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スティーヴン・キング原作映画が1週間で打ち切り!?狂犬病のデカ犬が親子を襲うハラハラドキドキのアニマルホラー「クジョー」【ホラー映画を毎日観るナレーター】(695日目)

「クジョー」(1983)
ルイス・ティーグ監督

◆あらすじ
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自働車修理工のジョーの元で飼われているセント・バーナードのクジョーは子供が大好きな穏やかな性格の犬だった。しかしある日、コウモリに咬まれたことで狂犬病に罹かり凶暴化。そうとは知らずに修理工場を訪れたドナとタッドはすでにジョーを咬み殺していたクジョーの新たな標的となってしまう。車も動かず、外に出ることも出来なくなり、炎天下の中、二人は絶体絶命の状況に追い込まれてしまう。
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『狂犬病に罹った大型犬に襲われた親子。エンジントラブルで車は動かず、犬がいるせいで外に出ることもできない。炎天下で体力を奪われていく中、二人は無事に生きて帰ることが出来るのか…』

という、見ている我々の方までなんともヒリついてしまうハラハラドキドキな展開の連続で一切先が読めないアニマルパニックスリラーです。

最初は大きくてモフモフの可愛らしいセント・バーナードのワンちゃんが狂犬病に罹ったことで凶暴化。目が血走り皮膚は爛れ、泥や血で汚れて醜悪な見た目となり、目ヤニやヨダレをダラダラと流しながら人間に襲い掛かるその様はまさにモンスターのそれです。現実に存在する生き物だからこそ、その恐怖や脅威が想像出来てしまうため、個人的には相当怖かったです。

大きい犬ってかわいいですよね。
(セント・バーナードWikipediaより引用)

物語後半に掛けての盛り上がりが特に素晴らしく、車に閉じ込められた親子とその2人を執拗に狙うデカ犬•クジョーとの間で繰り広げられる攻防や緊張感のある駆け引きは目を見張るものがありました。最近では何かと叩かれてしまうからなのか動物をメインにする映画をめっきり見なくなりましたが、個人的にはホラーとの相性が良いなと思っているのでまたこういった作品が作られることを願っております。

そう言えば昨日見た「HOUSE ハウス」(’77)に登場した猫も画面外からスタッフさんに投げられたり、女の子たちから雑に持ち上げられたりと大分可哀想な扱いを受けていましたね。

原作は私の企画では最早おなじみの“ホラーの帝王”ことスティーヴン・キング氏によって1981年に発表された「クージョ」です。

クージョWikipediaより引用

ちなみに今作が公開された1983年にはデヴィッド・クローネンバーグ監督による「デッドゾーン」、ジョン・カーペンター監督による「クリスティーン」と計3作のキング氏原作の映画が公開されておりまして、一応今作が一番最初に封切られた作品になるそうです。

御自身の原作映画にはカメオ出演しがちなキング氏ですが、今作には出演しておりません。残念です。
(スティーヴン・キングWikipediaより引用)

映画化の話が出た際、キング氏はルイス・ティーグ氏を監督に推したそうですが叶わず、代わりに「チェンジリング」(’80)等で有名なピーター・メダック氏が監督を務めることになりました。

しかし、詳しい理由は定かではありませんが、メダック監督がわずか1日で監督を降板してしまったそうで、晴れてティーグ氏が監督を務めることに相成りました。

そんなこんなで監督を務めたルイス・ティーグ氏は「アリゲーター」(’80)等のパニックホラーやアクション映画に定評があり、今作からおよそ2年後の1985年には再びスティーヴン・キング原作の「キャッツ•アイ」でもメガホンを取っています。ちなみにこちらの作品ではキング氏自ら脚本を担当しています。

「アリゲーター」も面白かったのでオススメです↓

余談ですが、今作は日本だとあまり評判がよろしくなかったようでわずか1週間で打ち切りという憂き目にあっています。

現在配信などはないようで、私は五反田のTSUTAYAを利用させていただきました。

movie-tsutaya.tsite.jpより引用

◇自働車修理工のジョーの元で飼われているセント・バーナードのクジョーは子供が大好きな穏やかな性格の犬だった。しかしある日、野ウサギを追いかけていた際にコウモリに咬まれ、狂犬病に罹かってしまう。その日以来、異常なまでに音に敏感になり、徐々に様子がおかしくなったクジョーはついにジョーやその友人を咬み殺してしまう。そんな折、車のエンジンを直してもらおうとジョーのもとを訪ねてきたドナとタッド親子。しかし車を開けるやいなや凶暴化したクジョーが襲い掛かり、さらには車の故障でその場から逃げることも出来なくなった。炎天下の車中に長時間取り残されて脱水症状に見舞われたタッドは意識を失い、命が危うい。すぐにでも助けを呼ばなければいけない。しかし外には耳をそばだて、ドナたちを狙うクジョーがいる。この絶体絶命の窮地に立たされた親子の運命は…

といった感じに展開していきます。

先述した通り、修理工場を訪れたドナとタッドの親子がクジョーに襲われてからの盛り上がりは凄まじいです。大型犬のクジョーの迫力や凶暴性、力強さはもちろんのこと、ドナの息子であるタッドの怖がる演技がうますぎるというか、もうどう見てもガチで泣き叫んでおり、撮影後にトラウマになったり、心の病を発症してしまうんじゃないかと、見ているこちら側が違う意味でもハラハラしてしまいます。

