人間同士の無益な争いに対するアンチテーゼ!アングラ怪奇漫画チックな特撮SFホラー「吸血鬼ゴケミドロ」【ホラー映画を毎日観るナレーター】(649日目)
「吸血鬼ゴケミドロ」(1968)
佐藤肇監督
◆あらすじ
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羽田を飛び立ったジェット機は、空中でまばゆい光を放つ謎の飛行体と遭遇し、見知らぬ山中に不時着した。奇跡的に生き残った乗客の中には、暗殺者・寺岡の姿があった。寺岡は、生き残りの乗客を隠し持った銃で脅し逃走するが、岩陰に着陸しているオレンジに輝くUFOを発見、吸い込まれるように中に入っていく。寺岡の身体に憑依する恐るべき宇宙生物ゴケミドロ・・・。(Filmarksより引用)
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『宇宙生物ゴケミドロの出現による人間関係の崩壊、そして人類の破滅』を描いた特撮SFホラーで、松竹の特撮映画作品第二弾にして、初の特撮怪奇映画として製作されました。
手作り感満載の特撮とアングラな怪奇漫画のような世界観がマッチしていてとても面白かったです。それと同時に、ベトナム戦争や核問題などの当時の社会情勢を題材というかバックボーンにしており、『地球外生命体が愚かな人類の在り方に警鐘を鳴らす』という中々に社会派映画としての側面も持ち合わせております。
『シンプルに面白い特撮SFホラー』と『メッセージ性を感じる社会派作品』の両方を兼ね備えた本作は多くのクリエイターから愛されており、あのクエンティン・タランティーノ監督も今作の大ファンであることを公言しています。そして同氏が監督•脚本を務め、日活スタジオにて撮影された「キル・ビル」(’03)において、本作で非常に印象的だった『真っ赤な空』のオマージュが取り入れられています。
監督を務めた佐藤肇氏は「黄金バット」(’66)やTVドラマ版「悪魔くん」(’66〜’67)など、子ども向けの作品を得意としており、なんと1979年には「未来少年コナン」の劇場版の総監督も務めております。
余談ですが、この「未来少年コナン」の劇場版はアニメ版の総集編ではあったものの、かなり改変したようでアニメ版とは大分異なった雰囲気の作品に仕上がったそうです。そのため、その内容に賛否両論(というかほぼ否)巻き起こり、ファンからの評価は芳しく無く、急性声帯炎を押してまで出演を果たした主人公コナン役の小原乃梨子さんは非常に複雑な気持ちだったそうです。
元々はアニメシリーズ同様に宮崎駿御大自ら総監督を務めるはずでしたが、アニメシリーズの総集編を映画にするということには大反対で、アニメ全26話を映画館で上映するか、または完全オリジナルの続編を作ることを要求して東映と揉めに揉めたそうです。結果的に総集編を上映することが決まると宮崎監督は自らの名前をクレジットから外させて、作品に携わることは一切ありませんでした。
現在U-NEXT、hulu、FOD、Leminoで配信中のほか、アマゾンプライムでは400円、DMMTVでは440円でレンタルが可能です。
◇1960年代の日本。羽田から伊丹空港へ向かう小型旅客機がブリタニア大使を暗殺したテロリスト•寺岡にハイジャックされてしまう。しかしその直後、突然現れた火の玉と接触した旅客機は山中に不時着する。
生き残ったのは副操縦士の杉坂、CAの朝倉、テロリストの寺岡、精神科医の百武、オカルトに精通している生物学者の佐賀、大物政治家の真野、真野の腰巾着で兵器製造会社の徳安、徳安の妻であり真野の愛人である法子、未亡人の外国人女性•ニール、爆弾を持ち込んだ自殺志願者の松宮の計10人
