#6 【好きなようにしてください】
自分の好きなようにしよう
本書、「好きなようにしてください」は、著者である楠木建氏が、ニュース媒体News Picksにおいて、質問者の様々な相談に応じるという企画をまとめ書籍化したものだ。質問と答えが対になったものが合計42個、納められている。
この本の面白いところは、なんと言っても集まっている質問のリアリティと、それに対する筆者の回答だ。収められている質問は全て実際に一般の方から募集したものであるため、内容がリアル、「あー自分もおんなじことに悩んでるな」と共感するものも多い。
また質問に対する回答が全て「好きなようにしてください」であるのも読んでいて非常に面白い。こういった本は多くの場合、筆者が解決策に近いもの(それも割と手っ取り早いもの)を提示してめでたしめでたしというものが多いが、この本では一切そんなことにならず、自分で好きなようにしてください、でもこんな考えもありますよ、という一つの提案を軸に回答していく。
これを読んでいて感じたのは、我々が持っている悩みというのは突き詰めていくとあんまり大したことないものばかりであり、本来は悩みじゃないのに悩みだと思い込んでしまっている傾向があるということだ。
じゃあどうしてそう思うに至ったのかをここから解説していきたいと思う。
環境は大切か?
我々は環境というのが大好きだと思う。特に進学先選びや就職・転職先選びなど人生において大きな環境の変化が起こるときは特にそうだ。
いい環境に行けば成長できる、勉強ができるようになる、そんな期待を込めて環境を選んでいる人は多いだろう。
実際に中学受験をするときに保護者の方々が「私立は環境がいい」と言っているのを聞いたことがあるし、就職になると「自分が成長できる環境で」と言っている人もたくさんいる。
しかしこれらは本当に環境がもたらす要因なのだろうか?私はこの部分に関してかなりの疑問を持っていた。そのときにこの本の中で「ベンチャーか大企業か」という相談に対しての回答を見たのだが、その回答がまさに私が思っていたモヤモヤを解消してくれた。
この相談に対して、筆者は「仕事を選択するという以上、仕事の内実が基準になるべきで、環境要因や環境比較には対して意味はない」と答えていた。
つまり、環境選びは仕事に対して関係なく、本当に大切なのはどんな環境においてもお客さんに対して価値を届けることその一点が重要なのだ。
結局のところ、結果を残したり成長する人というのはどんな環境にいようが成長できる。東大生を何人も輩出する高校なども、高校がすごいのではなく東大に入るようなポテンシャルも高く、意欲もある学生がその学校に集まっているだけの話だ。
もちろん、環境によって何も変わらないというつもりもない。実際にその環境に行ったことで自らの意識が変わるという話はそれこそいくらでも聞いたことがある。ここで言いたいのは環境は無意味だと言いたいのではなくて、我々があまりにも過剰に環境というものに対して期待を抱きすぎているということだ。
自分が変わるかどうかの鍵を握っているのはあくまで環境ではなく、自分の行動や考え方だ。それを知っておかなければ、自らの結果や成長の責任を環境に転化して、延々と変わらない結末を辿ることになってしまうだろう。
長い目で見ておく
私が物事を考えるときに常に意識しているのが「時間軸の長さ」である。これは言い換えれば「長い目と短い目の両方でみる」ということなのだが、これから紹介するのはまさにこの話題だ。
相談の一つに、「大学での勉強の価値が感じられないというものがあった。高い学費を払って大学に行っているのに、何一つ自分の役に立っている気がしない、行くのは無駄だと感じているが、楠木先生はどう思うか?」という話があった。
この相談に対する回答の内容が、まさにこの「長い目で見る」ことの意味を表していた。そこで筆者が言っているのが、「もし辞めたければ辞めればいい。ただ、今役に立たないと思っていることも、後々になって役に立つということも往々にして起こるから、それは知っておいた方がいい」ということだ。
何がどんなことに役に立つか、効いてくるのかというのは事前に把握することはできない。だからこそ、「いつか役に立つかもしれない」ということを考えていくことが大切なのだ。その考え方があった上で、取捨選択して行けばいい。
