僕たちのグループに加わった彼女はとてもモテる存在だった ルックスはもちろん、明るい性格でノリも良く、 そして少し品があった バーベキューやドライブ、二十歳を過ぎてまもない頃、まだまだ青春と言える時だった 友人2人が彼女を取り合って掴み合いのケンカをしたと言うのは、遠く離れた東京で耳にする 結局彼女は2人と付き合うことはなく、その後大阪で遊ぶ時には彼女と友人2人が一緒になることは無かった ミレニアムという言葉がそこかしこで聞かれはじめた年、恋人同士で迎える20世紀の終わり
開放された小学校のプールで見上げた空 部活帰りの下り坂で目の前に広がった空 気になる女子の向こう側にあった窓越しの空 照りつける太陽の下のグラウンド 土埃にまみれて倒れ込んだ時の空 ひたすら高速道路を走る左側にずっと流れ続けた空 スーツ姿で恨めしく睨む空 これまでの空 これからの空 ぜんぶ 私の夏
何年も何十年も繰り返して見てる景色 数も場所も大きさも 見ている気持ちや環境も 並んでいる人も 少しずつ違ったり、同じだったり 変わってたり 変わってなかったり もう無くなってたり… でも、 桜を見る、というコトだけは変わってない 必ず咲いて 必ず散る そして必ず見ている これまでも、これからも
職場の人の一部では、子供の卒業式のため有給休暇を取ると言う人がちらほら。 かく言う自分も、息子の小学校卒業式のために休みをもらっている。 自分の小学校の卒業式には母が来ていた。 父は来ていない。入学式もそうだった。 特に寂しいとか疑問とか持たなかったけど、 そもそもそんなところに来そうな父親ではなかったと思う。 勤務先の学校では同じように、卒業式や入学式があるわけだし。 教職という仕事のためだったのか そもそもそのような場に行くのが苦手だったのか 聞けないわけではないけ
付き合いの長い友人達と昔話をしていても 細かく覚えていないことが多い。 皆、良く細かい事まで覚えてるもんだなと 感心する。 歳を重ねるほど、出来事の記憶よりも 感情の記憶の方がはっきりとよみがえる そして、 過去の感情なのに どうしてこんなに 心を揺さぶられるのだろうか まだ過去にできていない? まだ過去に生きている? あの頃に戻れて、やり直す事ができたら 過去にできて、過去に生きる事もなくなるのに でも、多分 いくつかの想い出は無くなってしまう そんな気がする
第二ボタンを欲しいと言った 学習塾で一緒だった他校の子 塾の納会で渡すつもりだったが 彼女の姿はそこに無かった 話を知っている彼女の友人に ボタンを預けた どこかで会えたらいいな、と 秋の空を見るたびに思っていた 肌寒さを感じ始めた秋の教室で 俯きながら頼まれたボタン 手元になくても 心にとめられているボタン はずさないのか、はずせないのか 自分でもわからないけど、 長いことそのままになっている
「で、どうすんの?就職」 乾杯の後に浩之は前置きもなく、尋ねてきた。 明らかに着慣れていないスーツ姿だが、中身はやはり変わってない。 4月に入ってからは似たような連中を駅や街に多く見かける。浩之はその中でもダントツで、、、スーツが似合わない。 「さすがにまた公務員試験受けるなんて、親には言えんわ」 ラフな服装の俺は、自嘲気味に答えた。 居酒屋の騒がしさが少しだけありがたかった。 大学四年の時、 公務員試験は落ちるわ、 彼女にフラれるわ、 留年決まるわ、 自業自得にも関
年を取り、家族が増えて 涙もろくなってきた ドラマでも映画でも ふとした日常でも 若い頃は、感動とか ジーンとくるとか そんな感情だけで 涙がにじむなんてこと、そうそう無かった 今目にしたものや感じたことが これまで過ごした日々で目にしたことや感じたことと 重なる事が増えた 涙もろくなった今を嫌いなわけではないけど 涙とは少し距離を置けていたあの頃が 少し懐かしく、わずかに羨ましくもある
15の春 彼女は他校の人だった。 背が高く、大人っぽいキレイな子 高校受験の年、とは言えまだ実感の少ない中 学習塾の休憩や終わりに友人達と共に話すようになった 君が『授業中、指が綺麗だなって思ってたんだ』と言ってくれた僕の手 受験が現実的に見えてきた秋 最初で最後のデートで繋いだ2人の手 白くて、細くて、少しだけ冷たかった君の手 共に進学した高校の体育祭 一言も喋らず、ダンスで少しだけ触れた手 君と手を繋ぎ続けることができなかったことに 後悔は…ある。 でも、今
仕事で何度か訪れた町だった。 静かにゆっくりと時間が流れる そんな印象が残っている。 それから長い年月が過ぎたその時は 名古屋で知った。 確か、車の中が揺れたと思う。 その後かなり経ってから… 福島で高速を走る助手席から 家も店もそのままあるのに、 人の気配が全くない町を見た。 出張で立ち寄った宮城の海のそばで 公園に立つモニュメントを見上げた 津波の位置。 離れた土地に住んでいる人間でも、 まだ続いていると思わざるをえない 3月11日
肌を切るような白い風に首をすくめる。 幼い頃から今まで、幾度も過ぎた季節。 田舎道を走る 駅から向かう 居酒屋から踏み出す いくつになっても、どこへ行っても …冷たいキズが増えても 変わらない 季節の体感 春はまだ見えない先にある
二十歳の朝、テレビで燃える街を見た。 住んでいるところからは離れていたけれど 何度か行ったあの街が燃えていた。 家も道路も線路も全てが 形を変えたどころではなかった。 なんとか戻ってきたもの、 まだ戻らないもの、 もう戻らないもの 色々な想いの明かりが あの街に灯る。
昔は大晦日は特別で、遅くまで起きていても特に怒られなかった。 自転車で、バイクで、お寺へ、神社へ 特別な夜を友人達と過ごした。 偶然会った女子はいつもと違って見えて、 特に仲良くない男子とも話したりして、 寒さも怖さもなく、ひたすらドキドキ楽しかった。 クリスマスとは違った特別な夜。
久しぶりに歩く街 イルミネーションの下、少し冷たい風に当たりながら歩く仕事終わりの人の中 都会に憧れていたはずなのに 街の景色を見ても あの頃のような気持ちにはもうならない さっきまでの仕事と、明日からの仕事 切れ目なく続く日々の中で、あの頃の気持ちを 落としてしまったのかもしれない。
お洒落なショッピングモール 眩しくさえ感じる若者たちや 思わずほほ笑んでしまいそうな家族連れ そんな華やかさの向かいにある大きな駐車場 かつてここは、若者たちが身体とプライドをぶつけ合っていた場所だった 眩しさではなく、汗と土埃に細めた目 微笑みではなく、はち切れんばかりの笑顔か悔し涙の顔 大きな舞台ではなく、小さな劇場みたいなものだったと思う。 有名な俳優ではなく、マイナーな劇団員みたいなものだったとも思う。 それでも、這い上がるという目標を持ち 鎧を着た仲間たちと
出会った時はまだ10代半ば 誕生日が2日違い それだけのことでお互い意識してしまうほど 若かった 夜の電話と手を繋いだこと 思い出はそれだけ 長い年月が過ぎ、 私の妻になった人は偶然にも同じ名前だった あなたの息子の誕生日は私と同じ日だった 母の怪我で突然帰った地元の病院で、10数年ぶりに会った 縁はあったかもしれない 縁はなかったかもしれない