離婚寸前の不仲夫婦が泥沼に落ちてさぁ大変!毒蛇、軍隊アリ、体力の低下、そしてなにより不仲!2人は生きて帰ることが出来るのか…「底なし…」【ホラー映画を毎日観るナレーター】(774日目)
「底なし…」(2023)
アンドレス•ベルトラン監督
◆あらすじ
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仕事でコロンビアを訪れた離婚寸前のアメリカ人夫婦。2人は熱帯雨林をハイキング中、何者かに襲われる。しかも逃げている途中で流砂に足を取られ、泥沼にハマってしまった!もがけばもがくほど沈んでいき、嵐に見舞われて体力も低下。さらに、近くには猛毒のヘビと殺人蟻がいた。(movieplus.jpより引用)
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『離婚寸前の不仲夫婦が熱帯雨林の危険地帯で泥沼に落ちて脱出不可能となる。徐々に体力が低下し、さらには猛毒ヘビや軍隊アリが迫りくる地獄の状況下、2人は無事生還することができるのか?』
というコロンビア発のワンシチュエーションのパニックスリラーです。
『夫婦が泥沼にはまって絶体絶命!』という設定だけでも十分面白いですが、そこに“不仲で離婚寸前”という条件を一つ足すことで、何をやっても尽く息が合わず全然上手いこといかないし、状況が悪化していくというのが個人的には相当面白かったです。
この設定と状況が中々に見事ですし、最後までオチも予想出来ず、ハラハラドキドキしながら見られました。
なんですけども、このワンシチュエーションで85分は少々長かったです。夫婦が熱帯雨林を訪れた辺りから起こる出来事やそれに対する2人の取る行動が全て次の展開のために用意されたもののように見えてしまい、「そうはならんだろ」という微妙な違和感を視聴者に抱かせてしまいますし、その事象の一つ一つが尺を伸ばすためのものに思えてしまいました。
個人的にはもっとガっと良いところだけを凝縮して30〜40分の短編または中編にしたほうが設定やストーリー本来の良さを発揮できるように感じました。
またはかなり実験的かもしれませんが、この内容を演劇とかでやってみても面白そうだなと思いました。
作中の出来事一つ一つに「そうはならんだろ」と言うのは野暮でしかないんですけども、個人的に一番気になってしまったのが
『熱帯雨林にある滝を見に行くソフィアを一人じゃ危ないからとついて行くジョシュ』です。
ソフィアは一人で行くつもりだったのに、嫌いな旦那が強引について行くと言ってきたら「じゃあ行くの辞めるわ」となりそうなものです。口も聞きたくない相手と長時間2人でいるのはしんどいと思いますし、そこまでして滝が見たかったとも思えません。
おそらくはお互いに関係性を修復したいと思っているからこその行動だとは思いますが少々説明が足りず、あまり親切な脚本だとは思えませんでした。
例えばそれまでに、子供たちから「ママたち仲悪いの?離婚しちゃうの?」みたいな離婚を踏みとどまらせるようなやり取りをシーンとして入れておけば、夫婦どちらかがなんとかこの熱帯雨林観光中に離婚を回避しよう、関係を修復しようと務めるというところに繋がるため、『ソフィアがジョシュの同行を拒否しない』というのも『ジョシュが半ば強引についてくる』というのも理解できます。
また、道中で大雨が降ってきたため引き返したら車上荒らしに遭遇。ソフィアは隠れてやり過ごそうとするも、ジョシュは果敢に止めに入り、銃で脅されてしまいます。さらには「女もいたろ!」と言われたジョシュは誤魔化そうとするもソフィアがのこのこ現れて荷物を奪われてしまいます。
ここで『荷物も車も奪われてしまい、仕方なく歩いて帰っていたら道に迷って危険地帯に入ってしまい、泥沼に落ちてしまう』ならまだ分かるんですけど、『ジョシュが一瞬の隙をついて犯人をぶん殴って、その間に走って逃げてたら危険地帯に迷いこむ』というのが理解不能でした。
