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押し寄せる500匹のネズミの大群!取るのは友情?それとも恋愛?準備期間に1年以上を要した苦労が滲み出る怪作「ウイラード」【ホラー映画を毎日観るナレーター】(770日目)

「ウイラード」(1971)
ダニエル•マン監督

◆あらすじ
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ソクラテスとベンと名付けた2匹のねずみしか友達のいない青年ウイラードは、職場で復讐のためにねずみに人を襲わせるも、その後自らの私利私欲のためにねずみを裏切ってしまう…。(Filmarksより引用)
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『冴えない青年が家に住み着くネズミと心を通わせるようになり、調教し、意のままに操れるようになる。そしてネズミの大群を引き連れ、不当な扱いをしてくる上司に復讐を果たすが…』というアニマルパニックホラーです。

兎にも角にも何百匹もの本物のネズミが人間を襲う描写は圧巻の一言です。これはCGやAIでは絶対に表現出来ないと思います。動物愛護の観点から見ても現在では再現不可能だと思われますし、この時代の自由さと“面白いものを作りたい”という真っ直ぐな熱量が合わさったからこそ生み出された怪作中の怪作です。

ネズミと戯れるウイラード(映画.comより引用)

原作はスティーヴン•ギルバート氏によるベストセラー小説「ねずみ男の手帖」で、アメリカ国内で映画が公開されるやいなや話題沸騰。驚異的なロングランを記録するとともに多くの劇場で当時の観客動員数や興行収入を次々と塗り替えていったそうです。

その後ヨーロッパでも大ヒットを飛ばし、1971年末に日本にも上陸。『ヒッチコック監督の「鳥」(’63)を凌ぐ』と宣伝され、当然のごとく大ハネしました。

今作のために用意•調教されたネズミはおよそ500匹だそうで、ピーナッツやピーナッツバターをご褒美にして1年以上の期間を調教に費やしたそうです。その結果、調教師の合図とともに『歯をむき出しにする』、『鳴き声を出す』、『人間や家具の上に駆け上がる』等など細かい担当が割り振られ、25のグループに分けられて人間顔負けの名演技を見せてくれます。

ネズミが絶妙にキモくて良いですね。(https://natalie.mu/eiga/film/800397より引用)

主演を務めたブルース・デイヴィソン氏曰く、ネズミが登場するシーンのほとんどは平均30〜40回の撮り直しを要したそうで、ネズミが列になって細い板の上を駆け登ったり下りたりするシーンの撮影には丸一日かかったそうです。ちなみにネズミの大群が人間に襲いかかるシーンでは全身にピーナッツバターを塗って引きつけたとも語っています。

「ここまで時間を掛けるなんて非効率過ぎる!」と思う方も一定数いるでしょうし、実際そうなのかもしれません。ですがそれだけ試行錯誤して、苦労して、時間を掛けたからこそ今でも語り継がれるような怪作になったのではないでしょうか。私はこういう一生懸命さや泥臭さを感じる作品が大好きなのでどハマりしました!

そんな今作の主演ブルース・デイヴィソン氏はその前年に主演を務めた「いちご白書」(70)で一躍スターとなり、現在でも第一線でご活躍中のレジェンドです。

ブルース・デイヴィソンWikipediaより引用

「X-メン」シリーズ、「ロングタイムコンパニオン」(’90)、「マイ・フレンド・フォーエバー」(’95)など数々の名作に出演している同氏ですが、今作のイメージが強かったのか、2012年には「巨大ネズミの島」といういかにもなB級映画にも出演しております。これもいつか視聴したいですね。

ちなみに2003年には「ファイナル・デスティネーション」(’00)の脚本等でお馴染みのグレン・モーガン氏が監督•脚本を務めたリブート版も公開されています。こちらに関しては日本公開スルーのようですが、いつか拝見させていただきたいです。

オリジナル版よりもホラー感が強そうですね。(Filmarksより引用)

