笑ってはいけないZ級SFホラー!全てを台無しにする前代未聞のクライマックスを見逃すな!「宇宙からのツタンカーメン」【ホラー映画を毎日観るナレーター】(657日目)
「宇宙からのツタンカーメン」(1982)
トム•ケネディ監督
◆あらすじ
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エジプトのツタンカーメン王の墓から棺に入った一体のミイラが発見される。マッカデン教授は研究目的でアメリカ合衆国にミイラを持ち帰るが、レントゲン撮影の際に研究員が誤ってX線を大量に照射したためにミイラが蘇ってしまう。研究員が棺の中にあった宝石を盗んでいたことから、ミイラは町の女性たちを巻き込みながら宝石を奪い返す。(宇宙からのツタンカーメンWikipediaより引用)
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『3000年の眠りから覚めたミイラ男が盗まれたクリスタルを取り戻すべく人間たちを次々と襲い始める』という、いかにもな内容のマニアックSFホラー映画です。
ところどころに詰めの甘さが散見されますし、テンポもあまりよくありませんが、その突飛な設定を活かした展開はそれなりに楽しめるので普通に面白かったです。
しかし!
詳しくは後述しますが、「最後の最後でスタッフ全員ストライキでも起こしたのか?」と疑われても仕方がないほどに酷すぎるラストシーンのせいで、程良いB級映画からどストレートなZ級映画にまで格が下がった印象です。何でしょうか。ラストシーンまでに予算全部使い切っちゃたんですかね。
個人的にはこういうどうしようもない映画が大好物なので私の中では傑作に入れたいところですが、これを映画館で見た人からしたら十分な『金返せ案件』だと思います。
日本では当然の如く劇場公開が見送られ、テレビ朝日で放送された際は「宇宙から来たツタンカーメン/消えたミイラ!全裸美女に迫る古代エジプトの魔神」という、オカルト好きからスケベ野郎まで少しでも多くの視聴者に引っ掛かるような詰め込み過ぎのオリジナルタイトルを付けており、テレビ東京で放送された際は原題である「TIME WALKER」をリスペクトした「タイム•ウォーカー/時空の聖櫃」というタイトルを付けております。
その後、DVD化した際は「宇宙からのツタンカーメン/タイム•ウォーカー 時空の聖櫃」という、テレビ朝日版とテレビ東京版のタイトルの良いとこ取りなタイトルに落ち着きました。
『それなりに楽しめるB級SFホラーからの前代未聞のZ級のラストシーン』という凄まじい高低差を是非とも体感していただきたいのでオススメです!
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◇エジプトの遺跡を発掘していたマッカデン教授一行は偶然にもツタンカーメン王の墓からミイラの入った棺を発見する。さっそくその棺を持ち帰って研究員たちと慎重に調査を開始するも、棺内部を撮影する際に担当スタッフのミスで大量のX線を照射してしまう。更にそのスタッフは棺内に隠されていたクリスタルを全て盗んでしまう。X線が原因でミイラ男は3000年の眠りから覚めてしまい、クリスタルを取り戻すべく人々を次から次へと襲い始め、町を大パニックに陥れる。そんな折、マッカデン教授はそのミイラが人間ではなく宇宙から来た者ではないかと仮説を立てるが…
といった感じに展開していきます。
大量のX線照射によって『現代に蘇ったミイラ男がクリスタルを取り戻すべく人々を襲う』と『棺内にあった謎のカビが増殖し、触れてしまった人々を苦しめる』という2本のホラーの軸があり、その中でマッカデン教授や研究員たちが色々と調査をしたり、警察が一連の事件を追うことで物語が進んでいきます。
マッカデン教授たちの調査の結果、棺内に収められていたミイラ男は『高貴なる旅行者』と名付けられていたことが明らかになります。X線写真から見ても分かるように、おそらくは地球上の生物ではなく、いわゆる宇宙人だと思われます(なので以降は旅行者ではなく宇宙人として話を進めていきます)。
棺内に一緒に収められていた5つのクリスタルをボードのようなものにセットすることで、おそらくは自分たちの住む惑星と交信ができるようです。しかしこのクリスタルを研究員が盗みだし、あろうことか小遣い稼ぎで悪友たちに売っぱらい、購入者たちはこぞってそれをアクセサリーにして恋人にプレゼントしてしまいます。
