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アートディレクターに教わる写真撮影 〜 Vol.2 自宅で物撮り(一眼レフカメラ&黒背景編)

こんにちは、シフトブレイン広報の坂です。

シフトブレインは、ブランディングとデジタル領域のクリエイティブを強みとする制作会社です。社内には、多様な強みを持ったクリエイターが在籍しています。

アートディレクターに教わる写真撮影 〜 Vol.1 自宅で物撮り(iPhone編)の公開から期間が空いてしまいましたが、Vol.2では自宅で物撮りする場合の「一眼レフカメラ&黒背景編」をお送りします。

今回はシフトブレインの社内プロジェクト『中間文集』のモチーフの撮影方法をベースにご紹介していきます。

▼『中間文集』とは?
『中間文集』はシフトブレインのスタッフひとりひとりに、これまでの人生について深く考えてもらうきっかけをつくるプロジェクトです。
シフトブレイン15周年から5年以上続いている『中間文集』は、新しいスタッフが入社する度に本人が選んだモチーフのビジュアル化が行われます。

『中間文集』プロジェクトについて詳しく知りたい方は、下記noteをご覧ください!

本記事では前回に引き続き、『中間文集』のモチーフ撮影を担当しているアートディレクターの藤吉さんに撮影方法を教えてもらいます。

藤吉 匡(CDO / Art Director / Designer)
制作実績:みさとと。, Starbucks Coffee, Toyota Dream Car

藤吉さんは『中間文集』の他にも、サイドプロジェクトで「SOCIUS(ソキウス)」というエナジーバーブランドを作っています。プライベートでは作家活動もされていて、活動の幅がとても広いアートディレクターです。


テーマ:黒背景で物撮り

今回のテーマも「自宅で物撮り」ですが、前回と異なるのは黒い背景と一眼レフカメラで撮影を行う点です。

題材となる『中間文集』のモチーフは、“宇宙空間に浮遊している”という設定で絵作りが行われているため、全て黒背景で撮影しています。

藤吉さんはこれまで『中間文集』で、風船や本棚、座布団など様々なモチーフを撮影してきました。
以前はオフィスのスタジオで撮影をしていましたが、フルリモート体制となった現在は自宅で撮影を行うようになったそうです。どのように撮影しているのか気になりますね。さっそく『中間文集』モチーフの撮影方法を紹介してもらいましょう!



Step0 - 撮影対象のセッティング

前回に引き続き、藤吉です。今回はシフトブレインの社内プロジェクト『中間文集』のモチーフを自宅で撮影していきます。
今回、撮影するのは8個(8人分)のモチーフです。みなさんも黒背景で撮影したいモチーフを考えながら、読み進めてくださいね。

『中間文集』のため、スタッフそれぞれが選んだモチーフたち
(左上から)カレーライス、サッカーボール 、バスケットボール
ファイヤースターター、木炭、ノート、地図、MIDIキーボード

ここから、カレーライスとファイヤースターター、地図の3点にはアイテム自体に手を加えます。
ファイヤースターターは新品の状態だと黒背景に溶け込んでしまうので、実際に少し使用して塗装が剥がれた状態にしました。また、カレーライスはカレー自体を作る必要があります。地図に関しては、少し使い込んだような古びた風合いを出したかったので、紅茶染めの加工を行いました。

「地図」は概念として選ばれたモチーフのため、ファンタジー世界の地図を用意しました

✍️Step0 ポイント
・撮影前の下ごしらえをする
・『中間文集』の場合はモチーフに込めた意図に沿って適宜加工を行う

Step1 - 撮影道具の準備とセッティング

次に使用する機材や道具を紹介します。撮影機材と背景用の道具以外は、補助として使用するため必ずしも同じものを用意する必要はありません。身の回りで代用できるものがあれば、それでOKです。

▼ 必要なもの
・一眼レフカメラ
・黒い布(背景用)

▼ 補助機材として使うもの ※必須ではありません
・三脚
・iPhone(小さなスポットライト代わりに使用)
・ガムテープ
・黒いカッターマット(黒い板や黒紙でも可)
・ひっつき虫
・厚紙
・ハサミ

『中間文集』は、基本的に布背景で撮影しています。布であれば省スペースで保管できるので、自宅での撮影に最適ですし、シワになりにくい布を選ぶと管理も楽になります。我が家では最初は畳んで保存していましたが、毎回のアイロンがけが大変だったので、最近は画像のように筒に巻いて保管しています。