そして今作の監督を務めたダニエル•マン氏は50〜80年代において活躍された映画監督で、派手な演出は少なく、登場人物たちの会話に重点を置いた通好みの作品が多いそうです。なもんで今作のようなネズミの大群が登場するアニマルパニック映画なんて同監督の中だとかなり商業を意識した珍しい作品なのかもしれません。

そんな今作ですが現在残念ながら配信などは無いようで、私は西荻窪のTSUTAYAを利用させていただきました。

本物のネズミを大量に登場させてますし、画面外から放り投げるなど少々雑な扱いも見受けられるので、御時世的に今後も配信は難しいかもです。もし気になる方はお近くのレンタルショップなどをご利用ください。

「もの凄い事が起こります」とか「一人で見てはいけません」みたいな文言ってあまり当てにならない印象ですが、この作品に関しては確かにそうだなと思います。(https://natalie.mu/eiga/film/800397より引用)

◇とある会社で働く気弱な青年ウイラードは病弱な母親と二人暮らし。父親は会社の社長だったが数年前に病死し、その部下だったマーティンに会社を乗っ取られ、ウイラードは彼の元で平社員としてこき使われ、パワハラと安月給に耐える日々。ある日彼は母親から庭に住み着くネズミの駆除を頼まれるも情が湧いてしまい、見逃すどころか、徐々に心を通わせるようになる。中でも飛び抜けて賢い白ネズミのソクラテスとイタズラネズミのベンはこっそり職場に連れていくなど特に可愛がっていた。そしてその数を増やし続けるネズミの群れを調教し、意のままに操れるようになったウイラードだったが、ある日、職場に連れて行ったネズミが社員に見つかり、ついにはマーティンがソクラテスを殺してしまう。復讐に駆られたウイラードはネズミの大群を引き連れ、マーティンを惨殺。しかし情緒不安定となったウイラードは一方的にネズミたちを置き去りにし、残りのネズミも殺処分するなど暴挙に出る。そしてその一部始終を見ていたベンはついに…

というのが今作の細かめのあらすじです。

パワハラ上司•マーティンに襲いかかるネズミ(映画.comより引用)

基本的な大筋は『気弱な青年がネズミの大群を率いてパワハラ上司に復讐する』という、いわゆる復讐系の作品なんですけども、それまでにも“なんか気持ち悪いな”、“なんか怖いな”という漠然とした不安や恐怖が散りばめられているのが非常に印象的でした。

ウイラードは父親の死をきっかけに会社を奪われ、精神的に病んでいる母親の面倒を見ながら、乗っ取られた会社でいびられながら黙って働く毎日。誕生日には大量のパーティーグッズを身に着けた年老いた親戚たちが大勢集まり、27歳のウイラードをまるで子供のように過保護に扱います。

個人的にはこの状況が非常に不気味というか、ウイラードは母親を厄介に思いながらも離れることが出来ないし、母親も情緒不安定でウイラードにキツく当たったりベタベタ甘えたりと、完全に共依存関係になっています。

親戚たちは異常に過保護で、事あるごとに集まりたがるくせに、物語の後半で自宅を差し押さえられそうになったウイラードが金の無心をしに来た時は冷たく追い返すなど絶妙に『人間性が不明瞭』な人間として描かれているのがめちゃくちゃ怖かったです。

日本ではこのネズミ祭りの作品を1971年末からお正月映画として公開したみたいです。ちなみに年明けの1972年は子年です。(https://natalie.mu/eiga/film/800397より引用)

主人公のウイラードはいつも遠慮がちで自分の意見を周囲に伝えるのが苦手な気弱な青年です。マーティンからの長期に渡るパワハラや母親の死によって精神疾患を抱えているようで、中盤以降はひどく取り乱したり、ネズミ相手に癇癪を起こすなどかなり情緒不安定です。

