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全ての犯罪が許される日“パージ”再び!俺たちの命に優劣などない!社会派バイオレンススリラー第二弾「パージ:アナーキー」【ホラー映画を毎日観るナレーター】(705日目)

「パージ:アナーキー」(2014)
ジェームズ•デモナコ監督

◆あらすじ
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2023年のロサンゼルス。1年のうち12時間だけすべての犯罪が合法になる「パージ」の夜が今年もやってきた。ダイナーで働くシングルマザーのエヴァはパージに備えるが、貧しいため自宅の防御設備は不十分。そこへ謎の特殊部隊が侵入し、エヴァと娘を連れ出そうとする。ある目的から武装していた男レオは偶然2人の窮地を目撃し、見捨てられずに救出。街で逃げ遅れたシェーンとリズの夫婦も加わり、5人で行動を共にする。(thecinema.jpより引用)
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『年に一度、12時間だけ殺人等全ての犯罪が合法化される日“パージ”。貧困層の母娘、トラブルに見舞われた夫婦、そして復讐に駆られた警察官。偶然にも運命が交差したこの5人がパージを乗り越えるべく奮闘する』というなんとも暴力的な内容のバイオレンススリラー映画です。

前作から引き続きジェームズ•デモナコ氏が監督•脚本を担当しています。一見、その暴力的で荒々しい内容に目が行きがちな今シリーズですが、その根底には『社会に根付く経済格差や貧困問題とどう向き合っていくのか』そして『命の価値とは』という決して他人事では済まされない、誰しもが考えなければならない社会派なテーマがあるため、非常に見応えがあります。

前作はこちらから↓

内容が内容なだけに「面白かった!」とか「良かった!」という表現は正しくないのかもしれませんが、映像作品として素晴らしいことには変わりないと思います。

制作を請け負ったのは低予算ホラー映画に定評があることでお馴染みのブラムハウス・プロダクションズです。なもんで今作も製作費は900万ドルとアメリカの映画市場で考えると低予算の部類に入りますが、興行収入はおよそ1億1200万ドルと大ヒットを記録しました。※ちなみに前作は製作費300万ドルで興行収入は8900万ドル超え

映画.comより引用

今シリーズの肝となるパージに関する基本的な情報をまとめると(私が書いた前作の記事の引用なので知ってるよという方は読み飛ばしちゃってください)

経済が崩壊したアメリカにおいて“新しいアメリカ建国の父たち”通称NFFA(The New Founding Fathers of America)という集団が設けた法令のこと。年に1度、夜19時から翌朝7時までの12時間は殺人を含む全ての犯罪が許される。このパージ法の導入には国民の内にある攻撃性を放つことで精神を安定化させる効果があり、日頃の不満やストレスを合法的に発散できるため、逆にこの日以外は犯罪が起こらなくなる。その結果、犯罪率や失業率は低下し、経済は豊かになった。

•パージ当日はサイレンが鳴った時点でスタートとなり、翌朝にまたサイレンが鳴ったら終了となる。この12時間の間は全ての医療機関、警察、消防などは活動しない。

•パージへの参加自体は強制ではなく、安全を求める者は自宅等に隠れることも可能。

•参加者(パージャー)はどんな凶器を用いても構わないが、レベル4以上の物(具体的な説明は無いもののおそらくは戦車等の兵器や爆発物など)は使用禁止となっている。

•誰を殺しても許されるが、大統領や国が指定した政治家または権力者には危害を加えてはいけない。

というのがパージの大まかな設定になります。

経済が崩壊したアメリカにおいて9年前から政権を握ったNFFAはパージ法を施行し、犯罪率や失業率は軒並み低下。さらにはストレスを低減させる効果もあるなど、中流階級以上の国民は少なからずパージの恩恵を受けています。

しかしその実は、秘密裏にNFFAの指示の下、武装集団が自衛できない貧困層や病人たちを殺害することで人口の調整を行っており、『社会に貢献できない国民を排除することで経済を豊かにする』というのがパージ法の真の目的だということが今作で明らかになります。

「こんな恐ろしい法律があってはならない!」と声を上げる反パージ集団もおりますが、国民のほとんどはパージの時に貧困層がどれだけ嬲り殺しにされようが所詮は他人事。我関せずで見て見ぬ振りをしているのが現状です。

前作ではパージの設定や当日の様子、そして上流階級の主人公一家から見たパージが主に描かれていました。自分たちには関係の無いことだといつも通り見て見ぬ振りをするつもりだった主人公。しかし、息子がパージャー集団に狙われていたホームレスを助けてしまう。その結果、一家全員が過激なパージャーたちの標的となったことで主人公が家族を守るために戦うことを決意する、というこれまた新たな争いを生んでしまったわけです。

前作の主人公一家
「パージ」(’13)より(映画.comより引用)

『騒動前には関係性が冷え切っていた主人公一家がパージ(殺人)を経たことで家族の絆が修復されていく』というなんとも皮肉かつ見事な終わり方をした前作から、今作では“貧困層の母娘”、“中流階級の夫婦”、“パージを利用して復讐を目論む警察官”、という3つの視点から見るパージが描かれており、全てにおいて完全にグレードアップしています。これは映画の続編としては完璧な流れなのではないでしょうか。

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purgeは浄化、anarchyは無政府状態という意味がそれぞれあります。(Amazon.co.jpより引用)

◇2023年3月21日のロサンゼルス。数時間後にパージを控えたこの日、反パージ集団を率いるリーダーのカルメロはテレビをハッキングしてパージに対する異議を唱えている。しかしほとんどの人には彼の言葉を届かず、皆一様に足早に用事を済ませて帰路についていた。そんな中、飲酒運転によって息子を奪われた警察官レオは被害者に復讐を果たすべく、重装備で車を飛ばす。そんな折、買い物を済ませて帰宅途中だったシェーンとリズは車のトラブルで治安の悪いダウンタウンで立ち往生。その一方で困窮した生活を送っているエヴァは防犯対策もままならず、謎の武装集団に娘共々拉致されてしまう。

