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その推し活が過去になったとしても

私には過去に、アイドルを全力で推していた時期がある。中学生から高校生にかけて、NEWSの手越祐也くんにドハマりしていたのだ。

とはいえ過去と言い切るのには、少し違和感が残る。今はもう彼の活動を積極的に追ってはいないし、あえて知ろうともしていない。しかしネットニュースで彼の名前を見つけると、私の指は無意識に動き、吸い込まれるように手越の文字をタップしている。今はこんなことをしているんだな、少し大変そうなのかな、と勝手に身を案じてしまうのだ。
あえて知ろうとはしていないけれど、絶対に無視もできない。それほどに手越くんを推した出来事は、私の青春時代に密接に絡み合いながら存在し、今も少なからず影響を受け続けている。


ハマったきっかけは、同じ部活の友達二人がNEWSのファンだったからだ。一人は錦戸くんのファンで、もう一人は山下くんの熱狂的なファンだった。それまでほとんどアイドルには興味がなかったのだが、友達が休み時間や部活中にあまりにもアイドルの話ばかりするので、何気なく「これは誰?かっこいいね。」と言ったのが始まりだった。
友達は、手越くんの名前と基本的なプロフィールをすらすらと教えてくれた。それから、「私たちは錦戸くんと山下くんだから同担じゃないし、一緒に応援できるね!!」と言う。同じ人を応援していたら話もより合うし、嬉しいものじゃないの?と思ったのだが、違うらしかった。
ちょっとめんどくさそう、友達に合わす程度に応援すればいいかなと思っていた矢先、友達がCDやらDVDやらを何十枚も学校にもってきて、「かっこいいから!見て!」と押し付けてきた。

その中の1枚のライブDVDの終盤、舞台裏でさわやかに笑う手越くんを見た時だった。「えっ、待って……か、かわいい…!!」まだ中学生だったから少しおかしな話ではあるが、母性本能ともいえるような感情がふつふつと湧き上がってきたのだ。「これやばい!本当に好きになっちゃう…」と自覚しながらも、自ら情報を追い求め、私は沼にずぶずぶとはまっていった。


それからの2000年代の私の推し活は、こんな感じだった。

  • CD、DVD購入
    予約したら通常より1日~2日早く手に届くので、必ず予約して購入した。もちろん初回限定版と通常版の2枚買い。アルバムやDVDはさすがに1枚しか買えなかったが、友達は買っていた。毎年のカレンダーも購入。毎月ページをめくってはにやけた。

  • アイドル誌の購入
    明星、ポポロ、ウィンクアップ、ポテトというアイドル誌を毎月、友達と手分けして購入し、切り抜きを交換し合った。画像をパソコンに取り込み、「だいすきだよ」「俺から離れるなよ」などの文字とハートマークをマウスで書き込んで加工。(パソコンが得意な友達が作ってくれた)それを見てバカみたいにキュンキュンする。

  • テレビや動画を見あさる
    手越くんが出る番組はすべて録画する。(当時、キーワード検索で自動録画できる機能が普及し始めて、画期的だった。しかし「NEWS」というキーワードは普通のニュース番組も適応されるので少々困っていた。)朝の情報番組に少しでも番宣で出る場合も録画したし、出番が終わってもいつワイプに映るか分からないので、一応全部見た。

  • 夢小説で妄想爆発
    夢小説という言葉をご存知だろうか。好きなアイドルやグループが登場する簡単な小説みたいなものだ。サイトに名前を入力すると、名前変換で小説に反映されるので、まるで自分が物語の主人公になった気分で妄想にとことん没頭できるという代物だった。(ほとんどが恋愛系で、大体アイドルが自分を好きになってくれる笑)寝ても覚めてもその妄想の世界に浸り、友達と語り合っては悶えた。

  • ライブ参戦
    友達だけで初めて高速バスに乗り県外に行ってライブに参戦した。
    担当のアイドルに見てもらいたくて、ド派手なヘアアクセサリーをつけたり、ガチドレスを着ている人がいたり、完全に目がハートになっている人がいたりして初参戦の時は衝撃的だった。
    ライブが始まる時のさっと照明が落ち暗闇になり、ズーン…という低音が鳴り響きだした時の、体の芯から湧き上がるような非日常の興奮と、ぎゃあああああという女子たちの悲鳴。若さゆえか、あれほどの興奮はもう味わえないと思う。
    夜は購入した特大のポスターをベッドの上の天井にはって、うっとりしながら就寝。