この長い目がないと、後々役に立っていたはずのことを落としてしまう可能性が高くなる。目先の利益のみにとらわれていては長期的な利益は見込めないというのは経営学では常識である。経営学の名著と言われるクレイトン・クリステンセン著「イノベーションのジレンマ」はまさにこの「長い目」の重要性を教えてくれる。気になったらぜひ読んでみてほしい。
また、非常に印象深い言葉を著者が残していたので最後のそれを紹介しておこうと思う
やってみなきゃわからない
本書は、冒頭で示した通り、すべての回答で「好きなようにしてください」としか言わない。よくあるあーした方がいい、こうした方がいいと言った言葉は一切出てこない。
これだけを聞くと、相談してるのに無責任だという人もいるかもしれないが、これは決してそういうことではない。この「好きなようにしてください」主義の背後には「やってみなければわからない」という考えがある。
何事もやってみなければそれが失敗するか成功するかはわからない。だからこそ、迷ったなら好きな方に行く方がいい。この精神こそが「好きなようにしてください」という筆者の言葉の意味だ。
我々は失敗をしたくない生き物だ。できることならずっと人生うまくいってほしいと思っている。しかし、失敗と成功というのは結果論であり、さらに言えば何が失敗で何が成功なのかというのも言われてみるとよくわからない。
つまり、成功するか失敗するかということを気にするのは全く意味がない。なぜならばそれが本当にそうなるかはやってみるまでわからないからだ。どうせどっちとってもわからないのであれば、せめて今自分が好きだと思う方、うまく行くかもな、と思える方向に進んでいくのが上手い意思決定なのではないだろうか。
そして、もし自分が選んだ先でうまくいかなかったなら、そこでまた道を変えればいい。そうやって「試す」ことを続けていくことが生きていくことなのではないかと私は思う。
自分の悩みは本当に悩み?
この本を読んでつくづく実感させられたが、我々が悩みだと思っていることのほとんどは、基本的に悩みではなくて、単純に自分の考えが狭い場合であることが多いということだ。
我々人間は普段から些細な悩みをたくさん抱えて生きている。私ももちろん悩むことはあり、悩みそれ自体を否定するつもりは毛頭ない。しかし、よくよく考えれば悩むようなことでもないことに、自分のリソースを使って悩むのは非常に勿体無い。
ではどうすれば、自分の悩みを観察して、このことに気づけるのだろうか?
この時大切なのが、ある種の「実験精神」だと私は思う。自分が悩みだと思うことも含めて、一回試してみようと思える根拠のない勇気を持つことで、自分の悩みを多角的な目線から観察できるのではないだろうか。
そしてこの実験精神は「怖いもの見たさ」と言い換えることもできる。なんかどうなるかわからないし、なんなら失敗するかもしれないけどまあやってみよう!と楽観的に思えるようになれば、不安も好奇心に変えていろいろなことを楽しんでいける。
この考え方ができるようになれば、少なくとも悩みすぎるということにはならないのではないかと思う。
幸せに生きるには?
本書の相談を通してわかるのは、みんなより自分が幸せになるということに関しては同じように考えていることだ。それはとても素晴らしいことだと思う。
結局自分の幸せは自分でしか掴むことができない。誰かがポイっとくれればいいがそうもいかない。そして、この幸せを目指して生きていくには方法は一つしかない。
それは「好きなようにする」ことだ。環境とか、役に立つのかとか、うまくいくのかとか、そういうことは二の次にして、とりあえず自分がやりたいことをやっていく。
もちろん時には嫌いなことをやらなきゃいけなかったり、好きなことをやれない時もあると思う。それはしょうがない。言いたいことは「好きなことだけをやっていればいい」ということではなくて、自分に意思決定権があるときはまず第一に、「自分が好きなのかどうか?」という基準を持つことが大切だということだ。
そうすることで、結果的に周りとの比較や、身の回りのノイズを気にせずに生きていくこともできるようになるのではないだろうか。
この本は、読んだ人を自由にしてくれる、砕けて言えば、肩の力を抜いてくれる、そんな一冊だった。
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