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8月に読んだ本から

数ヶ月前までは今の社会を取り巻く課題や経営が向き合うべき課題など時代をキャッチアップして行くためにビジネス書を集中的に読んでいました。しかし、このところ心の渇望するままに小説を中心に読み始めましたが、noteには様々な読書記録や感想が多く、どんどん読みたくなる小説が増えてきたり、改めて歳を重ねた今、読み直してみたい物語が思い出されてきました。

8月はお盆休みもあり、コロナで出かけることも少なく、けっこう読書に時間を当てることができました。その中で印象に残ったお勧めしたい本をご紹介してみます。

◆「カフーを待ちわびて」原田マハ 〜美しい沖縄の海とひと夏の心温まる恋の物語〜
とても素敵なブックカバーに惹かれ文庫本を購入しました。この写真は物語の随所に出てくる主人公の家から海に繋がる道だと思います。愛犬のカフーとこの道を通って海へ行き、珊瑚を海に投げ入れ、カフーがそれを潜って拾って来る、物語の中に何度も出てくる青年と犬との繋がりを確かめるようなシーンです。第1回ラブストーリー大賞を受賞した素晴らしい作品です。エッセイ集「フーテンのマハ」の中にこの小説を書くきっかけとなったエピソードがあります。合わせて読むと物語がより楽しくなってきます。

◆「マイナスゼロ」広瀬正 〜タイムトラベル小説の古典的名作です〜
元々タイムトラベル小説は好きでした。きっかけは中学生か高校生の頃だったか、NKKの18時台に放映していた「なぞの転校生」「タイムトラベラー」「未来からの挑戦」などの少年ドラマシリーズです。もう夢中で見ました。本当に面白かった!
マイナスゼロは大学時代に友人から勧められて読んだタイムトラベル小説の名作です。広瀬正は惜しくも若くして亡くなりましたが、もっとたくさん名作を書いてくれたはずです。終わりのない矛盾を含んだ物語ですが、戦前の銀座が描かれていたり別な面でも楽しめる小説です。1945年東京空襲により自宅周辺を爆撃された浜田少年は、息絶えようとしている隣人の大学の先生から「18年後の今日、同じに日、同じ時間にここに来てほしい」と伝えられます。そして18年後に同じ場所に来て浜田(すでに30代の大人)が見たものは・・・・。


「遠い山なみの光」 〜カズオ・イシグロの生まれ故郷である長崎を舞台にした王立文学協会賞受賞作〜

初めてのカズオ・イシグロの作品でしたが、一気にのめり込むように読んでしまいました。イギリスの地方に住む日本人女性が、長女が自殺してしまうという現実の生活の中で、かつて住んでいた長崎で出会ったある女性とその幼子との思い出(生きるために必至でありながら、いつ壊れてもおかしくない女性の生き様)、義父や前夫との触れ合い(日本を支えてきたという古き観念から抜け出せない父親と、それを疎ましく思う息子)を思い出しながら、当時出会った人々との回想にこれまで歩んできた自分、そして今の自分を重ね合わせながら、語られていく小説です。会話の流れが日本人が書く日本の小説とは違っており、新鮮な感覚で読み進めることができました。次もまたこの作者の作品が読みたくなりました。


◆「等伯」安部龍太郎 〜第148回直木賞受賞の等伯の生涯を書いた作品〜

等伯のまさに魂の叫びのような作品の描き方が眼前に迫ってきます。特に最後に出てくる故郷である能登七尾の風景から描き出した「松林図屏風」を描き上げるシーンは圧巻です。妻や息子など先立たれた者たちに支えられた自分の人生とその心象風景、そして悟りをいざなう曼荼羅とが渾然一体となったこの絵は、等伯自身そのものであるとも言えます。戦国の武将たちが絵を見て言葉を失い、一体自分たちは今まで何をしてきたのか、と言わせるほどの迫力は、等伯の魂の作品であると共に、安部龍太郎の魂の作品とも言えるのではないでしょうか。



「竹中平蔵 市場と権力」佐々木実 〜規制改革を改革の一丁目一番地として進めた男〜

竹中氏といえば、慶應義塾の経済学教授というのが強い印象で、小泉内閣で財界から抜擢された岩盤規制を改革していく中心人物と思っていましたが、実は全然別の顔が実像であることが書かれています。残念ながら竹中氏への取材はできなかったようですが、今の日本の格差社会を見るにつけ著者の視点は十分に説得力のあるものです。非正規労働の門戸がどんどん広がり、その後リーマンショックのときに、日比谷公園に派遣村ができ失業者が身を寄せたニュースは忘れることはできません。しかし、今のコロナでも真っ先に弱い人たちから切られていく現実は何も変わっていない。すでに顕在していた格差を、あたかも無かったように捉え、1億平等社会の変革として進めていったひずみが今の日本社会のいたるところに出てきていることを、果たして竹中氏はどのような目で見ているのだろうか。


「何者」朝井リョウ 〜同じく第148回直木賞受賞の作品〜

SNS時代の人間が、心の中の露出をどのような手段で、どのような立ち位置で外に向けて行うのか、そしてそれを発信する当事者は何者であるのかを問いかけています。そして読者自身にも、自分は何者であるかを問いかけてくるような、作品だと思います。読者の中には、痛いところを突かれたような感覚が浮かび上がる作品ではないでしょうか。続編の「何様」もぜひ読んでみたいと思いました。

8月に読んだのは小説が多かったですが、面白そうなもの、懐かしいもの、お勧めの評価が高かったものなど、とりとめもなく手に取って読みました。時代物に偏らず、日本のものに偏らず、ジャンルに偏らず読書を続ける楽しみはそんな自由に好きなものを読むということであり、今後もそのスタンスで楽しんでいきたい、そう思っています。

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