その他、一般的な撮影機材以外のガムテープやひっつき虫、厚紙、ハサミは、モチーフの固定に使う小道具です。『中間文集』ではモチーフが空間に浮いているように見せるために、ちょっと角度をつけたり、一定の角度で固定したい時に組み合わせて使います。厚紙は消耗品で切ったり曲げたりするので、写真ではかなり小さくなってしまっていますね(笑)。

次は撮影環境のセッティングについてです。
下記の図を参考にしてください。

次に、撮影の際に重要な「光」について。
光は基本、シンプルに作ると良いと思います。

メインの光を1つ(サブの光は反射光で)、これだけです。

メイン光は、外部ストロボやスポットライトでもOKですが、今回はレースカーテン越しの太陽光をメイン光としました。窓がたくさんある部屋の場合は、どこか1つの窓の近くで撮影するとシンプルな光を作りやすいはず。

サブの光は、モチーフの影側をコントロールします。例えば部屋が光で溢れていて、影側をもっと暗くしたいなら黒い布や紙、板を近づけます。反射光をカットし、黒を被写体に映り込ませるイメージです。
反対に影側が暗すぎる場合は白い板を近づけ、そこで生まれる反射光で明るくする方法が一般的です。

もう一つ、長期運用するプロジェクトの注意点として、撮影環境、特に光の状況を再現できる様にしておくことをお勧めします。撮影した状況をスマホ等で写真に撮っておいたり、メモを取っておきましょう。
撮影環境を重要視することで、完成写真のトーンが美しく整うだけでなく、撮影前のセッティングや撮影後のレタッチなど作業全般が楽になります。

✍️Step1 ポイント
・光はメイン光を1つ。まずはシンプルに
・太陽光で撮影した場合は、撮影した時間帯を記録しておき、後日再現できるようにする

Step2 - モチーフ撮影

『中間文集』モチーフは黒背景の中で浮いているように見せるため、高低差をつけたり斜めに固定したりします。Step-1でも説明しましたが、この時に使用する道具は身近にあるものでかまいません。

撮影の際には、固定している道具がなるべく見えないように写しましょう。多少見えていても最後にレタッチで消せるので、気にしすぎなくてもOKです。

今回は自然光を利用。
画像の状態で三脚を立て、真俯瞰でバスケットボールを撮影します

せっかくなので、過去にiPhoneをスポットライト代わりに利用して撮影したモチーフもご紹介します。
小さいサイズや明るい色のモチーフは黒背景の場合、どうしても全体が柔らかく写ってしまいがちです。そうなると『中間文集』の世界観からは少し離れてしまうので、そんな時は一方から光を当ててしっかり影を作ると、硬めの仕上がりに撮ることができます。

どちらも夜、iPhoneのライトだけで撮影しました

✍️Step2 ポイント
・モチーフ単品と全体の絵作りの両方を考える
・ライトやライトの当て方はモチーフに合わせて柔軟に変える

📚『中間文集』モチーフ こぼれ話①

Vol.1ではモチーフ撮影の際に「よく観察し、計画を立てる」ことをポイントとしてご紹介しましたが、『中間文集』に関してはそういった“撮影者のまなざし”は意図的に入れていません。もちろんそういった視点が全くないわけではありませんが、長期にわたるプロジェクトのため、今後自分以外の人が担当する場合も想定し、同じような絵を撮れるようにするためです。

一方、『中間文集』の撮影で意識していることが2つあります。
1つは「モチーフが浮遊しているように見せる」こと。撮影角度は選び放題ですが、モチーフ自体がその物として見える角度を探ります。最低限、ノートがノートとして見えるように意識して撮影しています。
もう1つは、「スタッフがモチーフを選んだ理由を教えてもらった上で撮影をすること」です。モチーフ自体は撮影用に新しく手配することもありますが、スタッフから実際に使っているモチーフを借りる場合もあります。
例えば、今回撮影したバスケットボールの選定理由は、これまで続けてきたバスケの話に通じていたので、本人の使い込んだボールを送ってもらいました。このようにスタッフとモチーフの関わりやストーリーがある場合には、積極的に撮影にも取り入れるようにしています。

目を凝らすとうっすらイニシャルが見える、使い込まれたバスケットボール

また、『中間文集』は物撮り写真を単品で使用するほかに、これまでのモチーフを集合させた画像も作ります。そのため、1つだけを極端にアップするような撮り方はしていません。基本的に中望遠レンズのようなイメージで、少し離れた場所から撮影をしています。

Step3 - レタッチ

今回は一眼レフカメラを使用しているので、RAWデータの形式で撮影しました。こだわる場合は、RAWデータから絵作りすることをおすすめします。RAWデータは現像する必要があるのですが、デザイナーにはAdobeのLightroomが1番身近な現像ソフトになりますね。

