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いったいどうしてこうなった?前作のシリアス路線から一転!少年とネズミの世にも奇妙な友情物語の行く末は…「ベン」【ホラー映画を毎日観るナレーター】(771日目)

「ベン」(1972)
フィル・カールソン監督

◆あらすじ
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前作『ウイラード』で飼い主の青年を殺したねずみのベンは近所の病弱な少年と仲良くなるが、警察ほかねずみ駆除に躍起になる大人たちに追い詰められる。(Filmarksより引用)
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『人間に恨みを持ったネズミ•ベンは人間に復讐を誓い、大群を引き連れては夜な夜な襲撃や略奪を繰り返す。そんなベンはある日、病弱な少年と出会い、そして友情を育んでいくが…』

という、ネズミと少年の友情物語をメインに描いたアニマルパニックホラーです。

先日視聴した「ウイラード」(’71)の続編にあたり、この前作が世界中で大ヒットしたことを受け、すぐさま製作に取り掛かったそうです。

前作では500匹もの本物のネズミを1年以上に渡って調教し、合図とともに『歯をむき出しにする』、『鳴き声を出す』、『人間や家具の上に駆け上がる』等など細かい担当を割り振り、計25のグループに分けられたネズミたちが人間顔負けの演技を見せることでも話題になりました。

この前作におけるネズミたちが一斉に人間に襲いかかるシーンは圧巻の一言です。さらには精神的に追い込まれていった主人公の情緒不安定ゆえの発言や行動の一つ一つに恐怖するとともに哀愁が感じられ、最後の最後まで目が離せない展開の連続で非常に印象深い怪作に仕上がっております。

前作の主人公ウイラードとネズミたち
「ウイラード」より(映画.comより引用)

そしてその大ヒットを受けて作られた今作は前作のシリアル路線から一転、病弱な少年とネズミのベンが心を通わせていく友情物語に軸を置いているため非常に心温まる内容になっています。

作中には歌唱や演奏シーン、パペットを用いたミュージカル調のシーンが多く、ファミリー層やお子様をターゲットにしていることが伺えます。実際のところ、当時は“ファミリー・サスペンス”という文言が宣伝に使用されたり、お子様用にと全ての漢字にルビが振ってあるチラシ等も作られたそうです。

また今作は主題歌が非常に有名な作品としても知られており、主題歌の「ベンのテーマ」を担当したのはなんと当時13歳のマイケル・ジャクソン氏です。

同氏はこの曲でソロとして初めての全米シングルチャート1位を獲得。ゴールデングローブ賞では最優秀主題歌賞を受賞、さらには同年のアカデミー賞にもノミネートされ、授賞式では同氏がパフォーマンスを披露するなど相当話題になったそうです。

切なさの中に暖かみがあり、作品の世界観にもマッチしている名曲です。日本でもかなりヒットしたそうで、YouTube等には当時のマイケル・ジャクソン氏が歌っている映像も残っているため、もしご興味がある方は是非ご覧になってみてください。

レコードも出てます。(https://natalie.mu/eiga/film/807797より引用)

これだけ見ると「ホラー要素は皆無なのでは?」と思うところではありますが、どうかご安心ください。

前作で500匹程だったネズミは今作ではそのおよそ4倍の2000匹が用意されており、一斉に人間に襲いかかったり、スーパーマーケットを荒らしたり、下水道で人間たちを迎え撃ったりとスクリーン内を縦横無尽に駆け回ります。なもんでしっかりアニマルパニックホラーとしてもスケールアップしており、楽しませてくれます。

構成自体はやや単調で、終盤までは『ネズミパニック』と『病弱な少年ダニーとネズミのベンの交流』が交互に描かれ、クライマックスではベンたちの住処を突き止めた警察や駆除業者が下水道内でネズミたちと死闘を繰り広げます。

このクライマックスの下水道の死闘はかなりの盛り上がりを見せますし、その後のラストシーンも胸が熱くなる非常に良い終わり方で、そこにマイケル・ジャクソン氏の主題歌が流れるという、映画として完璧な組み立てになっています。

主人公ダニーとベン(映画.comより引用)