私がNEWSを好きになったのは、メンバーの相次ぐ不祥事で一時活動休止していた時期で、活動が再開されると分かった時には、友達をまさに手を取り合い、ぐるぐる回りながら発狂した。


もう大分、引かれていると思うが、これは中高校生という多感な時期の出来事であったため致し方ない。
今現在、誰かを、何かを本気で推している大人は、社会では正常な人間であるかのように振舞っておきながら、裏では大体先ほどのように発狂しているに違いない。それが中高校生だったから、ちょっと制御が難しかっただけだ。

ちなみにその頃、手越くんは今みたいな金髪で自由奔放なチャラ男キャラではなかった。髪は暗めの茶色ストレートでどちらかというと一般的なさわやか王道イケメンだった。
まだ10代であどけなさも残っていたし、最年少のかわいい弟キャラといった感じだったのだ。そこからキャラを作ったのか、自分を解放していったのか、彼はちょっとおかしな方に向かうのだが、世間的にはそちらの方が受け入れられて、私はちょっと複雑な気持ちだった。

あの頃の私にとって、手越くんを応援することは、学校という狭い環境下での人間関係のほぼすべてだった。友達との話の8割がNEWSのことだったし、NEWS好きの新しい友達もできた。NEWSや手越くんのことを話していると自分でも自覚するほど分かりやすくテンションが上がって、周りがみえなくなった。後で冷静になると恥ずかしくなるくらいに。それでも好きなことを語り合うということの多幸感はすさまじく、夢中になって語り合った。


そして今思えば、たくさんの初めてのきっかけになっていた。
初めて友達だけで高速バスに乗って県外に出て、初めてライブに行った。初めてファンクラブに入ったし、初めてCDやDVDを予約した。すぐに削除したけど、ブログも初めて開設してみた。
手越くんを推すことで、狭かった自分の行動範囲や友人関係が広がり、新しい体験ができた。自分の生まれ育った市から離れたこともない中高生が、広い社会を覗き見るには十分だった。

手越くんを推していた時期は、「こんなに人生って楽しかったのか!」と本気で思っていた。兄弟姉妹の影響か、小学生の頃からアイドルにはまっていた友達の気持ちがようやく理解できた。こんなにも人を応援することが、ときめきと興奮を与えてくれるなんて!初めて感じる感情の高ぶりに夢中になっていた。

しかし永遠に続くかと思われたその興奮も自然に遠のいていった。何かきっかけがあったわけではないが、推すことが日常になって、強い刺激を感じられなくなったのかもしれない。高校3年生で、受験勉強や日々の繁忙さに追われていた時期でもあり、本当に徐々に自然に熱が冷めていった。

以来、誰かや何かにあれ以上に、はまり込みのめり込むことはない。
性格的にも何かをとことん追求するタイプではないし、新しいことに飛びつくミーハー心も持ち合わせていない。ハマる=時間やお金を使うことになるので、無意識にセーブしてしまっているのかもしれない。

だからこそあんなに全力で誰かを推す経験が、人生で一度でもできて幸せだった。あの中毒のような興奮や高揚感は、なかなか日常では感じることができない。若さもあったと思う。今の私はもう高校生の頃のような感情にはなれない。あの頃の自分が少しうらやましい。

過去の推し活。例えその人を推さなくなっても、全力で楽しんでいた自分を私は覚えている。こんな感傷に浸るほどに、何かを本気で推していた時期は、私にときめきと彩りを与えていた。

多感な時期に私の心を射止めた人、手越くん。素晴らしいときめきをありがとう。私の青春はあなたと共にあります。

今まさに何かを推している方がいれば、全力で楽しんでほしいと思う。何かにはまるというのは、しようと思ってできることではないから。推しとの出会いに感謝して、今の自分の感情の高ぶりに酔いしれよう。
昔のようにはいかないかもしれないが、30代の私なりの感情でやり方で、また何かを推すことが楽しみだ。

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