ちなみに映画サイトのあらすじなどでは“自閉症気味の青年”と書かれていることもありますが、それともちょっと違うのかなと思います。

だからこそネズミと心を通わせて楽しそうにしているウイラードが一番まともに見えてしまうのもまた怖いところではありますが、賢い白ネズミのソクラテスやイタズラネズミのベンはポケットに忍ばせたり、職場に連れて行ったりと大のお気に入り。その他のネズミも自宅のガレージや地下で大繁殖させ、瞬く間にその数は500匹を優に越えます。

ネズミを発見するマーティンの愛人(映画.comより引用)

ネズミの大群を指揮してパワハラ上司•マーティンのパーティーを台無しにするなどこっそり仕返しするなど、ささやかながら楽しい日々は母親の急死で終わりを告げます。

ウイラードは母親の借金や税金の支払いで首が回らなくなり、いよいよ自宅も差し押さえられそうになります。しかし思い出の詰まった自宅は売りたくない、でも親戚は役に立たない。さらには会社を乗っ取った張本人のマーティンが自宅を土地ごと買い取りアパートにしようと計画する始末。

そしてネズミの大群を引き連れて住居に侵入して現金を奪うなどいよいよ引き返せないところまで来てしまうウイラード。ネズミたちに依存しているにも関わらず、エサ代が払えないからこれ以上増えるなと癇癪を起こすなど精神的にも不安定になっていく。そんなある日、職場に連れて行ったソクラテスとベンが見つかってしまい、マーティンがソクラテスを棒で刺殺してしまいます。

このソクラテスが何度も棒で突かれて死ぬ様子を声を必死に押し殺して悔み続けるウイラードと物陰から黙って見ているベンという構図にまた恐怖を感じました。

マーティンに復讐を果たすウイラード(cinemanavi.comより引用)

このあとネズミの大群を引き連れてマーティンに復讐を果たしたウイラードでしたが、事の重大さに気づくとともに“ここで変わらなければ”とある意味前向きになった彼はベンたちをその事件現場に置き去りにし、自宅のネズミたちもその大半を池に沈めて殺してしまいます。

そして苦楽を共にしたネズミたちと別れを告げ、生まれ変わった(つもりの)彼は意中の女性•ジョアン(めちゃくちゃ美人だけど何の予告もなしに猫をプレゼントしてくるヤバい同僚)を自宅に招待。「もう何も怖くない」、「生まれ変わったんだ」等と過去と決別して、ジョアンと新たな生活をスタートさせることで頭がいっぱいです。

まだまだたくさんいたネズミたち(映画.comより引用)

しかし自力で戻ってきたベンは当然それを良しとしません。勝手な都合で自分たちをぞんざいに扱い、あろうことか仲間たちを殺したウイラードに怒り心頭です。地下にはネズミの大群を潜ませており、それに気づいたウイラードは慌ててジョアンを帰し、ついには餌に毒を混ぜてベンを含む全てのネズミを殺そうとします。

毒餌を持って地下に向かうウイラード。ここでベンが鳴くと一斉に大勢のネズミがウイラードに襲いかかり、彼はなすすべ無くそのまま食い殺されてしまう。そしてその様子を柱の上からベンがいつまでも眺めているのだった…

というところで物語は幕を閉じます。

ラストシーンのベン(映画.comより引用)

もちろんネズミの脅威も印象に残りましたが、個人的には徐々に精神的に追い込まれていくウイラードの情緒不安定で理解が追いつかない行動の数々の方がインパクトがありました。

内容が内容なだけに「面白かった!」というのがふさわしいかはわかりませんがとにかく凄い作品でした。そして明日は今作のヒットを受けてすぐに作られた続編「ベン」(’72)を視聴予定です。今から楽しみです!

あと余談ですが、物語の終盤でウイラードが毒餌を用意するシーンで背後の食器棚にベンを机から降ろすスタッフさんの姿が映り込んでいます。もし覚えてたらチェックしてみてください。

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