建築のデザイン「下地窓(したじまど)と茶室」
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下地窓(したじまど)って何?
下地窓(したじまど)とは、日本建築にみられる窓の一種です。土壁(つちかべ)の一部を塗り上げずに、壁下の小舞(こまい)をそのままみせた窓です。「塗り残し窓」「塗りさし窓」「掻(か)きさし窓」ともいい、円形または四角にあけられたものなどがあります。千利休(せんのりきゅう)がこれを数寄屋(すきや)に採用してから、下地窓はデザインとして多様化していきました。
数寄屋(すきや)
数寄屋というのは、茶室(茶室)。安土桃山時代、千利休によって完成された「わび茶(茶の湯)」は、無駄なものを削ぎ落とし、できる限り質素にした作りのなかに美しさを見出すもの(不完全を求めた)哲学。茶室にはこのわび茶の思想が反映されています。
岡倉天心の『茶の本』によれば、茶室は、①茶室本部と、茶器を持ち込む前に洗って揃えておく②水屋(みずや)と、客が茶室へ入れと呼ばれるまで待っている③待合(まちあい)と、待合と茶室を連絡している庭の小径④路地(ろじ)から構成されています。
数寄屋の下地窓は、窓内に現れる下地の小舞(こまい)を、実際の壁下地(かべしたじ)とは別に作っており、小舞には、割竹(わりだけ)、篠竹(しのだけ、すずたけ)、錆竹(さびたけ)、煤竹(すすたけ)やヨシ(葦)やハギを用いて藤(ふじ)づるを巻き付けます。小舞の間隔も疎にしたり密にしたり、また一部配列を変えたりして趣向を凝らすことが多くあります(※1)。
小舞(こまい)の素材
割竹(わりだけ)
文字通り、割った竹。
篠竹(しのだけ、すずたけ)
イネ科の多年草。日本特産で、各地の山地の森林の下草として群生しています。高さ一は3メートルほど。
錆竹(さびたけ)
竹の表面にカビが寄生して、黒い小さい斑点が出たもの。
煤竹(すすたけ)
煤竹は、古民家の囲炉裏の煙でいぶされた竹。茶褐色の色目はいぶされて自然についたもので、縄目には色が着かずに残ったものもあります。中には100~150年も前の竹もあり茶道具などにも珍重されますが、現在では囲炉裏のある家屋があまりないため、一層貴重な素材。
ヨシ(葦)
ヨシまたはアシ(葦、芦、蘆、葭、学名: Phragmites australis)は、イネ科ヨシ属の多年草。河川および湖沼の水際に背の高い群落を形成します。英語では、一般的にリード (reed)。和名「ヨシ」の由来は、もともと本来の呼び名はアシであったが「悪し」に通じるため、「ヨシ」と言い換えられたもの。
ハギ(萩)
ハギ(萩、胡枝花 Lespedeza)は、マメ科ハギ属の総称。落葉低木。秋の七草のひとつで、花期は7月から10月。
藤(ふじ)づる
文字通り、藤の蔓。藤の幹や枝が細く長くなっているもの。強くねばりがある。ふじかずら。
土壁
土壁(つちかべ)は、土を用いて作られた壁です。日本においては左官(さかん)という専門職によって施工されます。土壁の構造は、
①小舞を組んだ壁を下地とする。
②荒壁:土に水と藁を6センチほどに揃えて切った荒すさ(わらすさ)を混ぜた土を小舞に塗りつけた壁を作る。
③中塗り:荒壁に使った土を水で薄めてふるいにかけて、川砂と苆(すさ:左官材料に混入される繊維状材料の総称)という荒すさを揉んだものを混ぜた土を荒壁に塗る。
④上塗り:白土、黒サビ土、浅黄土などの色土と川砂とすさを混ぜて仕上げとする。
左官
左官とは、とは、建物の壁や床、土塀などを、こてを使って塗り仕上げる仕事とその職人のこと。
江之浦測候所の茶室
総合芸術家の杉本博司氏が創設した小田原にある施設「江之浦測候所」には茶室があります。その茶室にもご覧の通り下地窓があります。
まとめ
日本の建築の歴史は、寝殿造から始まり、侘茶や茶道の思想を取り入れば数寄屋造りへと発展してきます。現代の和風建築にもこの数寄屋造りの要素は多く残っています。その経緯も楽しいのですが、下地窓の意匠には、茶道の思想を色濃く反映されているのが見て取れます。
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関連書籍
茶道とは?を通して日本の文化がどのように形成されたのかをわかりやすく解説している岡倉天心の著書。もともとは英文で書かれているため、欧米圏の方々に向けて綴られたものです。難しい言葉も多いけれど、薄いので読みやすい。
参照
※1