というのが今作の細かい序盤から中盤までの流れです。

映画.comより引用

今作のすごく良いところがあるゆる視点からのパージが描かれている点だと思います。

エヴァは娘のカリと年老いた父親との3人暮らし。病気の父親の薬代を捻出するのも一苦労で、ギリギリの生活を送るのがやっとの状態のいわば貧困層です。ボロアパートでの生活を余儀なくされ、パージ当日も防犯対策は精々ドアにベニヤ板や木材を打ち付ける程度。そのため、変態クズ隣人が強姦目的で侵入してきたり、NFFAの整理対象に選ばれたことで拉致されたりと散々な目に遭います。

エヴァと娘のカリ(映画.comより引用)

自らに死期が迫っており、薬を飲んだところで気休めにしかならないことを悟っていたエヴァの父はこれ以上娘たちに迷惑をかけるわけにはいかないと、パージ当日にこっそりアパートを抜け出し、娯楽目的で殺人を楽しむ富豪に10万ドルで自身の命を差し出してしまいます。あまりにもやるせない、胸が苦しくなるシーンなんですけども、エヴァたちの気持ちもエヴァの父親の気持ちも想像出来てしまうからこそ本当に辛いものがありました。

そしてごく一般的な中流階級の夫婦であるシェーンとリズは過激なパージャー集団に目をつけられてしまい、車に細工をされたことで帰宅途中のダウンタウンで立ち往生。逃げまわることを余儀なくされました。

シェーンとリズ
終盤でのリズの決意には胸を打たれます。
(映画.comより引用)

そして今作を最後の最後まで引っ張ってくれる警察官のレオは、過去に飲酒運転によって最愛の息子の命を奪わており、不起訴となったその加害者に復讐をするためにパージ当日に車を走らせていました。そんなレオがNFFAに拉致されているエヴァ母娘を目撃し、見過ごせずに助けてしまい、その間にシェーンとリズは偶然発見したレオの車に身を隠していたことで、この5人は行動を共にすることとなります。

一見バラバラで交わることが無さそうなこの5人がパージによって運命を共にするというのが非常に面白かったです。

復讐に駆られた警察官のレオ(映画.comより引用)

協力して困難を乗り越えて行く中で、パージ過激派やNFFAによって無残にも殺されていく人々や気が狂っていく住民を見せることでこのパージというものが如何に残酷かつ無慈悲なものであるかをしっかりと提示してくれます。

エヴァたちを狙うパージャー集団やNFFAも前作と比べるとべらぼうにキャラが濃くなっており、トラックの荷台から機関銃を乱射するエプロンおじさん(ビッグダディ)や地下鉄を改造バギーで爆走しながら火炎放射で市民を火だるまにする世紀末野郎等など、視覚でも我々を楽しませてくれます。

シンプルにお面を被っているやつらも相当怖いです。
(映画.comより引用)

クライマックスでなんとか人間狩りから逃げ果せたエヴァと娘のカリ、そしてレオはあと数十分でパージ終了となる中でレオの復讐相手である男の家に向かいます。エヴァたちの制止を振り切り、男の家に押し入るレオ。常に冷静で皆を守ってくれた頼もしいレオが、復讐相手を見つけるやいなや冷静さを失い、殴り倒して銃口を向けてしまうのがなんとも人間らしさを現しているようでした。

この後のレオの取った行動やそれに対するエヴァたちのセリフには込み上げてくるものがありました。つくづく脚本の妙を感じられる締め方で、本当に凄い作品だなと思いました。

あと、前作で主人公一家に助けられたホームレスの男性が反パージ集団の一人として再登場していたのが個人的にすごく嬉しかったです。あの日の騒動を経て己と向き合い、色々と考えた末に反パージ集団に加わったんだなという彼のバックボーンが想像できるうえ、「俺はあの日、ある一家に救われてな」みたいな前作の登場人物であることを匂わせる安っぽいセリフや演出が一切無かったのがすごく良かったです。

エドウィン・ホッジ氏演じるホームレスの男性
「パージ」(’13)より(映画.comより引用)

物語の終盤で富豪たちの人間狩りのターゲットにされてしまったエヴァたちは暗くて広い地下施設のような場所に放たれ、それを武装した金持ち連中が暗視ゴーグルを付けて、彼女たちを殺そうと追い回します。必死の抵抗の末、なんとか参加者を全員返り討ちにしたエヴァたち(主にレオ)ですが、主催者は怒り心頭。武装した大勢の警備員に包囲され一巻の終わり。しかし、そこへ突如として反パージ集団がなだれ込み、一瞬で場を制圧。エヴァたちを保護します。

この時に真っ先にエヴァたちの元に駆け寄り、安否を気遣った人物こそがそのホームレスの男性でした。

『気づける人だけ気づいてね。でも気づかなくても物語の理解度は変わらないよ』という我々視聴者に対する優しさもあって、私はデモナコ監督に一生ついて行きたくなりました。

非常に考えさせられる社会派のテーマを扱っているんですけども、その主張自体はそこまで押し付けがましくないのでただのバイオレンス映画として楽しむこともできます。あくまでも「感じ取ってくれる人は感じ取ってくださいね」ぐらいのスタンスなのが個人的には相当好きなポイントです。聞くところによると次作も相当面白いらしいので近いうちに視聴したいと思います!このシリーズは超絶オススメです。

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渋谷裕輝 公式HP↓


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