Aēsopのロゴにみる書体“Optima”のエレガンス
ビジネスに使えるデザインの話
デザイナーではない方に向けた、ビジネスに役立つデザインの話マガジン。グラフィックデザイン、書体から建築まで扱います。毎週火曜日7時に更新。
スキンケアブランド「Aēsop」
おしゃれなお店にいくとよくみかける特徴的なデザインの「Aēsop(イソップ)」は、デザイン好きも楽しめるブランドです。パッケージデザインも楽しいですが、店舗デザインも素敵で、いくつかの素晴らしい建築デザイナーとのコラボレーションをしており、店に行くだけで、そのデザインを楽しめます(たとえば中目黒にあるイソップ東京店は、Simplicityの緒方 慎一郎氏がデザイン)。青山店には、カスティリオーニ兄弟がデザインしたFlosのTaccia(タッチア)という照明も使われていて、ほんと何かと楽しめます。本も出ていて、装丁はRizzoli。
オーストラリアのブランドで創業者は、Dennis Paphitis氏ですが、現在はブラジルのNatura & Coという企業がオーナーです。
Aesopのクリエイティブディレクターは、ニューヨークのるマーシャ・メレディス(Marsha Meredith)氏。
Aesopのロゴは書体“Optima”
AesopはロゴのAesopの部分にOptimaという書体を使っています。そしてそれ以外の部分にはHelvetica Neueという書体を使っています。Helveticaという有名な書体についてはこちらに書いています。
このOptima(オプティマ)という書体は、ちょっと変わったポジションを獲得しています。「ゴシック体と明朝体の中間」と言えそうなポジションです。ゴシック体というのは、欧文書体については厳密にいうと「サンセリフ体」という種類になります。ちなみに明朝体は「セリフ体」。くわしくはこれらの記事に書いています。
Optimaは、サンセリフ体なんですが、線の太さが優雅に変化しています。そのため、サンセリフ体なのに、セリフ体のような気配が漂っているわけです。日本語の書体にもこれに似たポジションにいる書体があります。フォークという書体です。
しかし、ポジションは似ていても、随分とニュアンスが違います。Optimaは、こういうポジションを狙ってデザインされた書体ではなく、その出自は、イタリアのフィレンツェになります。
Optimaのデザイナー、ヘルマン・ツァップ氏
Optimaをデザインした書体デザイナーは、ドイツのヘルマン・ツァップ(Hermann Zapf)氏。
ツァップ氏がOptimaを完成させたのは、1958年。それまでに10年近い月日をその開発に費やしているのですが、きっかけはツァップ氏が、イタリア、フィレンツェにあるサンタ・クローチェ教会墓地の墓碑のレタリングをみたことでした。
墓碑に刻まれたレタリングには、セリフが無いのに優雅さが有り、美しいものでした。ツァップ氏は、それを紙幣にスケッチして、ドイツに帰り、デザインを始めました。ツァップ氏はその書体を読みやすいものに調節していきます。この一連の作業の中で、ツァップ氏は、トラヤヌスの碑文を参照しています。トラヤヌスの碑文の文字をベースにして作られた書体には、他にTrajanというものがあります。この書体もまた人気でいたるところで使われています。
ちなみにOptimaにはイタリックがなく、オブリークしかありませんでしたが、2002年に新たに世に出された、Optima Nova(ツァップ氏と日本人の書体デザイナー、小林章さんが共同で開発した書体)では、イタリックになっています。イタリック体についてはこちらに書いています。
Optimaにあるエレガンス
Optimaという書体には、幾何学とは対称的な人間味のある美しさが備わっています。トラヤヌスの碑文がベースになっていることのみならず、そこから優雅さを損なわないように削り取って作られたような美しさがあります。そのため、人間的な(ヒューマニスティック)ニュアンスとエレガンスを含んだメッセージを伝えるときによく使われています。たとえば、エスティーローダーのロゴもこのOptimaです。
Aesopのブランディング
創業者から離れたブランドですが、エレガンスを常に進化させつつ、ナチュラルよりなブランディングを継続しながら発展しているAesopは、薬品を彷彿させるシンプルなデザインをすべての商品に通底させています。ボトルが遮光機能を求めて使われていたアンバーであるのそんなコンセプトです。そしてそれとは対称的に質感やそれが置かれる空間という部分にものすごくコストと配慮を注いでいます。
そして本文?というか内容の表記にHelveticaを使っているのも絶妙です。ロゴにHelveticaを使うとエレガンスはなくなります。しかし馴染みと人懐っこさのあるこの書体がロゴ以外のところで使われることで高感度はあがるんです。なぜならわたしたち人間はみなれたものを好むので。
エレガンスな顔を持ち、近づく少し親しげに話しかけてくれるような存在で、かつその空間が洗練されている。そういう魅力を形成していくにあたり、Optimaという書体が担っているものは、思いの外、絶大です。
デザイン解説の動画
デザイン解説の動画もやっています。