さらにタッドは炎天下で脱水症状を引き起こし、白目を剥いて痙攣する演技も非常にリアルです。とても可愛らしいタッド役のダニー•ピンタウロ氏は今なら天才子役と持て囃されてもおかしくないと思うんですが、当時の業界の反応等はどうだったんでしょうか。以降はほとんど俳優としての活動は見受けられませんが、もし今作で抱えたトラウマが関係していたらと思うと嫌ですね。

本当にトラウマ級の怖さでした。(m.crank-in.netより引用)

狂犬病に罹ってからのクジョーが音に敏感になり、“音の発する方向をキョロキョロと見る”というのを犬視点のカメラワークで表現するというのがとても斬新で相当面白かったです。

人間を襲うシーンではそこまで直接的なグロ描写みたいなものはほとんどありませんが、動物としての本能で的確に急所を狙ってくるという怖さやシンプルにフィジカルの強さ(原作では体重200ポンド=約90kgという設定があります)を活かしてのしかかってきたり、車のドアや窓を破壊してくるシーンは迫力満点です。このあたりのカメラワークやカット割りも常に緊張感を煽ってくるので視覚でも楽しめます。

余談ですが、クジョー役のセント・バーナードは全部で5頭用意されていたそうで、凶暴さを演出する顔のアップのためにメカニカルヘッドも用いられたそうです。

撮影を担当したヤン・デ・ボン氏
後に監督として「スピード」(’94)や「トゥームレイダー2」(’03)を手掛けます。(ヤン・デ・ボンWikipediaより引用)

評価があまりよろしくなかった理由の一つに、盛り上がる中盤までに人物をあまり上手く描けていなかったという点が挙げられるかもしれません。

本作に登場するキャラクターはかなり限られており、まずメインとなる母親ドナと息子タッド、そして父親のヴィック。そしてドナの不倫相手であるスティーヴ、修理工のジョーとその妻と息子が主な登場人物で、その他クジョーに襲われる要員のジョーの友人や警察などが登場します。

ジョーが凶暴化する中盤までは主にドナとヴィックの冷えきった夫婦関係や間男スティーヴとの不倫、さらにはジョー一家が事件当日に工場からいなくなるという状況作り(宝クジが当たった妻は息子と旅行、ジョーは友人と遊びに行こうかと計画を立てていたもののクジョーに咬み殺される)を描いております。

page.auctions.yahoo.co.jpより引用

この中盤までがいまいちノッていないというか、話は進んでるけどそれぞれがどんな人間なのかが分からず、なぜドナとヴィックの関係が冷え切っているのか、なぜスティーヴと不倫をしているのか等があまり上手く描けていません。

ヴィックの事業の失敗が原因で都会から引っ越してきたという部分からもう少し丁寧に始めて、『引っ越して来てからというもの夫婦喧嘩が絶えず、そんな折に優しいスティーヴと出会い、一時の感情に流されて関係を持ってしまい…』くらい分かりやすくても良かったような気がします。今のままだと流石に視聴者の想像力に委ねすぎというか、あまり親切な脚本ではないなと思いました。

natalie.mu:8443より引用

ドナが不倫に対して少々開き直っている節があるのも個人的にはいただけなかったです。スティーヴとの関係がバレてしまい、その後、ヴィックが出張で家を空ける際には「もう終わったことだから」とか「一時の感情に流されちゃって」とか言い訳ばかりを並べ、険悪ムードのままヴィックは出掛けていきます。

ヴィックがめちゃくちゃクズだったり、逆にスティーヴがすごい良いやつだったりしたらまたドナに対しても感情移入できるんですけども、いかんせんその辺りが曖昧なので、中盤以降でドナがクジョーから必死に我が子を守ろうとしていても、なんか不倫してた母親が子供守ろうと頑張ってるなぁとしか思えず、いまいちハマりませんでした。

natalie.mu:8443より引用

作中でもタッドはドナよりも圧倒的に父親であるヴィックに懐いており、危機的状況に陥った際も泣きながら何度も「パパに会いたい」と発言しており、それに対してまたドナが「だから会わせてあげるって言ってんでしょ!」と苛立ちを露わにするなど、あんまり良い母親にも見えてこないです。もちろん追い込まれている状況なので仕方ないんですけど。

なもんでこの作品は、恐ろしい事件を乗り越え、家族との関係性を見つめ直すドナの成長物語でもあるのかもしれません。ラストのクジョーとの死闘は鬼気迫るものがあり非常に見応えがありますし、またドナを演じているのがホラー映画ファンにはお馴染みのディー・ウォレス氏なのもポイントが高いです。

ディー・ウォレスWikipediaより引用

ラストはドナ自身も重傷を負うもなんとかクジョーとの死闘を制し、脱水症状で意識不明となっているタッドも奇跡的に息を吹き返してハッピーエンドとなりますが、これは映画用に書き換えられたエンディングで、原作の方だとラストが異なります。

原作だと、クジョーを倒した時にはタッドはもうすでに手遅れで残念なことに命を落としてしまうというなんとも後味が悪いものになっています。キング氏は映画版のハッピーエンドに肯定的で、なんだったら映画用にラストを書き直したいとすら思っていたそうです。

前半だけ少々もったいないような気もしましたが、個人的には結構好きな一作でした。2015年にはリブート版の製作の話も出たそうですが、その後どうなっているんでしょうか。もし今作るとしたら犬はフルCGになるでしょうし、表現の幅なんかも色々と広がるような気もします。なんですけどもやっぱり本物の犬でやるからこその面白さには劣る(と言ったら失礼なんですけども)というか、新しけりゃ良いというものではないので悩ましいですね。

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もしよかったら覗いてやってください。

渋谷裕輝 公式HP↓


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