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ありがとう本屋さん
私は、今から10年以上前、下痢、腹痛、発疹、全身疲労、倦怠感、体重減に悩まされ、冗談でも大げさでもなく、
「自分は長生きできないだろうな。」
と真剣に思っていた。
食べると下痢は止まらず、常に下痢をしているので、体内が栄養不足となりまた食べる。すると、また下痢をする。また食べる。これの繰り返しで、
1日最低6食、最高で10食。そんな生活を約5年続け、体重は30㎏~35㎏であった。
もちろん、医療機関に行ったが、「あなたは何でもないです。」または、「原因不明。」と言われ、内科医には精神科に行くように勧められ、精神科医には内科に行くように勧めらるという状況であった。
仕方ないので、自己流で太る方法を考えてはいろいろ試してみた。
ラーメン、ハンバーガー、焼そば、うどん、たこ焼、お好み焼、焼肉、天ぷら、パン、ケーキ、スパゲティー、ピザ、ギョウザ、シュウマイ、肉まん、……
太りそうなものを片っ端しから食べて、さらに、調味料をかけまくった。
歯はボロボロになり、顎も痛くなった。
医師以外からは、過食症と嘔吐を疑われ、気味悪がられた。ちなみに、その5年間は一度も吐いていない。
万策尽きて、身も心もボロボロになっていた。
「私の体は生きようとしていない。死に向かっているのだ。」
そんなとき、本屋さんで何気なく月刊コミックスを手にとり、買って帰った。
連載マンガのいくつかが気になり、それを毎月読むようになった。身も心もボロボロになった私にはそれはとても心地よかった。
自分がそのときどうにかこうにか死なない程度に生きている世界とは違い、そこには、恋愛も、仕事ができる会社員も、きらびやかな大学生活も、結婚も、育児もあった。
いつものように、月刊コミックスを買って帰ると、前のページから読み進めていった。
最後の作品は、桜沢エリカ先生の育児日記だった。
「正直、育児はあんまり興味ないんだよな~。」
と思いながら、ページをめくっていくと、とあるところで手が止まった。
『(我が子は)牛乳を飲んだ後、鼻水が出る。アレルギーかもしれない。』
確かそんなようなことが書いてあった。
頭の中で稲妻が轟いた‼
「食品アレルギー‼」
食品アレルギーの存在自体は知っていたが、まさか自分が⁉
確かに私も食中や食後に鼻水がよく出ていた。それだけでなく、咳も。
「嘘でしょ⁉」
私は半信半疑で食べ物の種類をどんどん減らしていった。
半年ほど時間をかけて、最後に残ったのはパンだった。
その頃の私は、パンと水だけで生活していた。
相変わらず体重は30㎏台前半で、下痢と倦怠感は酷く、駅のホームなど人前でも倒れていた。
「これが最後だ。」
パンを食べるのを止めて、ご飯と野菜にかえた。
すると、体重が一気に5㎏増えた‼
5年間、あんなにどうやったって増えなかった体重が簡単に戻り始めた。
しかも、体重が重くなるのに反比例して、倦怠感はなくなり、体が軽く感じられた。
「小麦アレルギー‼」
まさに、晴天の霹靂だった。
太るために一生懸命食べていた物が、すべて小麦粉入りだったのだから、私の体は一生懸命その小麦粉を体の外に出すために、下痢し続けていたのだ。
「私の体は死に向かっていないどころか、必死に生きようとしていたんだ。」
こうして、私の約5年に及ぶ戦いは終わった。
その5年で失われた仕事や恋愛もあったが、あのとき、小麦アレルギーに気づいていなければ、私のそれからの楽しい10年以上の生活はなかった。
ありがとう桜沢エリカ先生。
ありがとう先生の担当の方。
ありがとうあの月刊コミックスを書店に置いて下さった書店員の方。
ありがとう書店に営業をかけて下さった方。
ありがとう本屋さん。
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