けんかをやめて
僕たちのグループに加わった彼女はとてもモテる存在だった
ルックスはもちろん、明るい性格でノリも良く、
そして少し品があった
バーベキューやドライブ、二十歳を過ぎてまもない頃、まだまだ青春と言える時だった
友人2人が彼女を取り合って掴み合いのケンカをしたと言うのは、遠く離れた東京で耳にする
結局彼女は2人と付き合うことはなく、その後大阪で遊ぶ時には彼女と友人2人が一緒になることは無かった
ミレニアムという言葉がそこかしこで聞かれはじめた年、恋人同士で迎える20世紀の終わりと21世紀の始まりみたいなものが情報番組に溢れていた
電話でそんな話をして、お互い独りのミレニアムと苦笑いをした
「周りは盛り上がってて、さみしいわ」と僕の自嘲混じりの言葉の後、彼女はこう言った。
「私もそうやわ……お互い、ちょっと見栄張ってみる??」
2週間後、大阪に帰った時に彼女と百貨店で指輪を買った。元は一つだが、二つに分かれる指輪
一応お互いのサイズを合わせて
彼女は半分出すと言ったが、断った
男としての意地と
少なからずあった彼女への好意
にこやかに笑う彼女と別れ、そのまま僕は新大阪へ向かい東京へ戻った
普段指輪なんてしない僕の右手に気づいた会社の先輩たちからはアレコレ聞かれたが、適当に誤魔化した
数年後彼女は結婚し、大阪よりももっと西へ行ったことは年賀状で知る
2人の『見栄』を知るのは2人だけ、だと思う
僕の友人達も、彼女の友人達もたぶん知らない
もし2人以外で知っていとしたら
僕の手元にはもうない指輪と
彼女の手元にもないであろう
2つの指輪だけ
恋愛とは呼べない出来事だが
良い想い出として
心のケースには残してある