後味の悪さ過去イチ!だがそれでいい、いや、それがいい!「ポゼッサー」【ホラー映画を毎日観るナレーター】(596日目)
「ポゼッサー」(2020)
ブランドン•クローネンバーグ監督
◆あらすじ
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タシャは殺人を請け負う企業に勤務するベテラン暗殺者。上司のミッションのもと、特殊なデバイスを使ってターゲットに近しい人間の意識に入り込む。そして徐々に人格を乗っ取っていきターゲットを仕留めたあとは、ホストを自殺に追い込んで“離脱”する。すべてが速やかに完遂されていたが、あるミッションを機にタシャのなかの何かが狂い始める…。(Filmarksより引用)
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クローネンバーグワールド全開のSFスリラーです。
監督を務めたブランドン氏の御父上はOC(カナダ勲章)やFRSC(カナダ王立協会フェロー)等も授与されている映画界の重鎮デヴィッド•クローネンバーグ氏で、親子ともにSFやホラーを得意としています。
人によっては嫌悪感すら抱く直接的な描写やキ◯ガイじみた表現が多々見受けられる一筋縄ではいかない強烈な内容、そしてその中に込められた作品のテーマ、映像表現に対する飽くなき挑戦は世界中で多くの熱狂的なファンを獲得しており、何を隠そう私も両氏の作品の大ファンです。
今作もその例に漏れず
『他人の脳と体を支配し、遠隔操作でターゲットを始末する』というやり方でミッションを完遂していくベテラン女性暗殺者
という、かなり前衛的というか、何をどうしたらそんな設定が思い浮かぶんだと思わずにはいられない尖った設定かつ随所に見受けられるメッセージ性とエッジの効いた映像表現が非常に素晴らしくて、最近見た中でもトップクラスに面白かったです。
しかもこれが長編映画監督作品の2作目なわけですから、末恐ろしいことこのうえないです。ホラー映画業界もまだまだ安泰ですね。
ちなみに本作はR18となっております。性描写も何シーンかありますが、おそらくはその直接的な殺戮描写が要因かと思います。必要以上に腹やら首やらをナイフで滅多刺しにして、肉体にナイフが刺さる様子をわざわざアップにしたり、おびただしい量の血が流れるため、苦手な方はお気を付けください。
現在DMMTV、U-NEXT、huluにて配信中です。
◇プロの殺し屋であるタシャ・ヴォス。彼女が所属する組織では『とある装置を用いて、ターゲットに近しい人物の肉体に自身の意識を転送。脳と体を乗っ取ったその人物を操り、ターゲットを始末。その後は乗っ取った人物の体で自殺をして意識を離脱させる』という特殊な手法の暗殺を行っている。ある日、彼女はコリンという男の体を乗っ取り、いつも通り任務をこなそうとするも突如としてコリンの意識が覚醒。ターゲットを仕留めそこねて、さらにはコリンの体で自殺をすることにも失敗してしまう。
という内容の極上の骨太SFスリラーです。
何度も言いますが、よくもまぁこんな設定思いつきますね。
主人公•タシャの『組織からの指令を淡々とこなす凄腕の殺し屋であると同時に、日々罪悪感に苛まれ、疎遠になっている夫•マイケルと息子•アイラとの関係修復も上手くいかない』という状況が非常に心苦しく、おそらく自殺をして離脱することができなくなったのも罪悪感や家族に対する思いから来る躊躇いでしょう。
また、彼女が何の仕事をしているのかも分からない夫•マイケル、たまにしか母親と会えない息子•リータの気持ちも推して知るべしです。
この作品の特徴として挙げられるのが、タシャのバックボーンに関する説明がほとんどないところです。
『彼女はどんな人生を送り、なぜ暗殺を生業としたのか?』
は一切不明なままです。
仕事となればその残虐性を遺憾なく発揮してナイフでめった刺しにすることも厭わない彼女ですが、その一方では家族のことを思い、慈しみの心を持つ心優しい女性。
いったいどちらが本当の彼女なのでしょうか。
そして、彼女の属する組織の上司•ガーダーからすると最近のタシャが自殺を躊躇するようになった主な原因であろう彼女の家族の存在は邪魔でしかなく、任務遂行の障害にしかならない彼らをいつか始末するべきだと考えていたのでしょう。
◇コリンの体からの脱出に失敗した彼女は徐々にコントロールを奪われ、最終的には「マイケル(夫)を殺せ」と脳内から指示を出し、コリンにマイケルを殺させます。さらには息子•アイラの体を乗っ取ったガーダーによってコリンは刺殺されるも、死の間際でコリンはアイラを銃殺する
というなんとも救いのないクライマックスでした。ここで完全にタシャは人の心を失ってしまったのかもしれません。
人間の心を完全に失い、殺戮マシーンと化したタシャ
そして全て思い通りに事が運んだガーダー
この二人の様子が明らかになるラストシーンはなんとも儚く、見事としか表現のしようがありませんでした。
一度見ただけでは中々に難解な部分も多く、鑑賞後に解説などを読んではじめて「なるほど!」となる部分も往々にしてありました。私のようにメタファーや隠されたテーマみたいなものには気づけない方々は、他の方の解説を読んだ上でもう一度鑑賞してみるとさらに面白くなると思います。
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