疑心暗鬼を具現化した極上のサスペンススリラー!結局、不安に駆られた人間が一番怖いのか…それとも悪夢が怖いのか…「イット・カムズ・アット・ナイト」【ホラー映画を毎日観るナレーター】(755日目)
【ホラー映画を毎日観るナレーター】(755日目)
「イット・カムズ・アット・ナイト」(2017)
トレイ•エドワード•シュルツ監督
◆あらすじ
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夜やってくる“それ”の感染から逃れるため、森の奥でひっそりと暮らすポール一家。そこにウィルと名乗る男とその家族が助けを求めてやって来る。ポールは“それ”の侵入を防ぐため「夜入口の赤いドアは常にロックする」というこの家のルールに従うことを条件に彼らを受け入れる。うまく回り始めたかに思えた共同生活だったが、ある夜、赤いドアが開いていたことが発覚。誰かが感染したことを疑うも、今度はポール一家の犬が何者かによる外傷を負って発見され、さらにはある人物の不可解な発言…外から迫る、姿が見えない外部の恐怖に耐え続け、家の中には相互不信と狂気が渦巻く。彼らを追い詰める“それ”とは一体・・・。(Filmarksより引用)
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『謎のウイルスの感染に怯え、山奥でひっそりと暮らす主人公一家。そこへ一組の家族が助けを求めて転がり込んで来る。最初は上手くいっていた共同生活。しかしあることがきっかけで彼らの仮初めの平穏は一気に崩れ落ちてゆく』という内容のサスペンススリラーなんですけども、これはちょっとヤバいですね。
いわゆる怪物や霊が登場するタイプの作品ではなく、いわゆる誰しもが抱く不安や疑心暗鬼になった人間の負の感情を具現化したものが襲ってくるかのような感覚で非常に新鮮な恐怖を覚えました。結局のところ、追い込まれて余裕が無くなり、判断力が鈍った人間が取る行動こそが一番怖いのかもしれませんし、それすらをも凌駕する見えない恐怖が潜んでいるようでもあり、二重三重に怖かったです。
クライマックスも色んな捉え方が出来るため、各々の正解があるパターンの作品だと思います。個人的にはこういう想像する余白が残された作品が大好きなのでめちゃくちゃハマりました。面白かったです。
謎のウイルスが蔓延している世界が舞台となっているんですけども、物語の冒頭で『感染者である義父を感染防止のためにまだ息があるにも関わらず射殺し、家の近くで燃やす』という衝撃的かつ静かな滑り出しに心を掴まれました。
しかもその一連の過程を主人公のポールと妻のサラだけで済ませればいいものを、全て息子•トラヴィスの目の前でやっていることに非常に恐怖を感じました。“祖父との最後の別れを”という気持ちで立ち会わせたのかもしれませんが、結果的にはそれでトラヴィスは心に傷を負い、悪夢を見るようになってしまいます。
“たとえ身内であろうと感染したらこうしなければならない”という教育や指導とも取れますが、これがラストシーンにおいて痛烈な皮肉になっており、最後の最後まで救いのない鬱々とした展開となっています。
また『未知のウイルスに対する不安』を題材にしている今作は2017年に公開され、批評家からは軒並み高評価だったものの、観客からの評判は今ひとつだったそうです。制作費240万ドルに対して興行収入は1900万ドル越えとまずまずの結果ではありましたが予想をかなり下回ってしまったそうです。
ですがその公開からおよそ3年後に世界中で猛威を振るった新型コロナウィルスに対する人々の対応と今作における未知のウイルスに対するポール一家らの対応には非常に近しいものが感じられました。
対応策が確立されておらず、不安に駆られた人々はマスクや除菌スプレー等を買い占め、くしゃみや咳をする人を睨みつけたり時には罵声を浴びせ、時間外に営業していないかを取り締まる過激な自警団まで現れる始末。
今作の主人公であるポールは家族を守るという使命感に駆られ、人里離れた場所に移り住み、徹底的に遺物を除去するために時には過激な手段を取ります。
どちらの状況も心に余裕が無くなり考える力が鈍る中で“親しい人たちを守らなければ”という使命に突き動かされた結果なのかもしれません。
だからもしこの作品が2020年以降に公開されていたらもっと話題になっていたかもしれません。未来を予言しているかのような内容ではありますが、もしかしたらちょっと公開するのが早すぎたのかもしれません。
そんな時代を先取りしている今作の監督•脚本•共同編集を務めたトレイ•エドワード•シュルツ氏は幼少期より映画製作に興味を持っており、一度はビジネススクールに入学するも、卒業後には「天国の日々」(’78)や「ツリー・オブ・ライフ」(’11)等で有名なテレンス・マリック監督に師事し、撮影アシスタントとしてキャリアをスタートします。
その後、2014年に短編映画として発表した「クリシャ」が映画祭等でも評価され、その翌年に同作を長編映画として発表し、商業映画監督デビューを果たします。
そして今作を経て2019年に発表した青春ヒューマン映画「WAVES/ウェイブス」は世界中で評価されており、次回作も非常に注目されております。
なお、今作は今最も勢いがあると言っても過言ではないインディペンデント系のエンターテイメント企業•A24製作の作品で、中でもホラーやサスペンス映画に定評があるため、今作のテイスト的にも間違いない組み合わせだと思います。
そんな今作は現在アマゾンプライム、U-NEXTにて配信中です。凄く良い作品なんですけど、大分鬱々としているので心が元気な時に見たほうがいいかもです。
◇未知のウイルスが蔓延した世界。ポールは妻と息子を守るために人里離れた山奥に移り住み、ひっそりと生活を送っていた。そんなある日、ポールたちは物資を求めて侵入してきた男•ウィルを取り押さえる。彼もまた家族を守るために命がけで水を探しており、ポール家を空き家と思って入ってしまったという。交換条件として十分な食料を提示されたことで、ポールたちはウィル一家を受け入れることになり、二組の家族の共同生活が始まった。最初は良好だった両者の関係も、いつ終わるのかも分からない不安や恐怖、そして決定打となるある出来事がきっかけで一気に崩壊していく。
というのが今作の細かめのあらすじです。
ストーリーや構成自体は非常にシンプルで、『感染リスクを避けるために人里離れた場所で暮らしていた主人公一家が異物(部外者)を受け入れたことで全てが崩壊する』という、これまた何かのメタファーにも思えてくる内容になっています。
ここにタイトルにもなっている『夜になるとやってくる何か』、そしてそれに対する防衛策として『入り口である赤い扉は夜の間は絶対に開けてはいけない』というポールが取り決めたルール、さらには『祖父の死を目の前で見たことで悪夢を見るようになった息子•トラヴィスの存在』が上手いこと絡んできます。
※ここから先はがっつりネタバレパートに入りますのでお気をつけください!