不時着後、寺岡は銃を奪い朝倉を人質にして逃走。しかしその逃走中にUFOを発見した寺岡は何者かに導かれるかのように中に入っていく。すると突然寺岡の額が割れ、アメーバ状の何かが彼の中に侵入する。人の血を吸う宇宙生物ゴケミドロは地球侵略、そして人類滅亡のためにやって来たのだった。ゴケミドロに寄生され吸血鬼となった寺岡は次々と生存者たちを狙う。自分だけは助かろうとする者、争いを拒む者、気丈に振る舞う者、冷静さを失わない者、様々な人間ドラマが繰り広げられる…
という流れになっており、先述した通り背景には「人間同士の無益な争い」に対するアンチテーゼが込められています。
ゴケミドロによる脅威はもちろんのこと、エゴむき出しの醜い人間同士のやり取りもこの作品の見所です。
自分の妻を愛人にする真野にあえてウイスキーを飲ませて、後々喉の渇きで苦しませる腰巾着•徳安の陰湿さ、「外人だから後腐れがない」とニールを囮にしようする等、何度も周囲の人間を切り捨てる真野のクズっぷり、この状況をどこか楽しんでいるような百武、どうにか皆で助かろうと気丈にリーダーシップを取り続ける杉坂、夫をベトナム戦争で亡くしたことで争いを誰よりも嫌っていたにも関わらず、自分の身を守るために銃を取るニール等など
このあたりの人間性や心理描写が非常に魅力的で面白いです。
そして!
兎にも角にも今作は寺岡のインパクトが凄まじいです。
『ゴケミドロに乗っ取られて吸血鬼となるテロリスト』という難しい役どころを演じた高英男氏の本職はシャンソン歌手で、今作の脚本の「灰となって風に散る」という最後の部分を気に入り、オファーを受けたそうです。
ミステリアスで口数も少なく、ゴケミドロに乗っ取られてからはビームや超能力を使うわけでもなく、ただただ無表情でゆっくりとにじり寄り、首元に噛みついて全身の血を吸い付くします。
「喋らない」というのが逆に怖さを増幅しており、シャンソン歌手出身の端正な顔立ちの長身男が無言で迫ってくるのは絵的にも相当インパクトがあり、物凄く印象に残ります。実際、映画が公開されると行く先々で子どもたちから「ゴケミドロだ!」と指をさされ、怖がれていたようです。
『パカッと開いた額からゴケミドロに入りこまれて乗っ取られる』というセンセーショナルなシーンにおいて、“顔が割れる”という演出を提案したのは寺岡役の高英男氏だったそうで、それを聞いた佐藤監督は「いいねぇ、先生。これはなんとなく色気がありますよ」と大変乗り気で、そのまま採用となったそうです。
終わり方も非常に私好みで、「時が止まってしまったのでは?」と思わず錯覚してしまいそうな高速道路のシーンや商業施設の中で大勢の人が倒れているシーンから伝わってくる終末感。そして地球が茶色に覆われていき、人類がゴケミドロに支配されたことを示唆するラストが非常に味わい深くて堪りませんでした。
ちなみに、ゴケミドロという名前は元々パイロットフィルムを作成したピー・プロダクション創業者のうしおそうじ(鷺巣富雄)氏がよく立ち寄る西芳寺(苔寺の通称で知られる)と、前々から個人的に興味があったという深泥池(みどろいけ)から取った造語で、当初はコケミドロという名前でした。しかし、コケ(転ける)が入るのは興行的に縁起が悪いということからゴケミドロと改めたそうです。
その後、松竹で映画化した際に松竹宣伝課が独断で「吸血鬼ゴケミドロとは何か?」、「ゴ、ケミ、ドロとは三つの言葉が合成されて出来た言葉」という説明を広めてしまいました。
その結果、
という風にディテールをこれでもかと詰めに詰めており、本編ではほとんど活かされていないものの、非常にロマンのある魅力的な設定が出来上がりました。
☆この度ホームページを開設しました!
もしよかったら覗いてやってください。
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