なんですけども、惜しむらくはそのクライマックスに至るまでの構成が先述した通り単調な点です。

いっそのことダニーとベンの友情物語だけで進めてしまったほうが良いのでは?と思うほどに、この一人と一匹のハートフルなシーンが素晴らしいんです。

病弱で家からあまり出られず孤独を感じるダニー

前作でウイラードから裏切られたことで人間に恨みを抱くへそ曲がりのイタズラネズミ•ベン

そのどちらにも感情移入出来てしまいます。

ネズミに感情移入?と思われるかもですが、このベンがまぁ良い表情と演技を見せてくれるんですよ。本当にネズミ?と疑いたくなるほどに賢いですし、ぽっちゃりとしたフォルムも可愛らしく、絶対に好きになると思いますし、下手したらラストシーンのベンの表情で泣かされます。

天才ネズミのベン「ウイラード」より(映画.comより引用)

そのため、ベン率いるネズミ軍団が人間やお店を襲撃するシーンが完成度は高いんですけども、ともすれば雑音にすら感じてしまいます。前作のファンからすると本来であればこのネズミの脅威を描いているシーンが見たいはずなんです。ですが基本はハートフル路線なので、「今回はこういう心温まる映画として見なきゃなのか」と思っているところに、ちょこちょこと怖いシーンが差し込まれるため、少々中途半端というか、どっちかに振り切って欲しかったです。

どっちの路線でも絶対に面白くなるポテンシャルがあるとは思いますが、どっちもやろうとした結果、単調な構成になってしまったのかもしれません。個人的にはここだけちょっと気になってしまいました。

このチラシだと完全にハートフル路線ですね。(https://natalie.mu/eiga/film/807797より引用)

そんな今作の監督を務めたフィル・カールソン氏は主に40〜70年代に数々のアクション、ギャング、戦争映画を手掛けた大ベテランで、今作の翌年に発表した「ウォーキング・トール」(’73)など世界中で高い評価を受けた作品を多数生み出しています。また、脚本は前作に引き続きギルバート•ラルストン氏が担当していますが今作以降は活動が確認されていません。

ちなみに余談ですが、「ウイラード」、「ベン」はともに権利がややこしかったらしく、劇場公開以降は世界的に流通はせず、日本でもDVD化は2017年までずれ込んだそうです。劇場での再上映も企画されたそうですが、中々話がまとまらず、毎回立ち消えていました。

しかし権利の終了が迫る2022年、耐震性の問題によって2013年に取り壊しとなった映画館•銀座シネパトスの最後の支配人である鈴木伸英氏が「銀座シネパトス復活映画祭」と銘打ち、期間限定で池袋HUMAXシネマズでの上映にこぎ着けたそうです。

もし知っていたらぜひとも劇場で拝見したかったですね。大きいスクリーンでネズミの大暴れを見たかったです。

そんな今作は前作同様に配信などはなく、今後も難しいと思われます。私は西荻窪のTSUTAYAを利用させていただきましたが、おそらくはレンタルショップか購入以外の視聴方法はないかもです。

こっちのチラシはホラーっぽいですね。(映画.comより引用)

◇豪邸で無惨にもネズミの大群に食い殺された青年•ウイラード。屋敷の地下にはまだ夥しい数のネズミが潜んでおり、中でも一番賢いベンが全ネズミを束ねていた。そして駆除される前に大移動を始めたベンたちはウイラードの一件から人間に恨みを抱き、復讐を胸に誓っていた。そんな折、病弱で家からほとんど出られない心優しき少年ダニーは偶然ベンと出会い、仲良くなっていく。純粋無垢なダニーには心を開くベンたちだったが、夜な夜なトラックやスーパーマーケットを襲撃しており、その被害はいよいよ看過できなくなっていく。ネズミたちの蛮行を新聞で見たダニーはベンを匿い、周囲の大人たちに命の尊さを訴えかけるも聞く耳を持つ者はおらず、ついにはベンたちの住処が発見されてしまう…

というのが今作の細かめのあらすじです。

前作の終盤でベンと対峙するウイラード(https://m.imdb.com/title/tt0068264/より引用)