X線の照射によって目覚めた宇宙人は町に繰り出し、自身の胸についている大きなクリスタルの反応を頼りに5つのクリスタルを取り戻すべく人々を襲います。女性がそのクリスタルを身に着けていた場合は仕方なく襲って奪い取り、襲われた女性も後述するカビによって命を落としたりします。
しかし、入浴中などたまたまクリスタルを身に着けていなかった場合は女性には何もせずクリスタルを回収してその場を去ります。このシャワーシーンからのミイラ男登場はヒッチコック監督の名作「サイコ」(’60)をオマージュしていると思われます。
特に説明があるわけではないのでここからは私の憶測になってしまいますが、おそらく宇宙人は眠りから覚めたらクリスタルを用いて惑星と交信し、自分たちの星に帰るのが目的だったのではと思われます。そもそも彼らが何者なのかは最後まではっきりしませんが宇宙人でいいと思います。
そして、同じく大量のX線照射によって棺内の緑色のカビが爆発的に増殖してしまいます。調べたところによるとそのカビは地球上にはないもので、X線照射によって細胞分裂が早まります。皮膚や筋組織への攻撃性が高いらしく、触れてしまうと真っ黒に腫れ上がり、その部位を切除する以外には助かる方法がありません。
3000年前に何らかが原因で増殖し、ツタンカーメンたちを殺し、文明自体を滅ぼしたのもこのカビだと思われます。宇宙人が持ち込んだのかは定かではありませんが、宇宙人だけはそのカビに対する免疫があったようです。棺内に収められた宇宙人のミイラの布等に付着したわずかなカビは休眠状態に入り、3000年の時を経てX線照射によって、宇宙人と共に目覚めてしまったというわけです。
クリスタルを取り返そうとするミイラ男にもカビが付着しているため、ミイラ男に襲われた女性たちもカビが原因で重症を負ったり、中には死亡者もでてしまいます。そのため、ミイラ男による直接的な外傷よりもカビによるダメージの方が遥かに大きいです。
結局のところ、このカビが何なのかは明らかにされませんし、X線で増殖する理由も分かりませんが、個人的にはミイラ男よりも触れたら一発アウトのこのカビの方が驚異的に感じました。
そして!
ここから冒頭でも触れたZ級の酷すぎるラストシーンに差し掛かるんですけども、宇宙人は盗まれたクリスタルを全て回収し、おそらくは惑星と交信して、いよいよこれから宇宙に帰るというタイミングでようやっと包帯の下に隠された真の姿を披露します。
それがこちらです。
最後の最後になぜこんな低クオリティなエイリアンマスク姿の宇宙人を登場させたのでしょうか。
特殊メイク云々の問題ではなく、そこら辺のおもちゃ屋さんで売ってそうな被り物をただ被っているだけです。その後のカットでは若い刑事が必死に笑うのを堪えているようにも見えます。“お店で購入したマスクを何の加工もせずにただ被っただけ”というところに製作陣のこの作品に対するモチベーションがどのくらいものだったのかが伺えます。
これだけでも十分酷いんですけども、この後、警察の発砲から身を挺してその宇宙人を庇ったマッカデン教授は宇宙人と特に何か言葉を交わすこともなく、一緒に姿を消して地球を去ります。唖然とする警察や研究員は完全に蚊帳の外のまま、画面には「To be continued」の文字が現れ、物語は幕を閉じます。
これまで見てきた映画の中でもトップクラスに酷いオチでした。しかし、ここまで酷いと逆に印象に残りますし、愛おしく思えてくるから不思議なものです。
当時の製作陣はボケでもなんでもなく本当に今作をシリーズ化しようとしていたらしく、もしそれが実現していたら『マッカデン教授はなぜ宇宙人について行ったのか』、『X線で宇宙人が復活したり、カビが増殖する理由』、『そもそもなぜ宇宙人(旅行者)は地球にいて、3000年の眠りについていたのか』等の本編では未回収だった部分が明らかになったのかもしれません。
今よりも全ての面において遥かに寛容でおおらかだった80年代にも関わらず続編が作られなかったということは、よっぽど今作の評判が悪かったのでしょうか。こんなZ級映画の続編が作られる世界線も見てみたかったです。酷すぎるラストシーンも未回収の要素なども全部引っくるめてインパクト大の衝撃作でした。個人的には相当オススメです!
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