犯人も殺すならすぐに殺してたでしょうし、おそらくは荷物や金目のものだけが狙いだったのでしょうに…なぜジョシュもソフィアも余計なことばかりするのか。
銃を持っている相手を一発殴ってどうなると言うのでしょう。その後追撃をして銃を奪うとか、行動不能にしてから車で逃げるとか明確な目的もなく、ただその後危険地帯に2人が逃げ込むためだけの行動に見えてしまい少々残念でした。
個人的にはこの上記の2点がどうしても気になってしまい、しかもこの2点が割と序盤に連続で起きるため、どうしても以降のシーンでもそういう野暮な見方をしてしまうようになります。
あと、どうしてもソフィアのことが最後まで好きになれませんでした。とにかくプライドが高く、常に自分の方が正しいと思っているくせにパニックに陥るとすぐにテンパってしまうため、見ていてフラストレーションが溜まります。
泥沼に落ちた際も、ジョシュから「動かなければ沈まない!今助けるから!」と言われたのに速攻もがいてガッツリ沈んでしまい、それでジョシュもやむを得ず自分も沼に入ってソフィアを救い出します。
にも関わらず、そんなジョシュに対する第一声が「なんであなたも入ったのよ!」だった時に正直嫌いになってしまいました。以降も事あるごとにジョシュを否定する割にはすぐパニックになって過呼吸芝居を連発するのが結構しんどかったです。
後半では態度を改めて活躍するんですけども、私の中ではまだまだ全然マイナスでした。
ジョシュもジョシュで少々気が弱く、あまり後先考えずに行動したり、それでいて妙に頑固だったりするのであまり好意的には見れません。なもんで主人公である夫婦揃ってあまり視聴者から好かれないキャラクター像だと作品としては受け入れずらいかもしれません。
ちなみに監督を務めたアンドレス•ベルトラン氏については今作以外の情報が一切見当たらず、おそらくは国内(コロンビア)での活動が主だと思われます。
また、脚本を担当したマシュー•ピッツ氏は「スター・ウォーズ」シリーズの「フォースの覚醒」(’15)、「スカイウォーカーの夜明け」(’19)等の数々の名作で監督を務め、また「アルマゲドン」(’98)の脚本を手掛けたことでもお馴染みのJ•J•エイブラムス氏のお弟子さんにあたります。
同氏は「レボリューション」(2012〜14年)、「インパルス」(2018〜19年)、「ウエストワールド」(2016〜22年)等などアメリカ国内で放送されるテレビドラマの脚本を中心にご活躍されており、おそらく映画の脚本は今作が初だと思われます。
現在Amazonプライムにて配信中です。極上!とまではいかないまでも、ワンシチュエーションスリラーとしてはしっかり楽しめる部類だと思います。
◇医療従事者としてアメリカの同じ病院で働くソフィアとジョシュ夫婦。彼らは今、離婚寸前の絶賛不仲中!そんな折、二人は知人であるマルコスの要請で子供たちを置いて医療の現場が逼迫しているコロンビアに応援として向かうことに。現地に着き、事情を知ったマルコスも気を使い、非常に気まずい空気が流れてしまう。翌日、ソフィアは観光地にもなっている熱帯雨林のラ•チョレナ滝に行こうとするも危険だからと心配してジョシュも同行することに。しかし道中で大雨に見舞われ、仕方なく引き返すことになる。だが運悪く車上荒らしに襲われ、慌てて逃げた二人は現地民も絶対に足を踏み入れないと言われている危険地域ラス•アレナスに逃げ込んでしまう。そして足を滑らせたソフィアが泥沼に落ちてしまい、助け出すために仕方なくジョシュも沼に入ってしまう。自力では這い上がれない最悪の状況下で体力の低下、脱水症状、毒蛇、軍隊アリ、そして不仲等など様々な試練が2人に襲いかかる。果たして二人は生きて帰ることが出来るのか!?