助けを求めてきたウィル一家もみんな良い人たちで、奥さんのキムも若くて美人、幼い息子のアンドリューも可愛らしく、ポール一家ともすぐに打ち解けます。
なんですけどもウィルとキムは毎晩のように皆が寝静まった後に性行為に耽ったり、ポールとウィルがサシで会話をしている時にウィルの身の上話が前聞いたのとなんか違うぞと微妙な空気になったり、少しずつウィル一家に対する違和感みたいなものが表面化していきます。
そもそも未知のウイルスが蔓延しているこの世界が今後どうなっていくのかも分からず不安に苛まれているわけですし、そこへトドメを刺すかのように深夜に赤い扉が開いていたのをトラヴィスが発見します。「幼いアンドリューが寝ぼけて開けたんじゃないか?」、「でも身長的に届かないよ」など犯人探しが始まり、また森の中で何かを追いかけて行方不明となったポール家の愛犬が死んだ状態で屋内で発見されており、何者かに襲われた大きな傷もあったことから、いよいよ両家族が互いのことを信じられなくなります。
「犬が感染しているかもだし、感染経路が分かるまでは会うのやめよう」と最もらしい理由を付けて、接触を避ける両者ですが、ここでトラヴィスが「アンドリューが感染しているかもしれないこと、そして彼らがここを出ていこうとしている」ことを盗み聞きしたことで自体は思わぬ展開へと向かいます。
ポールに問い詰められたウィルは逆に銃で威嚇し、物資を奪って強引に出ていこうとします。キムはアンドリューを隠すように抱き抱えており、感染しているのかどうかも定かではありません。ここで双方揉み合いのすえに最終的にウィル一家は全員死亡。再びポール一家のみの生活へとなりますが、トラヴィスに感染の症状が現れてしまいます。
本来であれば義父同様に殺して燃やさなければなりませんが、ポールたちはトラヴィスを最後まで看取り、その後は2人でテーブルを囲み、何も語らず俯いているシーンで物語は幕を閉じます。
こうして流れを書いてみると、謎を大分残したまま終わっているなという風に思います。
タイトルにもなっている『夜にやって来る“それ”』とは何なのか、夜になったら開けてはいけない赤い扉(出入り口)を開けたのは誰なのか、愛犬は何を追って森に消えていき、そして誰に殺されたのか等など
明かされていない部分が多々あります。
そのままシンプルに夜にやって来る“それ”を未知のウイルスとして捉えることももちろん出来ます。感染防止として侵入者を防ぐために夜の間は絶対に扉を開けてはいけないし、愛犬はもしかしたらまったく別の誰かに致命傷を負わされた等とも考えられます。
ここからは完全に私の憶測なんですけども、もしかしたら作中で起きた事は全て、あるいは一部はトラヴィスの見た悪夢であり、現実の出来事ではなかったのではないでしょうか。祖父の死に立ち会ったことで心を病んだトラヴィスはその以降のどこかのタイミングでウイルスに感染し、トラウマによる悪夢と現実がぐちゃぐちゃになっているように思いました。
夜にやって来る“それ”は具体的な怪物や霊ではなく、いわゆるトラヴィスが毎晩見る悪夢のことで、赤い扉は命の出入り口というか、外は死で内は生みたいな感じにも見えてきます。なんですけども個人的には全てではなく一部分がトラヴィスの悪夢で、徐々にそれが現実に侵食していき、境界線が不明瞭になっていったのではないかと思います。
悪夢に悩まされるトラヴィスは次第に現実と悪夢がごっちゃになり、おそらくですけど扉を開けたのも、犬を殺してしまったのも彼自身なのではないでしょうか。その後あのような騒動が起き、彼自身にも感染症状が本格的に現れたら辻褄が合うようにも思います。
また、もしかしたらですけどウィル一家も全てトラヴィスの悪夢が生み出した存在とも考えられます。ウィルの妻であるキムを性的な目で見てしまうのも、ウィルとキムが毎晩行為に耽っている様子を耳をそばだてて聞いているのも、思春期ならではの性的欲望を夢の中で満たしているとも捉えられます。
これだけ想像が膨らむ作品は個人的には大好きなのでめちゃくちゃ面白かったです。本当に何が正解なのかも分からないですし、私のこの憶測がとんだ見当違いである可能性も大いにあります。何ですけども、夜にやって来る“それ”は悪夢かあるいは感染による死なのではないでしょうか。
ラストシーンのポール夫妻の無の表情も非常に恐ろしく、ここから果たして2人はどうなるのかなど妄想が捗ります。これは非常に見応えがありますし、見た人によって捉え方が変わると思いますので是非とも視聴された方は「私はこう思う」をコメント欄にお寄せいただけると嬉しいです!
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