前作ありきの続編ではありますが、冒頭の約5分は前作のラストシーンをほとんどそのまま見せてくれるため、最悪前作を見ていなくても、この冒頭5分と

『気弱な青年•ウイラードはベンたちネズミを率いてパワハラ上司に復讐を果たすも、精神的に追い込まれた結果、ネズミたちを一方的に切り捨ててしまう。そして恨みを抱いたベンたちはウイラードに凄惨な復讐を果たす』

というところだけ分かっておけば全然大丈夫たと思います。逆に怖いのが苦手という方は今作の方がマイルドな仕上がりなので楽しめるかもしれません。

丸くて可愛らしいですね。(https://m.imdb.com/title/tt0068264/より引用)

先程も少し触れましたが、今作は“どう見るか”が非常に難しかったです。

シンプルに『ダニーとベンの友情物語』として見るのが一番分かりやすいですし、楽しめます。ダニーとベンの心温まる交流の数々、ダニーのソロ歌唱、ピアノで「ベンのテーマ」を即興で作詞作曲したり、大きな人形を用いたマリオネットショー等などこれでもかと子供と動物のやり取りを全面に押し出しています。

ですがホラー映画を毎日見る企画を行っている私としてはホラー部分に注目して見たほうがいいかと思い、そちらに注視させていただきました。

ネズミの大群が食料品を載せたトラックやスーパーマーケットを占拠するシーンの迫力は凄まじく、ここだけでも見て良かったと思えるレベルです。また冒頭で警官がネズミの隠れ場所を発見するシーンや下水道内で駆除業者を襲うシーンも出色の出来です。

また怖さの中にも少しコメディっぽさがあり、トレーニングジムを襲撃した際におばちゃんたちが大騒ぎしながら逃げ惑う様子は非常に滑稽で、なんならもっとこういうのも見たかったです。

ネズミを発見するジムトレーナー(映画.comより引用)

このあたりのネズミの脅威はとても良かったんですけども、前作のような“人の怖さ”みたいなものが無く、そこは少し残念でした。

また、何か騒動が起きるたびにたくさんの野次馬が集まるんですけども、その野次馬が揃いも揃って無表情&無口なのが正直すごい謎でした。不安や恐怖を演出したいからなのか分かりませんが、流石にこれは意図が伝わってきませんでした。

ベンのテーマの日本語版の歌詞も載ってます。(https://natalie.mu/eiga/film/807797より引用)

あと、これもまた重箱の隅をつつくようで大変恐縮なんですけども、“ベン”という名前の認識が作中ですごい曖昧な気がしました。

そもそもベンにベンと名付けたのは前作の主人公であるウイラードです。それを他者に言っている描写もありませんし、そのウイラードが死亡した今、ベンをベンと呼ぶ者は本来であればいないはずです。

なんですけども、たまたまなのかダニーはベンにベンと名付け、さらには警察たちもネズミを率いているその大きなボスネズミをベンと呼んでいます。

そして、ベンたちのスーパーマーケット襲撃事件を新聞で見た時に初めてダニーは警察たちが追っているネズミのボス•ベンが自分と仲良しのベンと同一ネズミであることに気づきます。

私が序盤で何かやり取りを見逃しているのかもしれませんが、『ベンという名前』や『ベンをベンとして扱う』といったところが雑というか、なあなあになっていると思いました。

ダニーとしっかり者の姉•イブ(映画.comより引用)

終盤は本当に文句無しの素晴らしい出来で、

下水道内の攻防は拳銃や火炎放射器を使用する人間側の優勢かと思われるも、ネズミの数が尋常ではなく、中々決着がつかない。そんな中、大怪我を負ったベンはダニーの元に戻り、ダニーも「必ず僕が助ける」と懸命に治療を施す。そんな彼の思いやりに触れたからなのか、ベンの目からは人間への恨みが消えたかのようで非常に穏やかな表情になる。

というところで物語は幕を閉じます。

ダニーがこれまた可愛いです。(映画.comより引用)

ホラー映画としては物足りないかもですが、少年と動物が登場する映画が好きな方は絶対に好きだと思います。前作との高低差があり過ぎて戸惑いましたが、これはこれでありなんじゃないでしょうか。

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