というのが今作の細かめのあらすじです。
先程ごちゃごちゃと無粋なことを書いてしまいましたが、なんとなくで見る分には全然そういったことろも気にならないと思います。
冒頭に登場した蛇ハンターのおじさんも同じ泥沼に落ちて死亡しており、荷物も全て奪われている夫婦はこのハンターのおじさんの死体から荷物を拝借します。猟銃、ナイフ、ライター、双眼鏡、懐中電灯等など、さらにはカバンや布を切って結んで投げ縄にして近くの大きな石に引っ掛けての脱出を試みたりもします。
この最悪の状況において、なんとか知恵を振り絞って今あるものだけでなんとか危機を脱しようとするサバイバル感は相当楽しかったです。
またその過程で軍隊アリに襲われたソフィアに「酒をかけたら逃げるから」と隠し持っていた酒を手渡したことで、ジョシュのアルコール依存症が再発していたことが発覚してしまいめちゃくちゃなじられるシーンもシュールで良かったです。
なんですけども、作中通してなぜ2人がここまで関係が悪化したのかが如何せん分からないので、「これは〇〇が悪いな」みたいに感情移入することもできません。おそらくは先述のアルコール依存症の一件や性格の不一致とか、明確な“これ”というものはなく、長年に渡る積み重ねが不仲の原因だと思われますが、何か一つ決定打となる“これ”を描いてもよかったように思います。
毒蛇に噛まれたことで意識が朦朧とし、さらには首に大きな血栓が出来て今にも死にそうなジョシュを救うためにソフィアがナイフで頸動脈を切開して血栓を取り出し、そのまま炙ったナイフを押し付けて火傷で傷を防ぐというのもいかにもなサバイバル映画で手に汗握りました。
ランボーが自分のお腹に火薬を詰めて爆発させて傷口を塞ぐシーンを思い出しました。
また毒蛇の存在が意外と大きく、夫婦が沈んだ泥沼のすぐ真横に巣があり、さらには卵があるため、ちょいちょい近くをうろついています。
この蛇によってジョシュは毒をもらい、後の激アツ血栓ほじくりシーンが生まれましたし、クライマックスではこの蛇も殺してロープの長さの足しにして投げ縄を完成させて見事脱出成功となるため、蛇からしたら巣を荒らされるわ、殺されるわ、ロープにされるわでたまったもんじゃないでしょうけど大活躍します。
ジョシュは蛇の毒が全身に回り虫の息。ソフィアは一人で沼から這い出て、助けを呼びに行く。そして疲労困憊、脱水症状でふらふらになりながらも森を抜けたところで警察、救急、そしてマルコスが到着。ソフィアは保護され、ジョシュもその後すぐに助け出され、2人はお互いの安否を確認して安堵する。
というところで物語は幕を閉じます。
泥沼に落ちて死に直面し、2人で困難を乗り越えようとする中で関係が修復されていき、最後は相手の生存を心底喜べるようになるなど、お互いに大きな成長が見られたのはとても良かったです。メインの2人にはあまり感情移入出来ませんでしたが、パニックスリラー映画としては十分に楽しめました。
あと余談ですが今作の原題は「Quicksand」(流砂)で、2人が迷い込んだラス•アレナスは流砂地帯かつ毒蛇やら猛獣がいるため危険地域とされていました。
この原題を「底なし…」という邦題にしているわけですが、別に夫婦が落ちた泥沼は当然底なしではないです。となると“底なし”とは何を意味するものなのでしょうか。
人間の欲なのかそれとも恐怖心なのか、個人的にはですけど私は“生への渇望”のように思いました。
生きるためならば嫌いな相手とでも協力するし、助け合う
その生に対する切なる思いによって取った行動のおかげで関係性も修復されたのでしょう。
といった具合に邦題を勝手に考察してみるのも楽しいですね。本編をご覧になられた方もそうでない方も、この邦題“底なし”をどう捉えたのか、もしよかったらコメント欄等で教えていただけると嬉しいです!
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