもあるのだろう…。俺はこのピアノにあまり良い思い出がない。幼い頃は親戚一同が集まると、俺は決まって何かを演奏させられた。拙い演奏を、大人達が動画に収め、ニコニコ笑っている。俺にとっては愉快な時間じゃなかった。演奏を終えるたびにトイレに籠ってたなぁ…。
 
籠ったトイレで槇原敬之さんの『どんなときも。』を聞いていた。『どんなときも僕が僕らしくあるために、好きなものは好きと言えるきもち抱きしめてたい』俺が好きなものはなんだろう…音楽だ。でも嫌いなものも音楽だ。どんなときも一筋縄じゃいかない。
 
俺が俺らしくある為に、一先ずピアノは残しておく事にした。迷い探し続ける日々が答えになる事を、少なくともマッキーは知ってるから。

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