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【小説】あと43日で新型コロナウイルスは終わります。

~完全予約制の一人美容師はワーママ~

アキナは今年初めて美容室に行った。こんなに長いこと美容室に行っていないのは久しぶりだ。いつもよりアキナは明らかに心がフワフワしていて、行きつけのいつもの美容師さんに今まで言っていなかったあることをつい口走ってしまった。

「実は、わたしの勤務先って、医療機関なんですよー。と言っても、産婦人科の小さなクリニックなんで、コロナの影響はそんなに大きくなかったんですけど、最初は何が何だかわからない未知のウイルスだし、看護師人生の中で初めてだらけなことも多かったんで大変でしたねー。」

医療従事者差別もあったと聞くので、アキナは言った瞬間、言わないほうが良かったかなと思った。

「ええー⁉ そうだったんですね⁉」

アキナの予想に反して、その美容師さんの表情がパーッと明るくなった。

「あのー、実は、わたし、去年から産休育休から復帰して、また美容室で働き始めたんですけど……。」

そこまで言うと、彼女は言葉を詰まらせたので、アキナは彼女の代わりに言葉を繋いだ。

「大変ですよね? お子さん、すぐ熱出したり、吐いたりしていません?」

「そうなんですよ!!!」

彼女の目は潤んでいた。

「わたしの職場にも、育休明けの同僚がいるんですけど、本人は元気だし、仕事も凄くやる気あるんだけど、朝、出勤したなーと思ったら、すぐ保育所から電話がかかってきて、『熱出たので迎えに来てください』『吐いたので迎えに来てください』って。みんなにペコペコ頭下げて早退して。こっちも人数が減ったら大変なんだけど、彼女に辞められたらもっと大変だから辞めて欲しくないんだけど、彼女、辞めちゃうかもな。みんなに申し訳なく感じているかも。」

「わたしも一緒です!保育所から電話がかかってきて、その度に、こちらが予約をドタキャンして、お客さまに迷惑かけまくって、どこの職場も一緒なんですね?わたしだけじゃなかったんだ!!!」

彼女は、微笑んではいたけれど、涙をこぼさんばかりだった。

そこから彼女は怒濤の育児相談に突入した。

アキナは途中で、自分は独身であることをそれとなくアピールしたが立板に水であった。

アキナは、観念した。

(この人はずっと一人だったんだ。誰にも相談できなかったんだ。)

産後うつや育児ノイローゼにより、自傷行為をしてしまったり、虐待に走るママもいる。

カット、シャンプー、ブロー、一時間にわたりアキナは育児相談に乗った。

会計を済ませると、美容師さんは憑き物が取れたような清々しい表情になり、屈託の無い笑顔でアキナを送り出してくれた。

(正直、疲れた。でも、自分でも彼女や彼女の子どもの役には立ったのかな?)

アキナは、商店街をフラフラと歩いた。

(⚫⚫先生が言ってたことは、このことだ。
「久しぶりに地元の同窓会に出たら、医者ってことで、ずっと健康相談をさせられた。」
って、苦笑いしてたな。初めてのお店に行ったり、新しいスタッフに会ったら、今度は職業は内緒にしておこう。)

そう心に決めたのであった。

新型コロナウイルスが終わるまで、
あと43日。

これは、フィクションです。

 ◆自殺を防止するために厚生労働省のホームページで紹介している主な悩み相談窓口

 ▼いのちの電話 0570・783・556(午前10時~午後10時)、0120・783・556(午後4時~同9時、毎月10日は午前8時~翌日午前8時)

 ▼こころの健康相談統一ダイヤル 0570・064・556(対応の曜日・時間は都道府県により異なる)

 ▼よりそいホットライン 0120・279・338(24時間対応) 岩手、宮城、福島各県からは0120・279・226(24時間対応)

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