Lightroomで現像した後、ゴミ取りなどの画像加工は基本的にPhotoshopで行います。『中間文集』の場合はモチーフを概念としての「物」に例えているので、現実的すぎる企業名やロゴ等は消してしまいます。とはいえ、モチーフを見る際に意識を邪魔しないものであれば、なるべくそのまま残したいので、全てを消すわけではありません。

ノートはそのまま、キーボードは機能として印刷されている文字のみを残しています

他にも撮影環境の映り込みがあれば消していきます。例えば、エナメルのサッカーボールやカレーライスのお皿には反射で現実的なものが映り込んでしまいがちです。こちらも全てを消してツルツルに仕上げる必要はないのですが、不自然にならない程度に加工を加えます。細かいところではありますが、このタイミングで目立つ埃や指紋などもゴミ取りパッチツールやスタンプツールを使って消していきましょう。

最後の仕上げは、トーンカーブと彩度の調整。過去に撮影したモチーフと並べた時にも馴染むよう、全体に合わせて調整を行うこともあります。

写真としての加工はここまで。
『中間文集』は、モチーフが選定された理由をもとにプランナーがコピーもあわせて考えているので、最後にコピーの作字を行っています。このコピーを重ねて、モチーフ画像の完成です。

✍️Step3 ポイント
・加工を加えすぎることで、逆に不自然にならないように注意する
・加工も、単体だけでなく他のモチーフを集合させた場合に自然に見えるように調整する

📚 『中間文集』モチーフ こぼれ話②

ここまで説明した以外の『中間文集』ならではの加工ポイントをご紹介すると、彩度、ハイライト、シャドウの3点になります。

彩度はそのモチーフ自体の色だけになるよう調整しています。例えばサッカーボール。エナメル質で映り込みが多いですが、映り込むものによって色味が変わってしまうので、白色と黒色以外の彩度を抑えています。

ハイライトに関しては、最後に白い文字(コピー)を載せる都合上、ワントーン落とします。逆に、シャドウは1番暗い部分から一段階上げています。『中間文集』の世界観として意識している「宇宙空間」は真っ黒なはずなんですけど、少し明るくした方が宇宙っぽく見えるんですよね。 1番最初の撮影で「こっちのほうが宇宙っぽい!」となってからは、この調整は毎回加えています。 いずれもトーンカーブでの調整です。

補足:オススメ機材&道具

ここからは、Step1で紹介した機材について「もっと詳しく知りたい!」という方のために、今回の撮影で使用した機材や道具を紹介します。

▼ カメラ&レンズ

・SONY α7R II
・CONTAX Makro-Planar T*60mm F2.8
・K&F CONCEPT コンタックスC/Y-NEX Eマウントアダプター

▼ 三脚

・NEEWER 184cm ボールヘッド水平三脚

三脚のウエイトがわりに使っている「ビニール袋&ペットボトルシステム」
身近なもので一工夫しています

▼カッターマット

撮影に利用した背景用の黒カッターマットは、前回の記事で登場した白背景用の白カッターマットの色違いです。どちらのカッターマットも裏側を背景として使っています。裏側はすごくマットな質感なので、撮影で重宝しています。自分は白と黒の両方を持っていて、普段は表面を普通のカッターマットとして使います。サイズも豊富でカスタムもできるので、気になった方は是非使ってみてください!

The Cutting Mat A1(MIWAX)
GOOD DESIGN賞ベスト100を受賞したカッティングマット。MIWAX The Cuttingatは確かな機能性はもちろんのこと、クリエイターがこだわる空間にも違和感なくなじむ審美性を併せ持った、長年に渡って愛されるカッティングマットの定番品を目指し開発されました。
1cm間隔で配置された小さなドット(5cm間隔では線状のドット)は、コントラストを抑えたグレーでプリントされています。必要最低限の方眼罫のため、空間にマッチするデザインです。

以上、藤吉でした!



おわりに

今回は黒背景&一眼レフカメラを使って、自宅で物撮りする方法をシフトブレインの社内プロジェクト『中間文集』の撮影と共にご紹介しました!

自宅でも一定のスペースと自然光があれば、世界観を感じさせる物撮りができることに驚きました。背景用にちょっと特殊な生地を使用したり、カッティングボードの裏面を利用するなど、藤吉さんが工夫されているアイデアも是非試してみてください。

本企画は不定期更新ではありますが、次回の記事もお楽しみに!
(もし取り上げてほしいテーマがあったら、コメントで教えてください😊)


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