#7 【スパークする思考】
力を抜いた考え方
「スパークする思考」。これがこの本のタイトルなのだが、一見すると凡庸な思考系の本だと思われるかもしれない。しかし、この本は明らかに普通の本とは一線を画している。
筆者の内田和成氏は外資系コンサルティングファームの雄と言えるボストンコンサルティンググループの日本代表を務めたコンサルタントで、その後早大のビジネススクールでの教鞭をとったのち、現在は個人で「内田塾」という私塾も開催しているなどビジネスを実践と理論の両面から研究・実践している。
著作も多数で「仮説思考」「論点思考」などはご存知の方も多いと思う。
そんなすごい方の本だから、どんな内容なんだと、勇足で読み始めると拍子抜けするのは間違いない。なぜならびっくりするほど「力が抜けている」のだ。ガチガチのメソッド系の本を期待している人からするとがっかりすらすると思う。しかし、読んでみるとこの「抜け感」が最高にいい。
情報と距離をとる
この本の軸となっているのは題名の通り思考をスパークさせる=アイデアを生み出すための考え方だ。
筆者はまず思考のスパークには、強い問題意識と知識のデータベースが必要だと述べている。そしてそのためには情報に触れるというのが必要不可欠だ。そこで情報を扱うための構えを提示している。
一つ目は「情報とは適度に距離をおけ」である。
これは近視眼的になるすぎるのを防ぐためだ。一つの情報に固執しすぎてしまうとそれ以上の広がりを失ってしまう。イノベーションという概念を生み出したのは経済学者のヨーゼフ・シュンペーターだが、彼の定義によると
と定義している。これはつまり、たくさんの情報の組み合わせパターンをいくつも試してみることが新しい価値を創造することにつながるということを示しており、これがアイデアの創出にとって重要なのはわかるだろう。
キョロキョロ
次は「キョロキョロすること」。つまり、常に常に情報をゲットできるように意識して目を配っておくということである。ふとした時に流れてきた情報を掴み、それを自分のものにできるのかは重要なことだ。
人の行動、街の様子、広告など生活には情報が溢れかえっている。しかし、我々は意識せずそれらの情報を流してしまっているが、実はそこにスパークの種が存在している。みんなが逃している情報を掴むことで、そのままアイデアの質が高まるのだ。
この考え方において重要なのは、「情報の量」を確保することである。勉強や仕事などさまざまなことにおいて「大切なのは量か質か」は問題になる。しかし私はこれに関してははっきりと量が大切だと言える。そもそもこの問題を考えるにあたって、我々は量という概念と、質という概念についてはっきりと理解していなければいけない。
量というのは簡単だ。ただ数が多ければいい。その中身は問われない。しかし、こと質という概念に関しては簡単にいかない。そもそも何が質のいいものなのかというのは相対的にわかるものであるため、ある程度の量がなければ質という概念について何もわからない。
よって、最初はとにかく量をこなすしか質を理解する道はないのだ。キョロキョロして得る情報というのは確かに玉石混交なものかもしれない。しかし、それを繰り返すことで初めて玉の情報がどれなのかがわかるようになり、質を追求できるようになるのだ。
とにかくゆるく頑張る
面白いのが、一般的な思考本はインプットした情報をいかにして管理するか、どう保存しておくかにフォーカスが当たる。「本を読んだらこうやって紙に書いておく」とか「ネット記事のURLをアプリに保存しておいて・・・」とかである。
しかしこの本はそこに関して全くと言っていいほど書かれていない。むしろ「大切なのは情報の扱い方ではなくて、頭の中にレ点を打つこと」と言っている。これと言って管理せずに頭の情報に目印を売っておく程度でいいということだ。
つまり、ガチガチに管理しようとせずにもっと緩くやろうぜ!と筆者は主張しているのである。情報の管理というのは確かに大切かもしれない。しかし、管理というのにはコストがかかる。本来は得た情報からアイデアを生み出すことが目的なのにいつの間にか「管理すること」が目的になってしまう場合もあるだろう。
ただこれをいうと「せっかく仕入れた情報を忘れてしまったらどうしよう」と思う人もいるはずだ。しかしここで筆者はこれに対して非常にさっぱりとした意見を述べている。それは問題意識を常に持っていれば、自ずと知識を蓄えて、ひらめきを得ることができるようになるというのだ。
結局忘れてしまうような情報というのは大した情報ではない。もし本当に重要な情報であるならば見た瞬間に強烈に頭の中に印象付けられる。現代の情報量は膨大である。その一つ一つをじっと見ていたらキリがないし、疲れる。ならば常に流れる情報をリラックスしながら見て、本当に気になった情報が出てきたときにそれを掴めばいい。
これを読んでいてこう言われているように私は感じた。
最後は楽しく
この本を通じて思ったのは、多分筆者はこの一冊に書かれていることをほとんど呼吸するのと同じように、自然に行っている。そもそも意識して情報を得ようとかそんなことは一切していない。
結局、これが本質なのだと思う。意識しているうちはまだ半人前。努力して、意識してこれを実行しているうちはまだまだ筆者のような物凄いスパークを起こせる人間になることはできない。
そして、どうして自然にできるのかといえばそれは間違いなく筆者自身がこの一連のプロセスを楽しんでやっているからだろう。要するに好きなのだ。「仕事のため」とか「キャリアのため」などの目的意識ではなくて、純粋にそのプロセスを楽しめるものにしたからこそ、あれだけの結果を残すことができたのだろうと思う。
ここから言えることは、「どうすれば自分が1番楽しめる形で行えるか?」を自分で考えること、これが結果を出すために最も重要だと言うことだ。
特にこういった思考系の本あるあるだが、読んだ本の内容をそのまま実行しようとする人が多い。しかし私はそれは1番良くない方法だと思う。筆者とあなたは違う。根本的な価値観も得意なことも全て違う。にもかかわらず相手の考え方をそのまま使ったところで上手くいくはずがない。
大切なのは「ここは使える」と思ったところは使って、「ここは合わない」と思った部分を切り捨てる勇気、考える力ではないだろうか。
そうやって少しずつ自分だけのやり方ができていくプロセスは時間もかかるし、きつい時もあると思う。そんな時は「力を抜け」ばいい。実際筆者も考える時に大切なのは「いい加減で無理をしないこと」と言っているくらいだ。
じゃ、皆さんも一緒に「楽しんで」「力を抜いて」たくさん考えていきましょう。
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